【完結済】小柄で陰キャ、オタクなあいつは、実は‥‥

天知 カナイ

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その後の二人 2

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「泊まりたい」
その新條の言葉に、一瞬笹井は固まった。
「‥え?」
新條は眼鏡をずり上げ、下から笹井を見上げた。
「夏休み、どっかで泊まりたい。もっといっぱいセックスしたい」
笹井はごくりと唾を飲み込み、辺りを見回した。騒がしいファストフード店では、新條の言葉はあまり響かなかったようでほっとする。
窓に向いたカウンター席に二人で隣り合って座り、少ししなっとなったポテトを義務のように口に運びながら、夏休みについて話しているところだった。新條の発言に笹井は声を潜めて返事をした。
「‥こんなところでデカい声でいう事じゃないだろ‥」
「そうか‥?ごめん」
新條は素直に謝ってオレンジジュースを口に含んだ。

笹井はじっと新條を見つめた。
正直、泊まりは魅力的だ。そうなれば一晩新條を寝かさない未来しか見えない。‥しかしそれは、新條にとって負担になってしまうのではないか。
笹井にとって新條はどんなに強くても、小柄でセックスすると腰が痛くなってしまう守るべき存在だった。
しかし、あれだけ強い新條に『俺お前のこと抱き潰したいけど体力大丈夫?』と聞くのも躊躇われる。
新條の裸体は、小柄ながらしなやかな筋肉に覆われていて腹もしっかり割れていた。腰に負担はかかっても新條が体力がないということはあり得ないだろう。それに比べて自分は‥。笹井は自分の身体と、体力の事を考えると目が遠いところを見てしまう。そもそも新條を抱き潰せるのか俺。
とりあえず笹井は初めて新條とセックスした日から、腹筋を始めていた。

あっ、新條の腹から腰にかけてのあの感じを思い出しただけで、あっ。

「シュウ?どした?腹でも痛い?」
やや前かがみになった笹井に新條は怪訝そうに声をかけてきた。お前の裸を想像してちんこ勃った、とは言えない笹井だった。
笹井が脳内ヒーリングミュージックを必死に再生して鬼リピしている時に、新條は言った。
「‥なあ、シュウは俺と泊まりに行ったりするの、気が乗らねえ?」
笹井は、新條の少し寂しそうな口調に驚いてその顔を見た。新條は、普段あまり言葉に感情を乗せない。だがこのところ、笹井は自分と話している時に新條がこのようなふっと昏い顔をして話すことがあるのに気づいていた。

新條は、素直に、笹井と泊まりで出かけたかっただけなのかもしれない。
まだ二回しかセックスはしていないが、二回目の時も何度も身体を重ねて、新條はきもちいいと何度も艶めかしく喘いでいた。‥‥新條も、セックスは好きなのかもしれない。というか高校生男子は多分全員好きだろう。
ただ、セックスしたいと言ってはいるが本当は‥ひょっとしたら単純に笹井ともっと一緒にいたいと思ってくれたのかもしれない。
笹井はそう考えてすぐに答えた。
「そんなことない!新條と一緒にいられるだけで、俺は嬉しいから」
笹井はそう言ってオレンジジュースのカップを握っている新條の手に自分の手を重ねてそっと握った。笹井は、人並みに恥ずかしいという感情は持ってはいたが、人前でいちゃつくことにはそれほど抵抗がないという、こちらも一風変わった認識を持つ男だった。
音原の苦労も推して知るべし、である。
新條はそう言われて、にっと笑った。
「じゃ、行こ?どこ行きたい?」
そこから二人で、出かける先を色々と検索しまくり調べまくり、費用はどれくらいかけられるかなどを熟考しまくった。


期末試験も何とか乗り切って(とはいえ新條は今回も学年で十三位には入っていた)夏休みになった。
笹井は夏休みの前半はアルバイトをして旅行のお金を貯めることにした。運送会社で、日によって引っ越し作業と荷物の仕分け作業をする仕事である。期末試験の結果がほぼほぼ中の中だった笹井に、新條はちょっと眉を顰めて「お前、バイトよっかもう少し勉強した方がいいんじゃないか?」と言われてしまったが、いやいや、お前とのラブラブお泊りのためにバイトを優先します、という気持ちでへらりと笑ってごまかした。

