45 / 51
リダクション
しおりを挟む
「終節の一文だけで魔法が発動できるなんて、ありえないわよっ!」
中庭へと急ぐタリアが、不満を漏らし、それをソーマたちが追いかけ後ろを走る。
話を聞いてフランも不思議そうにする。
「終節って、魔法の名前を叫ぶところだよね?
そこまでリダクションできるなら、無詠唱でいけるんじゃないの?」
「さ……さぁ? ちょっとわからないけど」
無詠唱の使い手フランの当たり前は、タリアには通じないようだ。
詠唱には決まったパターンがある。
まず初めに序節として、どのような属性の力が必要になるのか。
精霊はこの序節を聞いて、次の節に耳を傾けるのだ。
逆に言えば、この序節が無い場合は基本的には魔法は発動しない。
簡単な『火の精霊よ』とだけでも言えばいいだけであり、これは『私は今から火魔法を使うよ』と言っていることになるのだ。
ここを破棄したい場合、自身のマナの質を火の精霊に近づけて同族に成り代わることが必要だと考えられている。
要するにフランが最初に行う、イメージによるマナの変質だ。
これが割と難しいので、余計にマナを失うし、威力も乏しくなってしまう。
さすがに威力自体はそこまで大きくはないのだとタリアは言う。
「でも、エーテル先生でもまともな威力を出すには2節の破棄が限界だって言ってたのに……」
いや、フランがそれを言ってはエーテル先生が当て馬にしかかんじられないじゃないか。
次の起節が対象を指す。
正面に向かってなのか、その場に留まるのか。
難易度は上がるが、複雑な軌道を描くことも可能である。
問題は、思っている軌道と詠唱により出来上がった軌道には、かなり差異が生じてしまう点である。
なので、多くの場合は『かの者』『仇なす者』といった、対象物に真っ直ぐ向かうように使われる。
消費する魔力もそこそこで、狙いを定める必要が無くなるからだ。
これは割と楽に破棄できて、エーテル先生もここから削るのが良いとまで言っていたくらいだ。
何せ、多くの場合は進むか止まるの2パターンになるのだ。
体内で行なっていたマナの移動訓練の延長。
難易度はかなり上がるが、魔法を使える者であれば基本はわかっている。
それを体外でも行えるように訓練するだけである。
「使うのはファイアーバレットだけなんだけど、フラッグにギリギリ届く距離まで飛ばせるみたい。
私なんて、全詠唱してもせいぜい20メートルよ……」
そんな話を聞いているうちに中庭へ到着し、そこでは多くの生徒に混ざって3人の男子生徒と女性教師がファイアーバレットの練習をしていた。
「ほら、イエローのカーナ先生よ」
黒髪に黒い衣装の女性教師。
首にかかった担当クラスを象徴する黄色い宝石のネックレスが、唯一の色味であろうか。
「次……」
「ファイアーバレット!」
発動した火の弾は、確かに小さく威力も心許ないが、それが詠唱破棄でできたものならば十分すぎるほどである。
大会のルール上、フラッグに近づくことのできる限界ラインは15メートル。
さすがに限界まで近づくと、防衛側に丸見えなので基本は手前の20メートルラインで攻撃が行われる。
そして一般生徒の魔法では、この20メートルがギリギリのラインなのだ。
つまり、最初から優秀な生徒しか参加ができないとも言われている。
「真っ直ぐ打つ練習中だってさ……
あんな魔法を本番でバンバン撃たれたら、私たちのフラッグなんてすぐに全滅しちゃうわよ」
まるで苦虫を噛み潰したようなタリアの表情。
そこに杖を抱えたポーラもやってくる。
「私もあれ見ちゃったら、参加するの嫌になっちゃったよ」
しばらく間を置いて、再びファイアーバレットが放たれる。
さすがのフランも、その完成度の高さには脱帽のようだ。
「本当ね、イエローってすごく魔法が上手な子が多いのね」
「違うわよ、カーナ先生があの3人だけ自分の管理棟で特訓させてたらしいのよ。
他のイエローの子が言ってたんだから、多分本当なんだと思う」
そう言って指差すタリアのその先には、同じイエローだというのに3人を睨む様子の生徒たち。
残り2節が、発節と終節で、終節はつまり魔法の名前。
ファイアーバレットと叫ぶことで、精霊には『魔法の詠唱はここでおしまい』と伝えるのだ。
このタイミングをわざと遅らせる人もいるが、その分時間がかかり余計な魔力を消費することにも繋がる。
発節には力の大きさと具体性が盛り込まれるが、ここが一筋縄ではいかない。
フランが詠唱文字を覚えられないと言っていた多くは、この発節だった。
『燃え盛る』のか『猛る』のか『轟々と』か、ただ『明滅せし』なのか。
どこの日本の厨二言葉かと思ったが、確かにこの言葉の意味を正確に捉えるのは難しいだろう。
ソーマですら理解は難しいし、そもそも声にして発することもしたいとは思っていなかった。
中庭へと急ぐタリアが、不満を漏らし、それをソーマたちが追いかけ後ろを走る。
話を聞いてフランも不思議そうにする。
「終節って、魔法の名前を叫ぶところだよね?
