【完結済】小柄で陰キャ、オタクなあいつは、実は‥‥

天知 カナイ

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「どう思う?」
電話口の何とも言えない新條の声の調子に、音原はう~んと唸った。

音原はオタクだ。ゲームとアニメが好きで、あとちょっとだけ腐男子でもある。ちなみに腐男子であることは新條にもそこまで伝えてはいない、つもりだった。
しかし今や新條は、音原の事を男性同士の恋愛の達人であるかのように頼ってきている。どう対応すればいいのか。音原自身は勿論恋人いない歴がイコール年齢の人間だ。そんなやつがどの面下げて人の恋愛にアドバイスしろというのか。

しかし新條は本当にどうすればいいかわからない様子だった。嫌がっているわけでも困っているわけでもなく、単純に「どう接するのがいいのかわからない」と言った感じなのである。そういう偏見のないところが新條という人間の魅力で、だから自分も友人になったのだったな、と出会った時のことなんかに思いを馳せてしまっていた。
「音ちゃんの読んでる漫画とかだと、どんな感じで話が進むわけ?」

今まで全然BLに興味なかったアキがめっちゃ興味持ってる‥!

アキはどちらかといえば、人間関係の構築に力を入れないタイプだ。自分の好きなことに没頭して、それを邪魔するものはどんどん排除していく。オタク気質というか、あまり他に目を向けないのが新條秋親という男である。
だが不人情かと言えばそういう訳でもなく、困っている人や弱者と言われる人たちにはちゃんと親切にする人間らしさを持っている。ただそれを大っぴらにはしたくないようで、助け方が人目につかない形になっているが。
新條秋親は、目立つことが嫌いなのだ。

そのくせ、自分の主義主張は曲げないからそこにぶつかられると周りを気にせず意見(毒ともいう)を言う。上級生が新條の教室に向かっていったのを見た時には間違いなく新條が何かやったんだなと確信したほどだ。

そういう人間である、新條秋親が、弱って困っている。

今年から同じクラスになった笹井修一郎という男のせいだ。

音原は笹井とは知り合いではなかったが、そのガタイのよさとまあまあ整った顔かたちからクラスメイト達の噂になっているのを何度か聞いていたし、その顔も見知っていた。
笹井はいつも覇気がなく、世の中のことなんてどうでもいい、という顔をしていた。興味のあることにいつも一生懸命な新條とは真逆のタイプに見えた。
体格がいいから色々な運動部に誘われていたが、「デカいだけでトロいんで」と全ての誘いを断っていた。誰かとつるむでもなく、いつも大体一人でぼんやりしている男、それが笹井だ。‥と、思っていた。

ところが新條と同じクラスになって、笹井は急に「新條と友達になりたい」と言い出した。しかも理由は「新條が好きで、知りたいから」。
そんな、今どき漫画でも使われないような理由で友達になってほしいと明言するやつが存在するとは。
しかも、音原まで友達申請をされた。ほぼ新條のおまけ扱いだったが。
笹井は、何か喋るわけでもなく、大体は音原と新條が話すのを横で黙って聞いていた。時折質問をしてくるのだが、話の流れを邪魔しないようにタイミングや内容にも気を遣っているのがわかる。なんだ、顔はちょっといかついけどいいやつじゃん、と音原は思った。ただ、「新條が好き」という彼の意思表明をどうとらえていいかはわからないままではあった。

新條によれば、今日笹井は「性的な意味でも新條が好きだ」という意思表明をしてきたらしい。新條自身は恋愛自体をしたことがないので、相手が同性であることに忌避感はないと言う。ないんだ‥とは思ったがややこしいのでそこはスルーしておいた。

