【完結済】小柄で陰キャ、オタクなあいつは、実は‥‥

天知 カナイ

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その後の二人 1

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笹井がため息をついている。
どうせ幸せのお惚気ため息だ。音原はわかっているのであえて何も言わずにスルーした。今日のお弁当は父親が作ってくれたやつなのでがっつりおかずが多くて食べ応えがある。でかめの唐揚げをむぐむぐ咀嚼している音原の前で、また笹井がため息をつく。
構ってちゃんか。

相方の新條は今日は委員会があるとかで早めに昼を食べてそちらに行っている。その隙に笹井が音原に何やら言いたいのだろうが、匂わせ男の何やらを拾ってやるほど音原は優しくはない。
「音原」
「何、ようやく自分からいう気になったか」
「わかってて無視すんの酷くないか」
「どうせアキのことだろ?‥惚気を聞かされるだけなのに‥‥どっちかって言うと笹井の方が酷いと思う」

去年からの友人である新條と、今年から何故か接点ができた笹井がめでたく付き合うことになって、早一か月。セックスしてから決めるという、新條のトンデモ発言には度肝を抜かれたし、莫迦じゃねえのと思ったが、まあ二人がほわほわ幸せそうなので良しとしよう。しかし、まさか目の前で生BLが見れるとは思っていなかった。
しかし生BLは文字通りなかなか生々しいのであまり話を聞かせてほしいとは思わないのだが。
笹井は、いかにも困っている、という顔を作って(絶対作っているに決まっている)、ため息をつきながら言った。
「チカがさ‥」
大体チカってなんだ。アキだと自分とかぶるから嫌だったのか、心の狭い男だ。
「エロ過ぎて困る‥‥」
「はーい了解でーすもうこの話終わりでーす」
音原はくるりと笹井に背を向けて弁当を膝に乗せた。一瞬でも仏心を出して話を聞いてやろうとした自分が莫迦だった。こいつらに仏心なんていらないのだ。
だって、リア充なんだから!

音原に背中を向けられた笹井は、後ろからぐいっと襟首をつかんで訴え続ける。
「頼むよ、音原にしか言えないんだからさ」
‥くそう、俺がそういう言葉に弱いと知っていながらの笹井のこの言葉。
そしてそれに負けて身体半分を笹井の方に向けてしまった時点で、もう愚痴という皮をかぶったのろけを聞かせられるのは確定なのだ。

「チカはさ‥あの、結構後ろもちゃんと感じるみたい、でさ‥」
なんだよ恥ずかしいなら最初から話すなよ。そう思いつつも無駄に知識だけはある音原は、さっさと話が進むようにアシストしてやる。
「ああ、前立腺が感じられるってことね。それで?」
笹井はぎょっとした顔をしつつも赤らめて、もごもごと言葉を続けた。
「でも、さ、俺たちがその‥出来る時って少ないだろ、そしたらさ‥」
あなた方のセックス頻度なんか知らんがな。
そう思いながらもまた大きな唐揚げをむぐむぐ食べていたら、笹井が続けた。
「チカが、『間が空くとさあ、後ろが疼くんだよなあ。道具入れて弄ったりしても浮気にカウントされる?』って‥これは、俺なんて言えば正解だったのかな‥」

音原は飲み込みかけていた唐揚げが急にのどに詰まってごふごふむせた。慌ててお茶を喉に入れて流し込みながら、涙目で笹井を睨んだ。
誰が好き好んで、友人のセックス事情を詳しく知りたいと思うだろうか。大体この二人は、音原がBL好きだから何でも許容できると勘違いしてはいないだろうか、BLは、えや活字で読むからいいのであって、生々しい友人のセックス事情はそこまで聞きたいわけではないのだ。
「‥知らないよ。そんなの二人で話したらいいだろ」
「俺は、チカのけっこう破天荒なところに惹かれて好きになったわけなんだけどさ‥」
笹井は全く音原の話を聞いていない。自分の言いたいことを全部言わずにはおられないようだ。音原は深いため息をつきながら、弁当の中身を消費することに集中することにした。
とりあえず、ふんふんと聞いていれば満足なんだろう、多分。
「へーそーなんだ」
「でも、つき合い出すと、そういうところにちょっと戸惑うっていうか‥」
「へーそーなんだ」
笹井は菓子パンを片手に、はああっとため息をついてうなだれる。

