王都の魔法学園のいんちき魔法使い 〜魔法なんて使えなくても世界最強〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

文字の大きさ
48 / 51

6歳児の仕事

しおりを挟む
 エーテルは、しばらくは王都の宿で生活をすると言っていた。
 どうせ帰る資金のことも考えずに来たのだろうが、せっかくならばとソーマも一緒に行くことにする。

「私なんかについてこなくても、ケノン師匠といればいいのに」
「えー……嫌ですよ。
 掃除も洗濯も、炊事だって僕がやらされてるんですよ?
 加えて研究棟の片付けまでしなきゃいけないんだから、いい加減ウンザリです」

 『あぁそういうことか』とエーテルも納得して、どんなものかとケノンの家を覗きに行くエーテル。
 いくらソーマが片付けているとはいえ、きっと杖は床に転がり本は無造作に積まれているだろう。
 はそういう人なのだ。

 しかし、そんな思いとは裏腹に、部屋の中はスッキリ整頓されていてケノンが住んでいるなどとは到底想像がつかない。
 いや、研究棟がそうであったように、こちらもまたソーマが綺麗に保っているのだとすれば……
「うん……ケノン師匠を紹介したのは失敗だったわ。
 反面教師ってやつになるかと思ったけど、まさか6歳の子にここまでやらせてるだなんてね」

 ソーマとしては、狭くて寝る場所も無かったため仕方なく掃除しただけだが、エーテルにとってはかなり想定外のことだったようだ。
 普通の子供ならば、箱に押し込む程度のことはできても整頓は難しい。
 子供が来れば、嫌でもケノンは片付けをせざるを得ないだろうと考えていたのだ。

「まぁ、ここに帰ってくるのは週に2回くらいだから、そこまで汚されませんけどね」
「あの馬鹿師匠……
 やめた方がいいって言ってるのに、相変わらず学園で寝泊まりしてるわけ?
 そのくせ外面だけはいいんだから……」

 エーテルは棚から数冊の本と手作りのポーションを一つ手に取り、家を出る。
 主に歴史書と世界に住む種族の資料。
 精霊戦争以前のことは、ソーマもほとんど知らなかったのだが、もしかしたら魔法が使えない理由がわかるかもしれないと思い調べてみるそうだ。

 王都の宿は、片田舎のそれよりも一際大きい。
 食事もついて湯浴みもできる。
 しかもギルドで受注するはずの依頼も、一部は宿の受付で対応してくれるという便利さ。
「へぇー……同じ宿でも全然違うんですね」
 入るなりソーマの視線はあちらこちらへと。
 気になる物が多すぎて、目が眩むようだった。

 壁には大きな地図が貼られており、薬草を煮出す釜や、離れには鍛冶場も揃っている。
 木材は大量に積まれ、暖炉の横にはいくつかの楽器らしきもの。

 多種多様な人々が利用できる施設でもあり、全て有償ではあるものの便利さには事欠かないのだとか。
「ついでに、お金が無くても掃除と薪割りと皿洗いで素泊まりできるよってプランもあるからね。
 まぁソーマくんならお金に困ることは無いだろうけど」
 エーテルは棚にあったポーションを店主に渡すと、本来なら宿泊のためにお金を払わなくてはいけないところが、逆に銅貨4枚を受け取ることに。

「ここって高いんですよね?
 ポーション一本くらいで泊まれるようには見えないんだけど……」
「そりゃあソーマくんが作ったポーションなんだから、高く買ってくれるわよ。
 ここの宿は鑑定具持ちの人が経営してるからね。
 現物払いも全然オッケーなのよ」

 鍛冶場や釜を借りてアイテムを作り、それで宿代を稼ぐ。
 そんな冒険者もいたりするので、見ていて飽きないらしい。
 買取価格は若干渋いとはいえ、鑑定具のお陰でとてもスピーディー且つ正確な金額を提示してくれる。
 腕のいい職人を囲うためだったり、気前良く練習する場を与えてくれているだとか言われるのだが、実際のところは単に儲かるからだとエーテルは言っていた。

 そして、その日からしばらくは、また違った意味でこき使われてしまうソーマの姿が、そこにはあったのだった……
 
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として

たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。 だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。 一度目では騙されて振られた。 さらに自分の力不足で全てを失った。 だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。 ※他サイト様にも公開しております。 ※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※ ※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...