王都の魔法学園のいんちき魔法使い 〜魔法なんて使えなくても世界最強〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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エーテル教師再び

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 はるか昔、一人の人間は薬を求めて旅をした。
 それは飲めばたちまち全盛期にまで若返り、あらゆる怪我もたちまち癒す効果があるとされていた。
 神の霊薬とされながらも、かたや禁忌の魔術だとも言われていた飲み物。
 『不死の薬アムリタ

 今ではそれはおとぎ話の中だけのものとなり、そのお話の中の主人公は悲しい最後を迎えてしまう。
 禁忌に触れてはいけない。
 その主人公のように、動けぬまま暗闇で何千年も生き続けることになるのだから……

「ちょっと、マナ操作の練習中なんだから邪魔しないでよエーテル」
「いいじゃないソーマ。
 こんなことで集中を切らすようじゃ、魔法使いとしての腕はまだまだよ?」

 あぐらをかいて集中しているソーマの頭に、本を片手に持つエーテルが手を置いてくる。
 ぽんぽんと叩きながら本に書かれた伝承を話してくれているのだ。

 話は続き、旅の末にアムリタを探し出した男がそれを飲み干した途端、それまでの傷の一切が消えて無くなった。
 それは神の作った神のためのものであり、人間にとっては過ぎた力だったのだ。

 若返り、怪我もせず、疲労も感じない。
 だがそれまでである。
 帰路についた男は、険しい氷山の中で大地の裂け目クレバスに落ちてしまった。
 最初のうちは足掻いていたが、どんどんと狭い隙間へと落ちていき、終ぞ身動きはできなくなった。

「いや魔法があるんだからどうにかなるでしょ?!」
「はい、集中集中」
 ソーマのマナ操作は、今大事な時期を迎えていた。
 物体からマナが出せないのは単に力不足が原因なのだ。
 要するに地中に埋まった芋を引っこ抜くために、蔓を引っ張っているような感じだろう。

 普通は自分自身のマナしか操作は出来ないから、そういった感覚をソーマ自身が未体験だっただけである。
 つまりは単純にマナ操作という点に限って言えば、まだまだ魔法使いとしては落第点だったのだろう。
 ともあれ、魔法学園を上位の成績で修めたエーテルの思う『魔法使いとしてのレベル』が、単に高すぎるだけなのだが。

「アムリタの話はこれで一旦はお終い。
 その後、人間たちは別の手段で不死の力を得ようとするのだけど、そっちもいわゆる禁忌の魔術に関する話だから、物語の結末はバッドエンドよ」
「そもそも禁忌の魔術って言われてもピンときませんよ」
 集中を切らして、ソーマがパタンと倒れ横になる。
 エーテルも小さく息を吐くと、片手に持っていた本をパタリと。

 なぜこのような話をしているのかというと、そもそもがエーテルにとってソーマという名前に馴染みがあったため。
 それは目の前にいるソーマと出会うよりもずっとずっと前。
 魔法使いを目指す者なら、一度は耳にしたことのあるおとぎ話の登場人物。

「そんな謂れのある禁忌を追い求めた末に、消息を絶ったのがソーマよ。
 禁忌に触れた者はろくな目に合わないとされてるわ。
 まぁ、だからこそ貴方に興味を持ったわけでもあるんだけどさ」

 そんな名前を子供につける親が信じられなかったし、初めて会った日、街に着いたら親に怒ってやろうとも思っていた。
 ただ、ソーマには親もいないので当然見つかるはずもない。
 そんな昔のことを思い出したエーテルは、クスリと笑っているのだった。
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