「最近、ゲイサイトとかいろいろ調べてるみたいでさ‥将来どうするかとか考えてくれるのは嬉しいんだけど‥」
「へーそーなんだ」
「『後ろってすっげえ気持ちいいから、笹井にも挿れてやりたいなあ。背が低くても挿入はできるっぽいからやってみる?あーそん時は俺に笹井の後ろ、拡げさせてほしいな』って言われて‥」
「へー」
「いや、俺はチカのためなら喜んで尻を差し出すつもりはあるけど、前処理段階からしてやりたいって言われると‥ちょっと‥」

前処理‥ってあれか。
「‥ねえ俺まだ飯食ってんだけど」
「あ、すまん」
笹井が素直に謝った。音原は弁当のふたをとじて笹井を横目で見た。
「結局さあ、笹井は何に困ってるわけ?」
「へ?」
盛大にきょとん顔をかましている笹井に、淡々と音原は言った。
「尻に道具入れたら浮気かって?ちげーよ、ですむじゃん。笹井道具も入れてほしくないわけ?そんならそう言えばいいよね?アキに突っ込まれたくないの?突っ込まれてもいい覚悟はあるんだよね?洗浄作業されたくないだけだよね?そんならそう言えばいいだけじゃん」
一気に言い切った音原に、笹井は口を少し開けたままぽかんとしている。
音原は弁当の包みを手に提げて立ち上がった。珍しく教室外の踊り場前ベンチで昼を食べていたのだ。

「あとはもう、二人でどうにかしなよ。じゃね」
音原はそう言い捨てるとサッサと自分の教室に戻っていった。

後に残された笹井はまた、はあ、とため息をついた。
わかっている、他人が聞けば、ただの惚気にしか聞こえないであろうことは。
しかし笹井は本当に困っているのだ!新條が‥エロ過ぎることに。
新條は素直に気持ちいい事が好きで、セックスにもほとんどためらいがない。だから、我慢している笹井の気持ちも知らずに、学校の中や放課後外で会っている時などにどんどん煽るようなことを言ってくるのだ。

「アナルセックスの頻度って、どんくらいが適切なのかな?」
「あんまりしょっちゅうしてたらさ、ケツが馬鹿になるって書いてあるサイトとかもあって‥でも、シュウだって機会があればしたいよな?」
「なあ、なんかゴムも色んな種類あるらしいぞ!今度通販で買ってみていい?」
「シュウ、ちゃんと俺でイケてる?」
「シュウはどんくらいしたい?」

やめて!外でそういう話題を普通の声の大きさで話すのはヤメテ!

笹井は何度も心の中でそう叫ぶのだが、新條の曇りなき眼を見ているとそれが口に出せない。
「あ、いや、わかんねえな‥」
「した‥い、けど、こうやって会ってるのも、楽しい、ぞ」
「しゅ、種類?って、サイズ以外に何が‥?」
「イ、イケてる!めっちゃいいぞ、いつも!」
「ど、どんくらい‥?むずいな‥」

つき合い出して一か月。挿入まで伴ったセックスをしたのは、まだ二回。
スタートがセックスだっただけに、今後どうやってつき合っていけばいいのか笹井はすっかり迷路に迷い込んでいた。


新條は会議室のドアを閉めて鍵をかけ、職員室に急いだ。もうすぐ予鈴が鳴る、次は移動教室だから急がないと間に合わない。
職員室のキーケースに鍵を返し、ダッシュで階段を上がる。階段ダッシュは中学までいつもやっていたので新條にとっては全く苦ではない。その速さに驚いて振り返っている生徒もいたが気にせず教室へ急いだ。
教室前までくると、教科書やノートを小脇に抱えた笹井の姿が見えた。
「チカ、当番がもう鍵閉めたからチカの分の荷物とっといた」
「え、ありがと、助かった」
新條が礼を言うと、笹井はふわっと笑った。

