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ノーワードと魔族と
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そもそも詠唱破棄ないし、無詠唱というものは、それほど今の世の中では必要とされていない。
精霊戦争のあった時代ならばそうでもなかっただろう。
そのちょっとしたタイムロスが死に繋がり、魔法の名前を叫ぶことは相手に対策されやすいという一面も持っている詠唱魔法。
しかし、子供の持つわずかな魔力でも使えるという便利さが重要視されて失われていった、ともされている。
「私は、将来エーテル先生みたいになりたいから……かな?」
「そうなんだ。
フランがそこまで言うんだから、エーテル先生って人、すごい人なんだね」
結局残りの時間は雑談になっていたのだが、タリアもポーラも詠唱破棄には興味をもってくれているようだった。
ただ、一つ訂正をするならば……
「その日暮らしで、全身をゴブリンの血で染め上げた変わった人だったかなぁ」
「あ、ソーマくんもやっぱり変な人だと思ってたの?」
「そりゃあ、金遣いは荒いし男に迫られても表情一つ変えないし」
決して尊敬する人物ではなかったが、人間としては嫌いではなかった。
そんな陰口みたいなことを、タリアたちも交えて喋っていたわけだが……
「誰が変な人って?
久しぶりに顔を見せようと思ったら、私のこと随分な言種みたいじゃない?」
カチャリと開かれたドアから、よく見た顔が覗き込んでいる。
白い服には、相変わらず緑色の飛び血がベッタリと。
「「エーテル先生?!」」
ソーマとフランの声がハモる。
そろそろ進級に向けた学園祭があるということで、会いにきたついでに成長ぶりの確認もしたかったそうだ。
久しぶりの対面にフランとエーテルの会話に花が咲く。
「3小節の省略は、確かに魔道具があればそこらの子供でも不可能じゃないわ。
まぁ、フランが無詠唱までできる方がよっぽど驚きだけど……」
「わ、私なんかまだまだ魔力も低いし、思ったように魔法が使えないから……」
「謙遜されると、同じ詠唱破棄の使い手として傷つくのだけど?」
「えっ、あ……ごめんなさい……」
花というよりは雑草程度の会話だったろうか?
ソーマもまだ魔法は使えないのだし、そのことにもエーテルは不思議でならなかったようだ。
「まぁいいわ。
あんたたちが子供だから、あまり詳しいことは言うもんじゃないと思ってたからね。
詠唱破棄について勉強してるなら、少しは昔のことも教えてあげるわよ」
家庭教師みたいなことをしていた時は、戦争のことにはあまり触れないでいたそうだ。
もちろん精霊戦争のことだが。
エーテルの話では、精霊戦争前の時代は、全ての人が魔法を使えたわけではなかったらしい。
多数の醜い争いがあり、その多くは魔法の便利さを欲したが故に起きたものだということだ。
当時、人と言ってもまだ多くの種族が存在していた。
いや、今でもどこかで人間ではない別の種族は存在しているだろうが、それはすぐ近くでも生活を営んでいたそうだ。
精霊戦争の発端は、クリスタル。
そのクリスタルは精霊の依代であるとされていた。
つまり、クリスタルのあるところに魔法あり。
どこの国もクリスタルを我が国のものにしようと策略を練っていたそうだ。
「召喚獣とか出てこないよね?」
ソーマは、とあるゲームを思い出してエーテルに聞いてみる。
ただ、当然ながらエーテルにはなんのことかはわからない。
魔族と呼ばれる種族の元に、一際大きなクリスタルは存在していた。
またそのクリスタルの影響を受け、人間族も近くで暮らしていたそうだ。
互いの種族同士も割と仲が良く、争いの相手といえば小人族か霊樹族が多かった。
「めっちゃファンタジーやん」
「聞いたことない名前だけど、ソーマくん、知ってるの?」
「ん……多分?」
フランは知らないようだし、オルトもタリアたちもハテナマークが頭に浮かんでいるようだ。
その当時は魔法も発展していて無詠唱も割と当たり前だった。
しかし、それだけでは飽き足らない一人のヒュムが、闇の魔法に手を出したという。
その人物の名が、どうしてかエーテルの知っている人物と同じ名前だと言うのだ。
まぁ……名前が一緒なんてことは良くあることだろう。
その闇魔法に関する前後の話はよく知らないそうだが、エーテル曰く魔族とヒュムの戦いの末に、そのどちらもが命を落としたと言い伝えられているそうだ。
そしてクリスタルはヒュムの手によって砕かれた。
同時期に、各地にあったクリスタルも自然と砕けたそうなので、全てのクリスタルは一つであったとも言えたのかもしれない。
さて、その結果どうなったのか。
「魔法の効果はとても弱まった。
そして争う目的も失い、そもそも遠くの国へと移動する手段さえも失ってしまった。
なぜならクリスタルの力が及ばない地域には、強力な魔物が存在するからよ」
魔法とは、今では詠唱ありきのものとなっている。
それは以前よりもクリスタルの力が弱く、その分膨大な魔力を消費するためで、それを緩和できる手段がそれしかなかったからだとも言われているそうだ。
「当時は魔力が高ければ、小さい子だろうと戦いにかり出されたらしいわね。
今じゃそんなことはないけれど、多くの国や街は消滅したともされてるわ。
どっちが幸せなのかは、私たちじゃわからないんだろうね……」
少し寂しそうな表情を浮かべ、エーテルは語っていたのだった。
精霊戦争のあった時代ならばそうでもなかっただろう。
そのちょっとしたタイムロスが死に繋がり、魔法の名前を叫ぶことは相手に対策されやすいという一面も持っている詠唱魔法。
しかし、子供の持つわずかな魔力でも使えるという便利さが重要視されて失われていった、ともされている。
「私は、将来エーテル先生みたいになりたいから……かな?」
「そうなんだ。
フランがそこまで言うんだから、エーテル先生って人、すごい人なんだね」
結局残りの時間は雑談になっていたのだが、タリアもポーラも詠唱破棄には興味をもってくれているようだった。
ただ、一つ訂正をするならば……
「その日暮らしで、全身をゴブリンの血で染め上げた変わった人だったかなぁ」
「あ、ソーマくんもやっぱり変な人だと思ってたの?」
「そりゃあ、金遣いは荒いし男に迫られても表情一つ変えないし」
決して尊敬する人物ではなかったが、人間としては嫌いではなかった。
そんな陰口みたいなことを、タリアたちも交えて喋っていたわけだが……
「誰が変な人って?