新條は授業態度はあまりよくなかったが勉強自体は怠らない生徒だった。新條曰く「勉強はやっておいても邪魔にならない」ということで、勉強ができた方が将来の選択肢が広がる、という考えを持っていた。そういうところも、笹井は新條を尊敬し好きだと思う部分ではあったのだが、とにかくこの夏は新條との旅行のためにバイトをすることに決めた。‥勉強は、休みが終わったら取り組もう、と言い訳している。

笹井は一学期あまり家に寄りつかなかったのだが、その原因を新條に訊かれ、仕方なく経緯を話した。そして新條に鼻で嗤われた。
「いやそんな、シュウ。それはないわ。ガキじゃあるまいし。‥親がいちゃつきたがってそうだったらイヤホンでもして音楽聞いとけばいいだろ?親が幸せならそれに越したことはないじゃん」
あっけらかんとそう言い放たれて、笹井は茫然とした。自分が悶々と心の中に抱いていた違和感は何だったのか、と思った。そのくらい、脳内が一気に晴れ渡った気がしたのだ。新條の言い草を聞いていると、自分のもやもやとした気持ちなど全く大したことではなかったような気がしてくる。
「そっかあ‥」
繁華街を彷徨わなくなってからは、新條と出かけることで家を避けていた笹井は、新條にそう言われてから気負うことなく家に帰れるようになった。その変化を、父も義母も驚くほど喜んでくれた。ああ、心配をかけていたんだな、とその時初めて笹井は気づき、また新條に対しての気持ちが膨らむのを感じたのだった。

新條はつき合えばつき合うほど、笹井にその魅力を見せてくれる。笹井はどんどん新條に自分の心が傾くのを感じていた。もともとめっちゃ好きだ、と思っていたのに、好きの上限はないのかもしれない‥と莫迦なことを考えてしまうくらいだ。
バイトの合間を縫って、新條にも時々会う。新條は意外に笹井の勉強の事を気にしてくれて、課題は終わったかなどといちいちチェックしてくれた。親に言われればウザいなと思いそうなことも、新條に言われれば全くそんなふうには思わなかった。

新條は新條で、笹井と付き合えばつき合うほどなぜ笹井は自分を好きになってくれたのかがわからなくなっていた。興味本位だったのだろうと最初は思っていたが、二人で逢うと笹井はとても優しい目つきで自分を見つめてくれる。その優しい目で見つめられる甘さに、どんどん溺れそうな気がして新條は怖かった。身内以外で、このような優しい感情を向けられたことがほとんどなかったのだ。
笹井はあまり勉強することにも関心がないようだったが、新條が勧めれば嫌がらずにきちんと取り組む。新條の意見は、ほとんどの場合取り入れてくれる。おそらく笹井には興味もないだろう、新條の好きな漫画やアニメ、ゲームの話にでも何時間でも耳を傾けてくれる。

音原と話している時でさえ、ここまでよく聞いてもらえたことはない。あまりの居心地の良さに新條は空恐ろしくなってくる。‥‥こんな感情を受け取ることに慣れてしまったら、それをなくした時の喪失感はいかばかりだろうか。
最初に笹井に好意を伝えられた時からすると考えられないほど、新條は自分が笹井に捉われていると感じていた。笹井との心地いい時間を失いたくない。だが、そのために自分は何をすればいいのかわからない。
新條に思いつくことは、結局肉欲しかなかった。せめて、セックスが気持ちいいと思ってもらえれば簡単に捨てられることはないんじゃないか。
そう言った気持ちが、新條に「二人での旅行」を提案させたのだ。