音原はごくりと唾を呑み込んだ。音原は腐男子ではあるが、特に自分の性的指向が同性なわけではない。単純に「エロいもの」として捉えた時にたまたまBLのエロいヤツの方が女子のエロいヤツより音原の感性に嵌まっただけである。
つまり、音原のBL好きは単なるエロネタ好きであり、他人に何かしら助言ができる立場ではないのだ。音原の嗜んでいるBLはもっぱらあんあんひいひい言ってる場面ばかりのものなのだ。
「あの‥アキごめん、俺の読んでるBLはさ、ほぼエロ本と変わんないから‥あんまアドバイスとかできない」
「そっかあ」
新條はそう言って黙り込んだ。何か考えているのか。ここはせっかく自分を頼ってくれたんだし、ぜひ何か言ってあげたい。音原は今まで読んだBL本の知識を猛スピードで総ざらえしていた。しかし音原が有用な知識を引っ張り出す前に、新條が爆弾を投じてきた。

「キスはしてみたんだけどさ、よくわかんなかったんだよな。まあそんなに嫌じゃなかったけど」
「へえあ?!」
音原は驚きすぎて一瞬携帯を放り投げてしまった。ベッドの足の方に転がった携帯から「え?お~い音ちゃん?」と新條が呼んでいる声が小さく聞こえてくる。
音原は慌ててベッドの方ににじり寄り、携帯を拾い上げた。そして恐る恐る尋ねてみる。
「ア、アキ、え、今日、笹井に、迫られたの‥?いや、キスしてみた‥って言ったよね、ええっまさかアキからキスしたの⁉」
「うん、何かわかるかなと思って」

変わり者だとは常々思っていたが、ここまで変わり者だとは想像していなかった。右手に携帯を握りしめながら音原はうなだれてはああと深いため息をついた。
もはや自分がどうこうできる事態だとは思えない。
「キスしてみたって‥アキなんでそんなに思い切りがいいんだよ‥。普通そのキスに至るまでに色々もだもだあるもんなんだよ!?」
ついつい、新條を責めるような口調になったのも仕方ないのでは、と思いつつ音原は言った。新條が「そうなんだ?」とあまり納得していないような口ぶりで返してくる。

他人事ながら、なぜ笹井はこんな変わり者を好きになってしまったのかと思わず同情してしまった。

「アキ、俺も恋人いない歴がイコール年齢の人間だからあまりいいこと言えないけど、あんまり笹井にその、キスとか、仕掛けるなよ?向こうも戸惑っちゃうかもしれないだろ?お前のこと好きって言ってるくらいなんだから」
「戸惑う‥」
あ~何もわかってねえな、と音原は思った。新條の好きな漫画やアニメのジャンルに、恋愛要素が入っているものはほぼないことをこのタイミングで思い出す。
「笹井はさ、アキの事が好きなんだからキスとかされたら自分のこと好きなのかなって期待しちゃうだろ?アキがまだ気持ちが定まらないってんなら、あんまりむやみに期待持たせるようなことをしない方がいいってことだよ」
「‥‥なるほど」
少し考えこんで、珍しく新條が神妙に返事をした。音原は、笹井俺に感謝してもいいぞ、と心の中で笹井に呼びかけながらとりあえず話が終わりそうでほっとした。何分この話は自分には荷が重すぎる。

「なあ、同性の恋愛って、何がゴールになんの?」

そこに再び新條が爆弾を投下してきた。‥ゴール?ゴールって何だ?
「ゴールって何?」
「いやあ、一応さ、異性だったら結婚てのがゴールみたいに言われるだろ。でも現状日本では同性の結婚は認められてないから、今現在同性同士で恋愛している人たちのゴールって何なのかなって思ってさ」
また何という重いテーマをぶっ込んでくるのだ。日本という社会の仕組みの根幹に切り込むような話題を、BL本をエロネタにしかしてない高校生に振らないでほしい。
「‥‥ごめん、アキ、その話題俺には重すぎてわからん。‥アキが自分で考えてみたらいいんじゃないかな‥」

音原は、頭の中でバンザイ降参ポーズをしながら日本の社会問題を無責任に友へと放り投げた。


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