かっこいいよなあ。
新條はその顔をじっと見て思った。笹井は自分のことは「普通」だと言うが、新條から見れば身体もがっちりしていてかっこいいし、顔だって少しいかついけどイケメンと言われる部類だと思う。

最初は、変なやつだな、と思った。陽キャ特有の、自分とは違うものに興味本位で近づいてきて飽きたら去っていく、そういう扱いなのかと思っていた。
だが、笹井はそもそも陽キャっぽくなかった。戸倉というへらへらした奴はいかにもな陽キャで、そいつと話していることが多かったからそうかと思っていたのだが、よく観察していると笹井は割合無口だった。
初めて話したのは、席が隣になった時だ。ふと気づけば笹井にじっと見られていることに気づき、何か言いたいことでもあるのかと聞けば別に何もない、という。
変なやつだな、と思った。
その次は新條が風邪をひいて学校を休んだ翌日だ。身体を労わられて驚いた。

次は‥思わず新條が拳を振るった時だ。
しかし笹井は、学校でもその事に触れないでいてくれた。ただお礼を言うだけで騒がずにいてくれた。新條は、喧嘩のことや自分の強さについて何か言われるのが嫌だったからそれは本当に助かったし、いいやつだな、とも思えた。

まあ、その後のストーカー発言からの性的に見てる発言で一気に話が進んでしまったわけだが。

新條秋親は、今まで恋愛感情を抱いた事がなかった。友達もどちらかと言えばかなり少ない。奇跡的に高校に入って音原と仲良くなれたが、中学までは無視まではされないまでもかなり遠巻きに見られていた。
それもこれも、物心つくかつかないかの頃からトレーニングばかりさせてきたじじいのせいだ、と新條は思っている。

新條には、強くなれるだけの環境と遺伝子があり、たまたま強くなってしまったが別にそれを望んだわけではなかった。どちらかと言えば格闘技はそこまで好きではない。ただ、小柄なこともあってか(中学までは160cmないくらいだった)、絡まれることが多く、それを振り払っていたら喧嘩が強いやつだと認識されてしまい、面倒なことに巻き込まれることが増え、うんざりしていた。

だから高校は少し遠いところを選んだ。
特に友人などいなくてもいいと思っていた。自分の趣味に生きるのだ。勉強は将来の邪魔にならないから、そこそこ頑張って普段は趣味三昧だ、と考えていたら、ばっちり趣味の合う音原と出会って友人になった。

そして今年、クラス替えで出会った笹井修一郎。少し付き合ってみれば、いいやつなのはすぐにわかった。しかし、欲を孕んだ恋情を向けられるとは想像していなかった。
そしてその向けられた恋情が、心地いいと感じることも。
だからセックスしてみたいと思った。身体を触れ合わせながらその心を覗いてみたい。そう思ったのだ。

結果、セックスは最高によかった。
準備や拡張作業は少し大変だったが、信じられないほどの快楽を得られた。自分が莫迦になるんじゃないかと思ったくらいだ。笹井の熱い陰茎が何度も身体のナカを擦っている時、最高に気持ちよかったし幸福感に包まれた。
何度だって身体を重ねたい、と思った。

そこで、新條の心にある感情が芽生えた。
(シュウは、本当に俺の身体で満足なのか?)
というものだ。
新條とて、一般的にはセックスは男女でするものだと認識している。なぜか笹井に忌避感がなかったのですんなりセックスはできたが、後々話を聞いてみれば、別に笹井は男しかいけないヤツではないようだった。
と、いうことは、いつか笹井に好きな女ができた場合、新條はフラれる可能性が高いということだ。普通に考えて男とヤるより女とヤッた方が気持ちいいのだろうし。
新條自身は、自分から女性を好きになる想像があまりできなかった。というよりも、誰かを好きになる想像ができない。逆に今、笹井に対して好きだという気持ちがあるのが自分で不思議なくらいである。
せっかく、好きになれたのに、フラれるのは悲しい。

だから新條は、笹井を引きとめるべくエロで釣ろうとしているのだ。
まあ、貧相な自分の身体にどれだけの魅力があるかわからないが、努力はすべきだろう。
この新條の想いが笹井を困惑させていることに、新條自身は全く気づいていなかった。
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