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「‥という訳なんだけど、音ちゃんはそういうの詳しい?」
音原は一度口に入れた卵焼きをぼとりと落とし、俺は一口かじったパンをそのままグシャッと握り潰してしまった。
新條‥なぜ音原にすべて説明せねばならないんだ‥
音原も硬直して二の句が継げなくなっているぞ‥。
しかしそんなことには全く頓着せず、自分で作ったというデカい握り飯をがぶがぶかじりながら「やり方だよなあ」とか呟いている。
絶望した顔の音原がゆっくりとこちらを見てくる。その目には俺を責めるような、しかしまたちょっと同情するような複雑な色が滲み出ている。俺はいたたまれなくなってそっと視線をそらした。
「‥やっぱドラッグストアとかで訊いてみた方が早いかな?」
「「訊くな!!」」
期せずして俺と音原がハモった。新條はきょとんとして俺たちを見た。
音原ががっくりと首を垂れて、ハアアアアと地獄の底から湧いてくるようなため息をついた。
「‥アキの情緒が死んでるのは知ってたけど‥ここまでとは‥」
新條の情緒は死んでいたらしい。音原と新條の、俺の知らない一年間の結びつきがちらっと見えてちょっと羨ましくなった。音原はまさか俺に羨ましがられているとは全く思っていないだろうが。
新條は首を傾げつつ、もりもりと握り飯を咀嚼して呑み込んでいる。ごくん、と全部呑み込んでから言葉を継いだ。
「だって、よくわからねえんだよ。サイトによって書いていることが違ったりするし‥完全に綺麗にするなら病院に行ってそれ用のドリンク飲んだ方がいいって書いてあるところも、んが」
俺は耐えきれなくなって新條の首に手をかけて自分の方にぐんと引き寄せ、その口を手で覆って塞いだ。それを見て、今度は音原が完全に俺を憐れむような目で見てきた。
「アキ‥。そういう事はね、人前で言わないモノなんだよ‥」
「だってわかんねんだもん。他の人はどうしてんのかな?訊かねえの?」
音原は箸をいったん弁当の上に置いて、じろっと新條を睨んだ。
「訊くにしても高校の昼休みに教室では訊かない!!」
「へえ?」
全然ぴんと来ていない新條に、俺と音原のため息が重なった。音原は今度は俺の方を見ていった。
「笹井、本当にこれ大丈夫?」
「‥俺に訊かないでくれ‥」
新條の首から手を離し、自分の席に座り直した俺はそう返すのが精いっぱいだった。月曜の学校でこんなにも精神が削られるとは、この後残り四日間の学校生活をどう乗り切ればいいんだ。
いや、二週間後と新條には言われているから正確には後十三日間‥。
掌で無残に握りつぶされたあんパンをもそもそかじっている俺を、音原はちらっと見てから新條に小声で話し始めた。
「‥俺の持ってる本で洗浄とかについて結構詳しく書いたやつがあるから持ってくる。後は‥ローションとゴムはいるよ。男同士でもセーフセックス!絶対生ではしないこと!‥あとは、まあ浣腸とか?買えばいいんじゃない?‥それから拡張だよね‥一緒に今度ネットの商品を見てみようか」
「ほうほう」
新條は真剣な顔をして頷いている。‥俺と、セックスをするために、去年からの友達に、昼休みの学校内で、えぐい話をしている。
そしてなんで音原はやけに詳しいんだ。怖いからその理由は聞かないが、新條の傍に音原がいたことは、俺にとってよかったのか悪かったのか。
どういう精神状態でいればいいのかわからない。
味のしない潰れたあんパンを機械的に噛んでいる俺に、くるっと音原が視線をやった。そして少し厳しい顔をして言った。
「アキはちょっと情緒が莫迦だけど、すごくいいやつだから。ヤリ捨てなんかしたら俺だって許さない」
「しねえよ!」
すぐさまそう返した俺に、今度は新條がははっと明るく笑いながら言った。
「ひでえことしそうなら俺が笹井のケツを蹴り上げてやるから心配すんな」
‥身体能力的に新條はできそうなので、ちょっと怖い。
いや酷いことするつもりなんかはさらさらないが。
あっという間に二週間が過ぎた。
三つ駅を行ったところに徒歩で行けるラブホがあることも調べて、なんか予約もできそうだったのでおっかなびっくり予約した。
俺は普段、あんまり金を使う方ではなかったからホテル代には苦労せずに済む。
別のところで苦労しそうな気はしているが‥
昨日は、新條はずっとあまり元気がなく少し赤い顔をしていたので、今日の事を考えて憂鬱になったのでは‥と心配していた。同じく新條の異変に気付いた音原が「大丈夫?」と気遣って尋ねたところ、新條はこう言い放った。
「ああ、今日はさ、拡張のためにプラグを入れて来てるんだよな。そんで、何か少し違和感ある」
音原はそれを聞くなりすぐに俺のところのすっ飛んできて
「ねえアキがこんなことになっちゃってるけど、笹井はちゃんと責任とってくれるんだろうねえ!?」
と涙ながらにまくし立てていた。
その責任の取り方はどうすればいいのか、今のところ俺にもわからない。
「とりあえず、俺は新條のことは本気で好きだから」
と伝えることしかできなかった。
音原は顔を真っ赤にして「信じてるからね!」と言っていた。
