王都の魔法学園のいんちき魔法使い 〜魔法なんて使えなくても世界最強〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

文字の大きさ
42 / 51

あっという間

しおりを挟む
 ペストリー先生が教壇に立ち、その隣に立たせた一人の男を生徒たちに紹介する。

「今日から特別授業の講師を務めてくれるスルト先生だ」
 黒い衣装に身を包んだ男は、生徒達を一瞥すると小さく息を整える。
「俺の名はスルトル=メ=ナイアス。
 隣国ヴィルツゥスカ出身だが、見聞を広めるために各地を旅している。
 専門は……まぁ失われた魔法の研究といったところだが、簡単なことならば質問にも応じれよう」

 挨拶は何の変わりもないものであったが、その中でただ1人驚いている者がいた。
 以前、異変があった時に街の入り口で出会った男だったのだ。
 ソーマは口を開けて、呆気に取られた表情でスルトを見る。
 質の良い服装ではあったが、名前から考察するに貴族なのだろうか?

 そもそもこの世界において、貴族とは名ばかりな場合が多く、畏れ敬うほどの存在ではないと習う。
 何百年も前に起きた精霊戦争と呼ばれる世界大戦以前は、権力を笠に着てやりたい放題だったとも聞くのだが、今では名残で名乗っている者を除けば王族かその繋がりくらいだという。

「先生は彼女がいるんですかー?」
「旅をしているって、前はどこにいたんですか?」
 そんな魔法とは関係のない質問が続き、旅がカッコいいだの容姿が素敵だのと生徒の私語はなかなか止まなかった。

 また、昔話も交えた変わった授業も人気だった。
 この世界で当たり前とされる精霊を介した詠唱による魔法ではなく、マナが大気中にもたらす現象を理論づけた考え。
 大昔には魔法が使えない国もあり、そこでは前世でいう化学の様な研究もされていたようだ。

「今では誰もが魔法を使える様になって、昔みたいな争いごとも少なくなったわけだね」
 最後にそう言って授業は終了。
 魔法と言うよりも歴史の授業に近いものだったが、随分と好評の様だ。
 教室を去ろうとするスルトに、生徒の数名は課外授業はやるのかと聞いていた。
 いわゆる部活動みたいなものだが、ソーマも古代魔法の授業は気になってしまう。

「古代魔法っスかぁ……それに今よりも街が栄えてたって本当なんスかねぇ?」
「どうなんだろう?
 大昔に戦争があったっていうのは聞いたことあるけど」
 オルトもフランも、スルトの話に興味津々。
 1人魔法を使えないソーマは、少しだけ寂しい気分になってしまった。

 翌日からもまた、わずかな時間ではあったが、ソーマたちのクラスに特別授業が行われた。
 魔石や杖、魔法使用時の理論は、確かに現代の考えとはかけ離れている。

 1週間……2週間が過ぎ、その違和感は顕著に現れる。
 既に生徒の大部分は理解が追いつかずに、授業に身が入っていないのだ。
 そりゃあ分子レベルの話をこの世界でしたところで、そもそもその様な概念が無いのだから仕方ない。
 風が吹いて、水が湧き、火は燃えて、そして大地に作物が実る。

 理由なんて魔法の使える世界ではそこまで重要じゃないのかもしれないし、だからこそソーマも今まで黙っていた。
 酸素と水素が、と言ったところで理解がされないのだ。
 では酸素とは何か……などソーマには説明のしようもなかった。

 しかし、スルトの授業はそんなことお構いなし。
 マナの複合においても、ケノンが知らないマナ同士の力の差異による影響までも説明をする。
 他には魔道具を作るのに適した金属、その加工方法。

 とある日に、スルトは一言呟いていた。
「……いるものはこんなところかな?
 じゃあ……会える時を……」
 小さな声でソーマをジッと見て呟いていた。
 それがソーマにはほとんど聞き取れなかったのだが、何かあるのだろうと感じたソーマには恐怖心もあった。

 そして翌日には、スルトの姿は学園から消えてしまったのだった……
 
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

処理中です...