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魔法練習
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能ある鷹は爪を隠す。
大賢は愚なるが如し。
鳴かない猫は鼠捕る。
手の内は簡単には晒さない方がいいとは、よく言ったものだ。
フランが詠唱破棄できる事実は、クラスのほとんどが知る事実だが、その詳細までは知られていない。
起節の破棄なら、大人の間では割とメジャーな方で、子供でもできる人はいる。
そんな魔法を見せられると、やはりフランでも太刀打ちできないのかと思ってしまうのが、タリアたちである。
「赫赫たる炎の精よ……我が内に在る力は汝のために。
矢を形取る力をもって、あるいは二重に重なり三重にたたまれ……射抜け、ファイアーバレット!」
タリアたちに請われて仕方なくフランは魔法を見せる。
これでもかと長い詠唱の、どこが省略されたのかと言われれば、かなり難しくも感じてしまう。
的の無い宙空に魔法を放ったフランは、ジッと前を見据えている。
その先距離は20メートル。大会の練習用に用意された丸太が幾つも並んでいた。
「なんだ? アイツ空に向かって魔法を撃ってるぞ?」
「詠唱も長いし、あれじゃ試合中に妨害されちまう」
周囲で見ていた生徒は、フランの放った非常にゆっくりと打ち上がった火の玉を見て、思い思いに喋っている。
フランもあまり人前では無詠唱は使わないが、別に手を抜いたつもりはなかった。
このゆっくりとした軌道は、起節を省略した今のフランにとっての限界でしかないのだ。
だから、それ以外では可能な限り詠唱の力を借りている。
その結果、遅く勝手の悪そうな魔法の出来上がりとなった。
だが、遅くとも理想に近い挙動は描けているようで、上空で停止した火の玉は分散して、これまたゆっくりと丸太に向かって落ちていく。
「やった、上手くいった!」
うまくできたものだから、フランは手放しで喜んでいた。
半分は的を外したものの、5つの丸太に魔法が直撃。
その間、詠唱を除いても10秒ほどの時間がかかっていて周囲にはクスクスと笑う者もいる。
当然、周りの生徒がその認識なのだから、タリアもポーラも心配してしまう。
「私たち……フランの魔法に期待しすぎてた?」
「うん……無詠唱だって聞いたことあったから、私ももっと凄いんだと思ってたわ」
遠巻きに見ているソーマたちの近くで、肩透かしをくらったような二人。
フランだって日々の練習のおかげで魔力は多いとはいえ、他の生徒よりほんの少し多い程度。
カーナ先生も『起節の省略は基本中の基本だが……』と呟く。
何か言いたげではあったが、『今日はお終いだ』と声をかけると、それを聞いたイエローの3人組もニヤニヤとしながら去っていくようだった。
ただ、ソーマとオルトは難易度の高さをよく知っていた。
「お疲れ様、フラン。
あんなに維持できるなんて、かなり上達したじゃん」
「マジすげぇっスよ。
俺なんて、多分1秒ももたないっス」
それを聞いてフランも嬉しくて笑みが出る。
時間もあったので、研究棟へと戻りタリアたちにも軽く説明をするソーマ。
詠唱破棄にも種類があり、その難易度の違いがあること。
フランが破棄して自身で補った部分が魔法の挙動に関する箇所であること。
「ちょっとでも気を抜いたら分散しちゃうから、維持するのが大変だったわ」
そして、自身の身体から離れていくマナを制御することがどれだけ高難度なのか。
「え……じゃあ、こんな難しいことを長い時間やっていたわけ?!」
タリアたちにもマナの体外制御を経験してもらうと、すぐにフランの凄さが伝わったようだった。
そして詠唱破棄にはいくつかの方法があることを、エーテル先生から聞いたことはあった。
一つは魔道具による固定魔術を用いた方法。
魔道具には魔石が用いられており、そのマナの質によっては魔法の補助を促すことも可能である。
多くの魔道具は体内のマナと影響しあい、身体能力や魔法効果の向上が見込めるもの。
ただ、稀に魔道具に文字を刻むことが可能らしいのだ。
それが物理的な意味合いなのか、比喩表現なのかはエーテルも知らないときた。
ただ、そういった魔道具は希少ゆえに非常に高価。
魔道具に精通している者ならばあるいは簡単に入手もできるのかもしれない。
当時のフランにはさっぱり理解できなかったのだが、今ならなんとなくではあるが理解できていた。
「序節か発節あたりを刻んだ魔道具なら、終節の一文だけで魔法を使うこともできるんじゃないかしら?」
ただし、学園のちょっとした大会でそんなものを使っていいのだろうか?