久しぶりに顔を見せようと思ったら、私のこと随分な言種みたいじゃない?」
カチャリと開かれたドアから、よく見た顔が覗き込んでいる。
白い服には、相変わらず緑色の飛び血がベッタリと。
「「エーテル先生?!」」
ソーマとフランの声がハモる。
そろそろ進級に向けた学園祭があるということで、会いにきたついでに成長ぶりの確認もしたかったそうだ。
久しぶりの対面にフランとエーテルの会話に花が咲く。
「3小節の省略は、確かに魔道具があればそこらの子供でも不可能じゃないわ。
まぁ、フランが無詠唱までできる方がよっぽど驚きだけど……」
「わ、私なんかまだまだ魔力も低いし、思ったように魔法が使えないから……」
「謙遜されると、同じ詠唱破棄の使い手として傷つくのだけど?」
「えっ、あ……ごめんなさい……」
花というよりは雑草程度の会話だったろうか?
ソーマもまだ魔法は使えないのだし、そのことにもエーテルは不思議でならなかったようだ。
「まぁいいわ。
あんたたちが子供だから、あまり詳しいことは言うもんじゃないと思ってたからね。
詠唱破棄について勉強してるなら、少しは昔のことも教えてあげるわよ」
家庭教師みたいなことをしていた時は、戦争のことにはあまり触れないでいたそうだ。
もちろん精霊戦争のことだが。
エーテルの話では、精霊戦争前の時代は、全ての人が魔法を使えたわけではなかったらしい。
多数の醜い争いがあり、その多くは魔法の便利さを欲したが故に起きたものだということだ。
当時、人と言ってもまだ多くの種族が存在していた。
いや、今でもどこかで人間ではない別の種族は存在しているだろうが、それはすぐ近くでも生活を営んでいたそうだ。
精霊戦争の発端は、クリスタル。
そのクリスタルは精霊の依代であるとされていた。
つまり、クリスタルのあるところに魔法あり。
どこの国もクリスタルを我が国のものにしようと策略を練っていたそうだ。
「召喚獣とか出てこないよね?」
ソーマは、とあるゲームを思い出してエーテルに聞いてみる。
ただ、当然ながらエーテルにはなんのことかはわからない。
魔族と呼ばれる種族の元に、一際大きなクリスタルは存在していた。
またそのクリスタルの影響を受け、人間族も近くで暮らしていたそうだ。
互いの種族同士も割と仲が良く、争いの相手といえば小人族か霊樹族が多かった。
「めっちゃファンタジーやん」
「聞いたことない名前だけど、ソーマくん、知ってるの?」
「ん……多分?」
フランは知らないようだし、オルトもタリアたちもハテナマークが頭に浮かんでいるようだ。
その当時は魔法も発展していて無詠唱も割と当たり前だった。
しかし、それだけでは飽き足らない一人のヒュムが、闇の魔法に手を出したという。
その人物の名が、どうしてかエーテルの知っている人物と同じ名前だと言うのだ。
まぁ……名前が一緒なんてことは良くあることだろう。
その闇魔法に関する前後の話はよく知らないそうだが、エーテル曰く魔族とヒュムの戦いの末に、そのどちらもが命を落としたと言い伝えられているそうだ。
そしてクリスタルはヒュムの手によって砕かれた。
同時期に、各地にあったクリスタルも自然と砕けたそうなので、全てのクリスタルは一つであったとも言えたのかもしれない。
さて、その結果どうなったのか。
「魔法の効果はとても弱まった。
そして争う目的も失い、そもそも遠くの国へと移動する手段さえも失ってしまった。
なぜならクリスタルの力が及ばない地域には、強力な魔物が存在するからよ」
魔法とは、今では詠唱ありきのものとなっている。
それは以前よりもクリスタルの力が弱く、その分膨大な魔力を消費するためで、それを緩和できる手段がそれしかなかったからだとも言われているそうだ。
「当時は魔力が高ければ、小さい子だろうと戦いにかり出されたらしいわね。
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どっちが幸せなのかは、私たちじゃわからないんだろうね……」
少し寂しそうな表情を浮かべ、エーテルは語っていたのだった。
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