音原は一度口に入れた卵焼きをぼとりと落とし、俺は一口かじったパンをそのままグシャッと握り潰してしまった。
新條‥なぜ音原にすべて説明せねばならないんだ‥
音原も硬直して二の句が継げなくなっているぞ‥。
しかしそんなことには全く頓着せず、自分で作ったというデカい握り飯をがぶがぶかじりながら「やり方だよなあ」とか呟いている。
絶望した顔の音原がゆっくりとこちらを見てくる。その目には俺を責めるような、しかしまたちょっと同情するような複雑な色が滲み出ている。俺はいたたまれなくなってそっと視線をそらした。
「‥やっぱドラッグストアとかで訊いてみた方が早いかな?」
「「訊くな!!」」
期せずして俺と音原がハモった。新條はきょとんとして俺たちを見た。
音原ががっくりと首を垂れて、ハアアアアと地獄の底から湧いてくるようなため息をついた。
「‥アキの情緒が死んでるのは知ってたけど‥ここまでとは‥」
新條の情緒は死んでいたらしい。音原と新條の、俺の知らない一年間の結びつきがちらっと見えてちょっと羨ましくなった。音原はまさか俺に羨ましがられているとは全く思っていないだろうが。
新條は首を傾げつつ、もりもりと握り飯を咀嚼して呑み込んでいる。ごくん、と全部呑み込んでから言葉を継いだ。
「だって、よくわからねえんだよ。サイトによって書いていることが違ったりするし‥完全に綺麗にするなら病院に行ってそれ用のドリンク飲んだ方がいいって書いてあるところも、んが」
俺は耐えきれなくなって新條の首に手をかけて自分の方にぐんと引き寄せ、その口を手で覆って塞いだ。それを見て、今度は音原が完全に俺を憐れむような目で見てきた。
「アキ‥。そういう事はね、人前で言わないモノなんだよ‥」
「だってわかんねんだもん。他の人はどうしてんのかな?訊かねえの?」
音原は箸をいったん弁当の上に置いて、じろっと新條を睨んだ。
「訊くにしても高校の昼休みに教室では訊かない!!」
「へえ?」
全然ぴんと来ていない新條に、俺と音原のため息が重なった。音原は今度は俺の方を見ていった。
「笹井、本当にこれ大丈夫?」
「‥俺に訊かないでくれ‥」
新條の首から手を離し、自分の席に座り直した俺はそう返すのが精いっぱいだった。月曜の学校でこんなにも精神が削られるとは、この後残り四日間の学校生活をどう乗り切ればいいんだ。
いや、二週間後と新條には言われているから正確には後十三日間‥。
掌で無残に握りつぶされたあんパンをもそもそかじっている俺を、音原はちらっと見てから新條に小声で話し始めた。
「‥俺の持ってる本で洗浄とかについて結構詳しく書いたやつがあるから持ってくる。後は‥ローションとゴムはいるよ。男同士でもセーフセックス!絶対生ではしないこと!‥あとは、まあ浣腸とか?買えばいいんじゃない?‥それから拡張だよね‥一緒に今度ネットの商品を見てみようか」
「ほうほう」
新條は真剣な顔をして頷いている。‥俺と、セックスをするために、去年からの友達に、昼休みの学校内で、えぐい話をしている。
そしてなんで音原はやけに詳しいんだ。怖いからその理由は聞かないが、新條の傍に音原がいたことは、俺にとってよかったのか悪かったのか。
どういう精神状態でいればいいのかわからない。
味のしない潰れたあんパンを機械的に噛んでいる俺に、くるっと音原が視線をやった。そして少し厳しい顔をして言った。
「アキはちょっと情緒が莫迦だけど、すごくいいやつだから。ヤリ捨てなんかしたら俺だって許さない」
「しねえよ!」
すぐさまそう返した俺に、今度は新條がははっと明るく笑いながら言った。
「ひでえことしそうなら俺が笹井のケツを蹴り上げてやるから心配すんな」
‥身体能力的に新條はできそうなので、ちょっと怖い。
いや酷いことするつもりなんかはさらさらないが。
あっという間に二週間が過ぎた。
三つ駅を行ったところに徒歩で行けるラブホがあることも調べて、なんか予約もできそうだったのでおっかなびっくり予約した。
俺は普段、あんまり金を使う方ではなかったからホテル代には苦労せずに済む。
別のところで苦労しそうな気はしているが‥
昨日は、新條はずっとあまり元気がなく少し赤い顔をしていたので、今日の事を考えて憂鬱になったのでは‥と心配していた。同じく新條の異変に気付いた音原が「大丈夫?」と気遣って尋ねたところ、新條はこう言い放った。
「ああ、今日はさ、拡張のためにプラグを入れて来てるんだよな。そんで、何か少し違和感ある」
音原はそれを聞くなりすぐに俺のところのすっ飛んできて
「ねえアキがこんなことになっちゃってるけど、笹井はちゃんと責任とってくれるんだろうねえ!?」
と涙ながらにまくし立てていた。
その責任の取り方はどうすればいいのか、今のところ俺にもわからない。
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音原は顔を真っ赤にして「信じてるからね!」と言っていた。
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