王都の魔法学園のいんちき魔法使い 〜魔法なんて使えなくても世界最強〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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卑怯者

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 太った少年チームは、ティアバイソンを狙っていち早く飛び出した。
 体型の割に早い動きで取り囲み、あとはショートソードを持った色黒の少年がジリジリと後方から迫っていく。

 怒らせる前に一撃で仕留めるつもりのようだ。
「フラン、今だっ!」
「は、はいっ」

 ソーマが指を合図を出すと、フランはすぐさま詠唱を始めてファイアーバレットを放つ。
 この大会、他人に直接危害を加えるのは反則だが、獲物の横取りは認められている。
 フランの放ったファイアーバレットは威力も申し分ないし、当たればティアバイソンを怯ませることも容易いだろう。

 しかし、フランのその魔法はティアバイソンの足元に放たれた。
 水や風、地魔法よりも物理的な威力はないため、地面の石や土が飛び散ることもほとんどない。

 まぁ、この魔法を見て影響があるのは、むしろ三人の少年たちである。
「なにしやがんだ!」
「危ねぇじゃねーか!」
 ティアバイソンを囲む二人は怒りを露わにし、もう一人の色黒の少年も斬りかかるタイミングを失ったようだ。
 大成功だった。

 ソーマたちは少年たちの横を通り過ぎて、ティアアニマルの多くいる林の中へと走っていく。
 最中に後方から歓声が聞こえてくるが、倒したのではなく熱い戦いが始まったせいだろう。
 ファイアーバレットのせいで興奮したティアバイソンは、真っ先に目の前の太った少年めがけて突進していたのだ。

 遠くから司会の声も聞こえてくる。
「もちろん今回も防御魔法の第一人者、ペストリー先生とそのお弟子さんにご協力いただいております!
 ご覧いただいたように、危険だと判断した場合は速やかに対応できるように待機してもらっていますので、ひきつづき元気よく参りましょうー!!」

 おそらく地魔法かなにかで、ティアバイソンの突進を防いだのであろう。
 本来なら大怪我になって祭りどころではないような状況だが、さすが異世界といったところだとソーマは感心している。

「今のうちにティアラビットを狩るぞ」
 ソーマもまたやる気はそれほど無いのだと言いながらも、祭りとなれば自然と気持ちが昂ってしまう。
「さすが師匠っス!
 あんな嫌がらせされたら俺でもブチ切れると思うっスよ」
「あ……あんまり怖いことしたくないよぉ。
 仕返しされないよね……?」

 仕返しももちろんされるだろうけれど、とにかく今はティアラビットを探しながらスタート地点から離れることを意識する。
 それなりに離れてから周囲を確認すると、真っ先にフランが何かを確認した。
 大きな木を背にしたティアラビットだ。

「こっちに気付いているみたい。
 魔法なた届くけど……この距離じゃ避けられちゃうよね」
「お、俺も当てられる自信が無いっスよ……」
「いや、フランはわかるけどオルトは自信満々だったじゃん」

 あれだけやる気だったオルトまでも、いざ狩れるチャンスがきたら怖気ついている。
 ソーマも狩りは初めてだったが、オルトもまた狩ったことなど無かったらしい。

「僕もゴブリンかスライムくらいしか……」
 ソーマはポケットから何かを取り出して、親指と人差し指に付けた指輪で挟んでいた。

 次の瞬間、『パキッ』と音を立てて何かが砕ける。
「倒したことは無いけど……ねっ!」

 指の先から砕けた魔石が飛んでいく。
 純粋に魔石から溢れた、マナによる風圧をソーマは動かす。
 とは言っても、何度もやっていることではないので、要領がうまくつかめない。

「きゅっきゅっ?!」
 異変を感じ取ったのか、ティアラビットはすぐさま跳んで逃げようとした、が。

 ソーマの放った風圧が一歩早く、ティアラビットは風圧に負けて大木に打ちつけられていた。

「すっげぇ!
 なんスか、今の魔法??」
 オルトはこれでもかと騒ぎ立てる。
 さすがに力のことを言うつもりはなかったが、ソーマも割と気分はよかった。
 そして、近くにいたもう一匹が逃げていくのを追うこともできたのだ。

 幸先のよいスタートだとは思うものの、ティアバイソンの得点を超えるためにはまだまだ狩らなくてはならない。
 
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