タリアも『ズルい!』なんて言っていたが、どうにもその可能性は低いような気がしていたソーマであった。
大賢は愚なるが如し。
鳴かない猫は鼠捕る。
手の内は簡単には晒さない方がいいとは、よく言ったものだ。
フランが詠唱破棄できる事実は、クラスのほとんどが知る事実だが、その詳細までは知られていない。
起節の破棄なら、大人の間では割とメジャーな方で、子供でもできる人はいる。
そんな魔法を見せられると、やはりフランでも太刀打ちできないのかと思ってしまうのが、タリアたちである。
「赫赫たる炎の精よ……我が内に在る力は汝のために。
矢を形取る力をもって、あるいは二重に重なり三重にたたまれ……射抜け、ファイアーバレット!」
タリアたちに請われて仕方なくフランは魔法を見せる。
これでもかと長い詠唱の、どこが省略されたのかと言われれば、かなり難しくも感じてしまう。
的の無い宙空に魔法を放ったフランは、ジッと前を見据えている。
その先距離は20メートル。大会の練習用に用意された丸太が幾つも並んでいた。
「なんだ? アイツ空に向かって魔法を撃ってるぞ?」
「詠唱も長いし、あれじゃ試合中に妨害されちまう」
周囲で見ていた生徒は、フランの放った非常にゆっくりと打ち上がった火の玉を見て、思い思いに喋っている。
フランもあまり人前では無詠唱は使わないが、別に手を抜いたつもりはなかった。
このゆっくりとした軌道は、起節を省略した今のフランにとっての限界でしかないのだ。
だから、それ以外では可能な限り詠唱の力を借りている。
その結果、遅く勝手の悪そうな魔法の出来上がりとなった。
だが、遅くとも理想に近い挙動は描けているようで、上空で停止した火の玉は分散して、これまたゆっくりと丸太に向かって落ちていく。
「やった、上手くいった!」
うまくできたものだから、フランは手放しで喜んでいた。
半分は的を外したものの、5つの丸太に魔法が直撃。
その間、詠唱を除いても10秒ほどの時間がかかっていて周囲にはクスクスと笑う者もいる。
当然、周りの生徒がその認識なのだから、タリアもポーラも心配してしまう。
「私たち……フランの魔法に期待しすぎてた?」
「うん……無詠唱だって聞いたことあったから、私ももっと凄いんだと思ってたわ」
遠巻きに見ているソーマたちの近くで、肩透かしをくらったような二人。
フランだって日々の練習のおかげで魔力は多いとはいえ、他の生徒よりほんの少し多い程度。
カーナ先生も『起節の省略は基本中の基本だが……』と呟く。
何か言いたげではあったが、『今日はお終いだ』と声をかけると、それを聞いたイエローの3人組もニヤニヤとしながら去っていくようだった。
ただ、ソーマとオルトは難易度の高さをよく知っていた。
「お疲れ様、フラン。
あんなに維持できるなんて、かなり上達したじゃん」
「マジすげぇっスよ。
俺なんて、多分1秒ももたないっス」
それを聞いてフランも嬉しくて笑みが出る。
時間もあったので、研究棟へと戻りタリアたちにも軽く説明をするソーマ。
詠唱破棄にも種類があり、その難易度の違いがあること。
フランが破棄して自身で補った部分が魔法の挙動に関する箇所であること。
「ちょっとでも気を抜いたら分散しちゃうから、維持するのが大変だったわ」
そして、自身の身体から離れていくマナを制御することがどれだけ高難度なのか。
「え……じゃあ、こんな難しいことを長い時間やっていたわけ?!」
タリアたちにもマナの体外制御を経験してもらうと、すぐにフランの凄さが伝わったようだった。
そして詠唱破棄にはいくつかの方法があることを、エーテル先生から聞いたことはあった。
一つは魔道具による固定魔術を用いた方法。
魔道具には魔石が用いられており、そのマナの質によっては魔法の補助を促すことも可能である。
多くの魔道具は体内のマナと影響しあい、身体能力や魔法効果の向上が見込めるもの。
ただ、稀に魔道具に文字を刻むことが可能らしいのだ。
それが物理的な意味合いなのか、比喩表現なのかはエーテルも知らないときた。
ただ、そういった魔道具は希少ゆえに非常に高価。
魔道具に精通している者ならばあるいは簡単に入手もできるのかもしれない。
当時のフランにはさっぱり理解できなかったのだが、今ならなんとなくではあるが理解できていた。
「序節か発節あたりを刻んだ魔道具なら、終節の一文だけで魔法を使うこともできるんじゃないかしら?」
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