お盆も過ぎた夏休み後半の頃、笹井と新條は近場の温泉地にやってきていた。新條はあわよくばずっと旅館に籠っていようと狙っていたので、あまり観光するようなところではなく、保養地のような温泉地だ。
駅に降り立てば、ほのかに硫黄のような匂いがする。温泉なんだなあと笹井はその匂いを吸いこんだ。
そこからバスに乗って旅館に向かった。土地が違うとバスの内装や雰囲気も違っていて面白いな、と二人で話しているうちについた。旅館は古いようだが清潔で、客もそこまで多くなく雰囲気のいいところだった。ここを探し出したのは新條だったので、「結構当たりだったな」と嬉しそうに笑っていた。笹井はその顔を見てまた可愛い‥と心の中で悶えていた。
昼食を食べていなかったので散策がてら温泉街へ出向いた。真ん中に川が流れていて、その両岸に温泉宿や飲食店、土産物屋などが立ち並んでいる。温泉の地熱を利用した蒸し饅頭や蒸し料理なども売られていて、二人で目移りしながら歩いた。

「楽しい」
新條がぽつりと言った。その声が、内容とは裏腹にとても寂しそうに聞こえて笹井は思わず新條の顔を見た。新條は少し下を向いていたので、前髪と眼鏡が邪魔をして表情があまり見えない。
「チカ」
「楽しいな、シュウ」
やはり、寂しげな声だった。新條は笹井に目を合わせることなく少し前を歩いていく。笹井はぐっと新條の肩を掴んで歩くのを止めた。
「チカ」
そして新條の顔を少ししゃがんで覗き込む。新條の大きな眼鏡の向こうにある小さな黒い瞳が、じわりと滲んでいるのがわかった。
「チカ、どうした?‥何か、悲しいのか?俺何かしたか?」
まさか泣きそうになっていたとは思っていなかった笹井は吃驚して、思わず焦りながらそう尋ねた。新條は眼鏡を取って腕でぐいと目の辺りを擦る。
「はは、なんでかな、眼鏡してんのにゴミ入った、かな」
「チカ」
笹井は、辺りを気にすることなく新條を抱きしめた。新條は驚いてすぐに腕を突っ張って笹井の腕から逃れようとした。
「おい、ダメだろ、笹井」
「チカがそんなこと言うのおかしい」
「‥‥なんで」
「いつもチカは、そういうの気にしないだろ。‥そして、ゴミじゃないだろ」
笹井の手が、新條の背中と頭をぎゅっと抑えて自分に押しつけている。

笹井の匂いがする。
そんな事さえ、わかるようになってしまったんだな、とぼんやり新條は考えた。

俺、めっちゃシュウが好きじゃん。
恋愛なんて、どういうものか全然わかってなかった。
でも、シュウのせいでわかってしまった。
ずっと気になる。ずっと考えてしまう。
そして、すっと心配になって不安になる。いつまで好きでいてもらえるのか。いつかこの関係が終わってしまうのか。

男女なら結婚というゴールもあるけど、日本では同性の恋愛だと公式には何も保証されない。パートナーシップ制度だって何を確約してくれるものでもない。
新條は色々調べてみたのだ。しかし現状、日本では何がしかの法的繋がりを持ちたいと思えば、養子縁組を結ぶしかなかった。
しかも、養子縁組を結んでしまえば、その後婚姻を結ぶことはできなくなる。法改正が行われた場合にも結婚することはできなくなる。
詰んでるな、とパソコンの画面を見ながら考えた。

「シュウ」
「ん?」
「俺、シュウが好きだ」
笹井は、新條の切迫した口調に身体を離してその顔を見ようとした。新條は顔を上げてくれない。
「チカ。俺も好きだよ。すごく、好き」
「うん」
「チカ」
新條が黙って顔を笹井の胸にすりつけてきた。
「‥‥俺も好き」
笹井はへらッとにやけるのを我慢して新條の身体を囲い込んだ。道の端っこで男子高校生二人ががっしり抱き合っているこの風景を、あまり周りの人は気にしていないように見える。新條の髪の毛に鼻を突っ込んで匂いをかいだ。ふわっと汗と新條の香りがする。

「でも、シュウがいつまで俺のこと好きでいてくれるか、わかんないだろ」
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