そこまでリダクションできるなら、無詠唱でいけるんじゃないの?」
「さ……さぁ? ちょっとわからないけど」
無詠唱の使い手フランの当たり前は、タリアには通じないようだ。
詠唱には決まったパターンがある。
まず初めに序節として、どのような属性の力が必要になるのか。
精霊はこの序節を聞いて、次の節に耳を傾けるのだ。
逆に言えば、この序節が無い場合は基本的には魔法は発動しない。
簡単な『火の精霊よ』とだけでも言えばいいだけであり、これは『私は今から火魔法を使うよ』と言っていることになるのだ。
ここを破棄したい場合、自身のマナの質を火の精霊に近づけて同族に成り代わることが必要だと考えられている。
要するにフランが最初に行う、イメージによるマナの変質だ。
これが割と難しいので、余計にマナを失うし、威力も乏しくなってしまう。
さすがに威力自体はそこまで大きくはないのだとタリアは言う。
「でも、エーテル先生でもまともな威力を出すには2節の破棄が限界だって言ってたのに……」
いや、フランがそれを言ってはエーテル先生が当て馬にしかかんじられないじゃないか。
次の起節が対象を指す。
正面に向かってなのか、その場に留まるのか。
難易度は上がるが、複雑な軌道を描くことも可能である。
問題は、思っている軌道と詠唱により出来上がった軌道には、かなり差異が生じてしまう点である。
なので、多くの場合は『かの者』『仇なす者』といった、対象物に真っ直ぐ向かうように使われる。
消費する魔力もそこそこで、狙いを定める必要が無くなるからだ。
これは割と楽に破棄できて、エーテル先生もここから削るのが良いとまで言っていたくらいだ。
何せ、多くの場合は進むか止まるの2パターンになるのだ。
体内で行なっていたマナの移動訓練の延長。
難易度はかなり上がるが、魔法を使える者であれば基本はわかっている。
それを体外でも行えるように訓練するだけである。
「使うのはファイアーバレットだけなんだけど、フラッグにギリギリ届く距離まで飛ばせるみたい。
私なんて、全詠唱してもせいぜい20メートルよ……」
そんな話を聞いているうちに中庭へ到着し、そこでは多くの生徒に混ざって3人の男子生徒と女性教師がファイアーバレットの練習をしていた。
「ほら、イエローのカーナ先生よ」
黒髪に黒い衣装の女性教師。
首にかかった担当クラスを象徴する黄色い宝石のネックレスが、唯一の色味であろうか。
「次……」
「ファイアーバレット!」
発動した火の弾は、確かに小さく威力も心許ないが、それが詠唱破棄でできたものならば十分すぎるほどである。
大会のルール上、フラッグに近づくことのできる限界ラインは15メートル。
さすがに限界まで近づくと、防衛側に丸見えなので基本は手前の20メートルラインで攻撃が行われる。
そして一般生徒の魔法では、この20メートルがギリギリのラインなのだ。
つまり、最初から優秀な生徒しか参加ができないとも言われている。
「真っ直ぐ打つ練習中だってさ……
あんな魔法を本番でバンバン撃たれたら、私たちのフラッグなんてすぐに全滅しちゃうわよ」
まるで苦虫を噛み潰したようなタリアの表情。
そこに杖を抱えたポーラもやってくる。
「私もあれ見ちゃったら、参加するの嫌になっちゃったよ」
しばらく間を置いて、再びファイアーバレットが放たれる。
さすがのフランも、その完成度の高さには脱帽のようだ。
「本当ね、イエローってすごく魔法が上手な子が多いのね」
「違うわよ、カーナ先生があの3人だけ自分の管理棟で特訓させてたらしいのよ。
他のイエローの子が言ってたんだから、多分本当なんだと思う」
そう言って指差すタリアのその先には、同じイエローだというのに3人を睨む様子の生徒たち。
残り2節が、発節と終節で、終節はつまり魔法の名前。
ファイアーバレットと叫ぶことで、精霊には『魔法の詠唱はここでおしまい』と伝えるのだ。
このタイミングをわざと遅らせる人もいるが、その分時間がかかり余計な魔力を消費することにも繋がる。
発節には力の大きさと具体性が盛り込まれるが、ここが一筋縄ではいかない。
フランが詠唱文字を覚えられないと言っていた多くは、この発節だった。
『燃え盛る』のか『猛る』のか『轟々と』か、ただ『明滅せし』なのか。
どこの日本の厨二言葉かと思ったが、確かにこの言葉の意味を正確に捉えるのは難しいだろう。
ソーマですら理解は難しいし、そもそも声にして発することもしたいとは思っていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として
たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。
だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。
一度目では騙されて振られた。
さらに自分の力不足で全てを失った。
だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。
※他サイト様にも公開しております。
※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる