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入学編
002
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「…様、夕陽様、起きてください、夕陽様。ここで眠っていては風邪を引いてしまいます」
「んぅ…ひな、た?」
ほんの軽く、目を瞑って休むだけのつもりが本格的に眠ってしまってたみたい。
目を開けると、心配そうな表情の日向が僕の顔をのぞいている。
「大丈夫だよ、少しうとうとしてただけだから」
といって体を起こそうてして、毛布…いや、カーディガンがかかっているのに気がついた。
「これは…」
日向のものにしては随分大きい。
それでなくとも今日は暖かくなりそうだからと、持ってきていないはずだし。
「私がここにきた時にはすでに。おそらく夕陽様がお眠りになられている時に…」
誰かが通りかかって、そのまま置いていった、と。
随分かっこいいことをする人だなぁと思いつつ。
「これ誰に返せばいいんだろう」
と、現実的なことを考えてしまう。
少なくとも安物の肌触りじゃないのは確かで、このまま置いておいて風に飛ばされでもしたら寝覚が悪い。何か持ち主につながる手がかりでもないかと探してみるけど特に何もない。唯一見つけたタグのところに、
「Y.K…、イニシャルかな」
ブランド名とは別に付け加えられた、イニシャルのようなもの。
これしか手がかりがないのでは手の打ちようがない。
「ひとまず、守衛室の方に申し出ておいた方が良いのではないでしょうか」
「それもそうだね」
と、いうわけでどちらにせよ守衛室へ向かった際に合わせて相談しておいた。
カーディガン自体は僕が持っていた方が良いとのことでそのまま持ち帰りに。
もし持ち主が現れたら改めて連絡してくれるとのこと。
「それでは夕陽様、こちらに」
「ありがとう、日向」
待ってもらっていたタクシーに乗り、ホテルまで送ってもらう。
まだ明るい日の中、通りに出れば学生らしき人たちと何度もすれ違う。
「部活でしょうか」
「かもしれないね」
一様にみんな笑顔でこれからを生きている。
その笑顔が眩しくて、その中にこれから不純物が入ってしまうのだと思うと罪悪感が沸々と湧いてくる。
「夕陽様、部活はどうされるのですか?」
「そーだねぇ…」
学則には『学院生は特別の事情がない限り部活への参加を強く推奨する』という言葉がある。まぁ、要するに部活は強制というわけだ。
「運動系のは特に控えといたほうが良さそうだし、少し考えてみるよ」
男の僕が仮に陸上部なんかに入ったらそれこそ大問題だ。
なら、文化系がいいのかなぁと思いつつ、
でも文化的な知識もないから難しい。
そんなことで頭を悩ませているとタクシーがホテル前に到着。
運転手にお金を払いつつ、ホテルの鍵を取り出す。
「しかしお母様も太っ腹だね、こんないいところのホテルとってくれるなんて」
てっきり入寮するまでそこらのウィークリーにでも送り込まれるかと思ったら、連れてこられたのは素泊まりだけでもかなりしそうなホテル。
もちろん料金は振り込み済み。
チェックインの日は荷物まで持って行かれて日向が少し手持ち無沙汰になったのが印象に残ってる。そして、今日も今日とて荷物はホテルマンが運んでくれるのだ。
「…なんですか、夕陽様?」
「いや、なんでもないよ」
自分の表情、気がついてないのかな。
仕事をとられたみたいで少し顔がムッとしてる。
側から見なきゃわからない小さな変化だけど、それがまた可愛らしいのなんの。
「それよりも、少し早いけどお腹が空いてきたね」
時刻は15時、おやつをつまむにはちょうどいい時間。
学院での緊張もあって随分お腹も空いてる。
この空腹は紅茶の一杯や二杯じゃ紛れそうにない。
「そうですね、近くにどこか良いところはないでしょうか」
といってスマホを取り出して周辺位置を検索する。すぐに良さそうな店が見つかったみたい。
「軽食も出る喫茶店があるみたいです。距離は…」
「そのぐらいなら大丈夫だよ。早く行こうか、お腹すいちゃったよ」
日向のタブレットを横から覗き見る。
距離は全然歩いていけるところにある。
「…なに、どうしたのさ」
怪訝な表情で固まる日向。
じっと僕の顔を見て固まっている。
顔だけじゃなくて次第に首、腰、足と全体を俯瞰して見つめてこういった。
「そのままお出かけになりますか?」
「…、あー」
そう、学院に行く用事があったものだから今の僕は女装姿。
無論、出かけようと思えば出かけられるけどロングのスカートってズボンに比べて慣れないせいでかなり疲れる。靴もいつもと全然違うし。
なんと言うか、特に足の周りに布がないのがとてつもなく落ち着かないのだ。
「流石に着替えようかなぁ」
ザ・男みたいな格好は流石にやめておいた方がいいだろうけどユニセックスなものなら…
「疲れている体で無理な格好を続けても良くありません。着替えを用意して参ります」
日向はそう言うやいなや、衣装箱の方へ。
持ってきた服の中でも比較的な楽なやつを選んでくれるだろう。
「こちらはいかがでしょうか」
さっと持ってきてくれたのは、線の出にくいゆったりとした服。
パンツも少し細めだけどスカートに比べればと言ったところ。
「うん、ありがとう…。じゃ、ちょっと着替えてくるよ」
ーーー
ただ着替えるには少し長い時間が経過。
扉を開けると、僕と同じように着替えた日向が待っていた。
「お待たせ、まった?」
「いえ、私も着替えていましたので…祐樹様も化粧を落としたのですね」
「うん、まぁね。まだあの肌が張り付く感じなかなか慣れなくて」
ナチュラルメイクで大丈夫みたいだからまだマシな方なんだと言われたけど、おいおい慣れていくのが目下の目標かな。
「できるだけ目立たないように移動いたしましょう。もしかしたら転入先のクラスメイトとすれ違う、なんてこともあるかもしれませんから」
確かに言われてみればその通り。
かと言って今から化粧をやり直すのも億劫だ。
「流石にないと思うよ。会ったとしても話しかけなければ記憶にも残らないだろうさ」
だってあの学校、お嬢様ばかりなんでしょう?
男の僕なんて気にもされないよ。
「そこはかとないフラグの気がするのは日向だけでしょうか…」
「うっ、やめてよそういうの。それこそフラグじゃないか」
「申し訳ありません…」
ーーー
「ではご注文繰り返させていただきます。たまごサンドがおひとつ、ハムサンドがおひとつ。お飲み物はブレンドとカフェオレがおひとつづつ、以上でお間違いないでしょうか」
「はい」
「それでは、こちらの番号でお呼びしますのでしばらくお待ちください」
ーーー
「日向、こっちこっち」
レジに向かった日向を待つことしばし。
スマホをいじりながら待てば、すぐに戻ってきた。
「お待たせしました。こちらの番号札呼ばれるそうです」
「りょーかいです」
てなわけでしばしのお手すき時間。
「そういえば、日向は何か部活やってるの?」
話題はタクシーの中での続きの話。
日向が何か部活してるならそこに僕が参加する形を、と思ったのだが。
「私ですか?…その、私はお家の御習いがありましたので特別に免除いただいていました」
「あー、そっかぁ。日向の家も大変だね」
「いえ、もう慣れていますので特段」
「華道だったっけ、やってるの」
「はい」
その世界のことはよくわかんないけど、それこそ誰のもとで修行するのかも大事なると聞く。
その点、日向は山城家で直接指導してもらってると言うのだからかなりいい位置にいるんじゃないだろうか。
「しかし、山城様から可能な限り祐樹様の隣にいるようにと仰せ使っています。なので祐樹様が入る部活へ入るつもりです」
「日向自身はやってみたい部活とかないの?」
いくら山城様の言付けだとしても、花の高校生多少のわがままぐらい持っててもいいと思う。
「えぇと…そうですね」
うんうんと悩でいる様子。
と、そんな時。
『32番でお待ちのお客様、ご注文の品が整いました』
「あ、私たちの番号です。取りに行って参ります」
「助かるよ」
タイミング悪く呼ばれてしまった。
「でも、いい機会といえばいい機会なのかな」
普段我慢ばかり強いてしまっている、とよく日向のお母さんから愚痴というか相談というかそう言った話を聞いている。
唯一自由でいられた学院の中さえ僕のせいで不便を強いてしまうんだ。
出来るだけ日向のためになるように動きたい。
そう考えている時だった。
「となり、空いてるかしら」
「え?え、えぇっ、て、天童寺さん」
「ふふ、さっきぶりね、小鳥遊さん」
聖桜女学院が生徒会長、天童寺渚様のご登場。
頭が一瞬、パニックになる。
(しまった、化粧してきてないっ)
どうせ誰にも会わないだろう、会ったとしても気づかれることはないだろうなんて言ってたの一体誰だ。
「化粧、落としたのね」
「えぇ…まぁ…」
あまり突っ込まれたくない、というか顔を見られたくない。
そんな僕の気持ちが顔に出ていたのか天童寺さんがすこし寂しげな表情を浮かべる。
「ごめんなさいね、つい見知った顔見つけてしまったものだから。もしかしてお邪魔だったかしら」
「いえ、そんなことは…」
素顔を見られたくないだけなんです、とはいえず。
「少し驚いたもので。。。てっきりこういうお店に学院の生徒はあまりこないものだと」
そう言って周りを見渡す。
雰囲気のいい店内だとは思うけど、あくまで大衆的なチェーン店だから、老若男女いろんな人がいる。そして、その中に聖桜の制服を着た生徒の姿は見受けられない。
「そうね。確かに外食なんて、って子も結構いるわ。でも私だって時にはジャンクフードも食べたくなる時もあってね」
「意外ですね」
「実はね…」
と、急に声を窄めて顔を近づけてくる。
「自室にもカップ麺持ち込んでるの。時たまむっしょーに、食べたくなるのよね」
さも悪戯大好きと言った顔で囁かれるけど、正直僕はそれどころじゃない。
まず匂い…というか香り?がすごい。
あと心臓がバクバク鳴り始める。
日向はまだ来ないのかっ!日向助けてー!
「ゆう、夕陽様?」
願いが通じたようで、トレイを持った日向が戻ってきた。その目は僕と一緒にいる天童寺さんに向けて見開かれている。
「あら、日向ちゃんじゃない。あなたもいたのね」
別のおもちゃを見つけたように目をキラキラさせる。その一方で日向は表情が固くなる。
守衛室でも思ったけど、日向って実は天童寺さんのこと少し苦手に思ってる?
「小鳥遊さんが座ってるのが見えてね、これは声をかけなければと思ったのよ」
「そ、そうですか」
緊張で少し盆を揺らしながら、空いた席に座る。
「どうぞ、ゆ、夕陽様」
さっきまで祐樹の方で名前を呼んでたせいで間違えそうになってるし、声も震えている。
落ち着けー、落ち着くんだひなた!
「ありがとう、日向」
盆はもちろんのこと、窮地を救ってくれたことに対してもお礼を言う。
「天童寺さん、先にいただいてもいいですか?」
「えぇ、もちろんよ。むしろ私のことは気にしないで」
ではお言葉に甘えて、と。
正直結構お腹も空いてたし、話題を逸らすにしてもちょうど良いとまずはハムサンドに手を伸ばす。たかがハムサンド、されどハムサンド。
パンの方にも甘めのバターが塗ってあってレタスとハムの塩辛さが絶妙にマッチしている。
何より空腹からお腹に物が入っていく感覚がなんとも言えない幸福感を運んでくる。
「随分美味しそうに食べるわね」
「ん、えぇまぁ。実際結構美味しいですよ?」
日向が相手なら一口食べてみる?と気負いなく差し出し出すんだけど流石に今日会ったばかりの人にそんなことはできない。
『54番でお待ちのお客様、54番でお待ちのお客様、ご注文の品が整いました…』
「あ、私の番号。少し離れるわね」
そう言って天童寺さんが席を離れた。
彼女の姿が見えなくなると、日向が目をキツくしてこちらを見つめる。
「祐樹様。一体なぜあの方がここに」
「僕にもわかんないよ。日向を待ってたら突然声をかけられて…」
それこそ油断してたから男の声で返事しそうになって、相手を見てすぐに切り替えたのだから。
「とにかく、今は祐樹様がその、…であることをバレないようにしませんと」
「だよね。こんなことになるなら化粧落とさなければよかった…」
突然日向が固まった。
少し思案したかと思うと、
「その、祐樹様としては甚だ不本意だとは思うのですが、化粧がなくとも男性であるとバレなかったのであれば、無理に化粧を覚える必要はないのでは…?」
「いや、流石にそれは…」
男のプライドというか、せめてもの反抗というか、スイッチの切り替えというか。
少なくとも化粧がいらないほど女顔、と言われるのはショックである。
「何にせよ、ひとまずこの場を乗り切らないと。これからはもう、誰がそばにいてもいなくても夕陽って呼んでくれていいよ」
「承知しました、夕陽様」
「それで日向、普通学院の生徒ってこう言ったお店によくくる物なの?」
「そう、ですね。良くも悪くも学院生は育ちの良い方が多いのであまりそう言った話はお聞きしません」
「だよね…」
「ですが、規則として禁止されているわけでもないので来てもおかしくはない、ともいえます」
「ちなみに寮での間食は?」
「…?それも、度をこした、周りに迷惑をかける類のものでもなければ特段…。紅茶やスコーンなどでしたら良く嗜む方が多いとお聞きしています」
紅茶、紅茶ねぇ。
少なくとも日向が思い浮かべたのは ザお嬢様 の間食でカップ麺とかは考えていなさそうだ。
「お待たせ」
と、話していると天童寺さんが戻ってきた。
盆にはトールサイズのドリンクと、
「BLTサンドにアップルパイ…、結構ガッツリ行くんですね」
「まぁね。さっきまで頭使ってたからお腹すいちゃって」
といって、まずはサンドに手を出し始めた。
控えめな一口でかぶりつくと驚いたように手のひらを口元に運ぶ。
「あら。これは初めて注文したけど案外いけるわね」
しばらくは食事を楽しむ時間となったようで、こちらはこちらでサンドをシェアしながら食べ始める。
たまごサンドの方もふわふわしててなかなかに美味しい。
「2人とも随分仲がいいわね。どんな関係なの?」
「あー、それは」
何で答えた物だろうか。
日向は代々家に支えてくれている家の次女というべきか、はたまた簡単に幼馴染とだけ伝えるか…
「私と夕陽様は、昔からの幼馴染になります」
「あら、そうなの?」
「はい。私が聖桜に入学して一時期離れてしまいましたが、それまでは家も近くにありました」
ふむ、日向は幼馴染の方で行くと決めたらしい。
実際嘘は言ってないし、わざわざ深く話す理由もない。
僕も話を合わせれば、他に知る人もいないだろうし。
「今回私も聖桜に転入することになったので、日向に会えるのが楽しみだったんです」
だよね、と日向に視線を送る。
はい、と日向もうなづいた。
「2人は今どこに住んでるの?日向ちゃんは親戚の家に住んでるって聞いたことあるけど」
「私も夕陽様の転入に合わせて寮に入ることになりましたので、今は2人でホテルに泊まっています」
そういうと、天童寺さんが嬉しそうに手を合わせる。
「あら、2人揃って入寮するのね。それは楽しみだわ」
「お手柔らかに、お願いしますね天童寺さん」
何となくだけど天童寺さんの性格がわかってきた気がする。
この人は美月様と同じタイプの人だ。
深く関わるとおもちゃにされかねない。
生徒会長を任されている以上、能力や責任感、性格なんかは素晴らしいんだろうけど。
「あぁ、そうだわ。学院に私の妹がいるの。だから渚って呼んでちょうだい」
「わかりました、渚さん」
「これからよろしくね、夕陽さん」
ーーー
「しかし、驚きました」
「ほんとにね、まさかあんなところで数少ない学院の知り合いとエンカウントするなんて…」
「夕陽様、これ以上何か起こさないためにも早く戻りましょう」
渚さんと別れた帰り道、ホテルにたどり着くまで日向が少しピリピリとしていたけど無事何事も起こらなかった。
せっかく休みに行ったのに逆に体力消費する羽目になるなんて。
不幸中の幸いは、化粧をしてなくても男じゃないかと疑われなかったことぐらいだろうか。
「それはそれで僕に取っては大打撃なんですけどね」
「どうしましたか?夕陽様」
「いや、何でもないよ日向」
今は今度こそホテルでリラックス中。
もう外には一歩も出ないぞの構えで紅茶を飲んでいる。
入れてくれた日向の腕のおかげでとても美味しい紅茶が飲める。
僕が自分で入れたってこんなに美味しく入れられない。おんなじ味にはならないだろう。
「ありがとう、日向」
「いえ、お気に召したのでしたら良かったです」
「そういえば、渚さんって学年はどこなのか知ってる?」
「私も去年までは中等部にいてので接点が多くはありませんでしたが、3年生だったかと思います…」
「3年、かぁ」
つまりは僕の1つ上。
先輩だから寮を除けばそこまで会うこともないと考えるか、生活する場でとても関わり合いになりそうなのを心配すべきか。
「夕陽様?」
「いや、何でもないよ」
とかく、世はすべてこともなしともいえないけど。
明日の空模様を心配していても仕方ないのかな。
「んぅ…ひな、た?」
ほんの軽く、目を瞑って休むだけのつもりが本格的に眠ってしまってたみたい。
目を開けると、心配そうな表情の日向が僕の顔をのぞいている。
「大丈夫だよ、少しうとうとしてただけだから」
といって体を起こそうてして、毛布…いや、カーディガンがかかっているのに気がついた。
「これは…」
日向のものにしては随分大きい。
それでなくとも今日は暖かくなりそうだからと、持ってきていないはずだし。
「私がここにきた時にはすでに。おそらく夕陽様がお眠りになられている時に…」
誰かが通りかかって、そのまま置いていった、と。
随分かっこいいことをする人だなぁと思いつつ。
「これ誰に返せばいいんだろう」
と、現実的なことを考えてしまう。
少なくとも安物の肌触りじゃないのは確かで、このまま置いておいて風に飛ばされでもしたら寝覚が悪い。何か持ち主につながる手がかりでもないかと探してみるけど特に何もない。唯一見つけたタグのところに、
「Y.K…、イニシャルかな」
ブランド名とは別に付け加えられた、イニシャルのようなもの。
これしか手がかりがないのでは手の打ちようがない。
「ひとまず、守衛室の方に申し出ておいた方が良いのではないでしょうか」
「それもそうだね」
と、いうわけでどちらにせよ守衛室へ向かった際に合わせて相談しておいた。
カーディガン自体は僕が持っていた方が良いとのことでそのまま持ち帰りに。
もし持ち主が現れたら改めて連絡してくれるとのこと。
「それでは夕陽様、こちらに」
「ありがとう、日向」
待ってもらっていたタクシーに乗り、ホテルまで送ってもらう。
まだ明るい日の中、通りに出れば学生らしき人たちと何度もすれ違う。
「部活でしょうか」
「かもしれないね」
一様にみんな笑顔でこれからを生きている。
その笑顔が眩しくて、その中にこれから不純物が入ってしまうのだと思うと罪悪感が沸々と湧いてくる。
「夕陽様、部活はどうされるのですか?」
「そーだねぇ…」
学則には『学院生は特別の事情がない限り部活への参加を強く推奨する』という言葉がある。まぁ、要するに部活は強制というわけだ。
「運動系のは特に控えといたほうが良さそうだし、少し考えてみるよ」
男の僕が仮に陸上部なんかに入ったらそれこそ大問題だ。
なら、文化系がいいのかなぁと思いつつ、
でも文化的な知識もないから難しい。
そんなことで頭を悩ませているとタクシーがホテル前に到着。
運転手にお金を払いつつ、ホテルの鍵を取り出す。
「しかしお母様も太っ腹だね、こんないいところのホテルとってくれるなんて」
てっきり入寮するまでそこらのウィークリーにでも送り込まれるかと思ったら、連れてこられたのは素泊まりだけでもかなりしそうなホテル。
もちろん料金は振り込み済み。
チェックインの日は荷物まで持って行かれて日向が少し手持ち無沙汰になったのが印象に残ってる。そして、今日も今日とて荷物はホテルマンが運んでくれるのだ。
「…なんですか、夕陽様?」
「いや、なんでもないよ」
自分の表情、気がついてないのかな。
仕事をとられたみたいで少し顔がムッとしてる。
側から見なきゃわからない小さな変化だけど、それがまた可愛らしいのなんの。
「それよりも、少し早いけどお腹が空いてきたね」
時刻は15時、おやつをつまむにはちょうどいい時間。
学院での緊張もあって随分お腹も空いてる。
この空腹は紅茶の一杯や二杯じゃ紛れそうにない。
「そうですね、近くにどこか良いところはないでしょうか」
といってスマホを取り出して周辺位置を検索する。すぐに良さそうな店が見つかったみたい。
「軽食も出る喫茶店があるみたいです。距離は…」
「そのぐらいなら大丈夫だよ。早く行こうか、お腹すいちゃったよ」
日向のタブレットを横から覗き見る。
距離は全然歩いていけるところにある。
「…なに、どうしたのさ」
怪訝な表情で固まる日向。
じっと僕の顔を見て固まっている。
顔だけじゃなくて次第に首、腰、足と全体を俯瞰して見つめてこういった。
「そのままお出かけになりますか?」
「…、あー」
そう、学院に行く用事があったものだから今の僕は女装姿。
無論、出かけようと思えば出かけられるけどロングのスカートってズボンに比べて慣れないせいでかなり疲れる。靴もいつもと全然違うし。
なんと言うか、特に足の周りに布がないのがとてつもなく落ち着かないのだ。
「流石に着替えようかなぁ」
ザ・男みたいな格好は流石にやめておいた方がいいだろうけどユニセックスなものなら…
「疲れている体で無理な格好を続けても良くありません。着替えを用意して参ります」
日向はそう言うやいなや、衣装箱の方へ。
持ってきた服の中でも比較的な楽なやつを選んでくれるだろう。
「こちらはいかがでしょうか」
さっと持ってきてくれたのは、線の出にくいゆったりとした服。
パンツも少し細めだけどスカートに比べればと言ったところ。
「うん、ありがとう…。じゃ、ちょっと着替えてくるよ」
ーーー
ただ着替えるには少し長い時間が経過。
扉を開けると、僕と同じように着替えた日向が待っていた。
「お待たせ、まった?」
「いえ、私も着替えていましたので…祐樹様も化粧を落としたのですね」
「うん、まぁね。まだあの肌が張り付く感じなかなか慣れなくて」
ナチュラルメイクで大丈夫みたいだからまだマシな方なんだと言われたけど、おいおい慣れていくのが目下の目標かな。
「できるだけ目立たないように移動いたしましょう。もしかしたら転入先のクラスメイトとすれ違う、なんてこともあるかもしれませんから」
確かに言われてみればその通り。
かと言って今から化粧をやり直すのも億劫だ。
「流石にないと思うよ。会ったとしても話しかけなければ記憶にも残らないだろうさ」
だってあの学校、お嬢様ばかりなんでしょう?
男の僕なんて気にもされないよ。
「そこはかとないフラグの気がするのは日向だけでしょうか…」
「うっ、やめてよそういうの。それこそフラグじゃないか」
「申し訳ありません…」
ーーー
「ではご注文繰り返させていただきます。たまごサンドがおひとつ、ハムサンドがおひとつ。お飲み物はブレンドとカフェオレがおひとつづつ、以上でお間違いないでしょうか」
「はい」
「それでは、こちらの番号でお呼びしますのでしばらくお待ちください」
ーーー
「日向、こっちこっち」
レジに向かった日向を待つことしばし。
スマホをいじりながら待てば、すぐに戻ってきた。
「お待たせしました。こちらの番号札呼ばれるそうです」
「りょーかいです」
てなわけでしばしのお手すき時間。
「そういえば、日向は何か部活やってるの?」
話題はタクシーの中での続きの話。
日向が何か部活してるならそこに僕が参加する形を、と思ったのだが。
「私ですか?…その、私はお家の御習いがありましたので特別に免除いただいていました」
「あー、そっかぁ。日向の家も大変だね」
「いえ、もう慣れていますので特段」
「華道だったっけ、やってるの」
「はい」
その世界のことはよくわかんないけど、それこそ誰のもとで修行するのかも大事なると聞く。
その点、日向は山城家で直接指導してもらってると言うのだからかなりいい位置にいるんじゃないだろうか。
「しかし、山城様から可能な限り祐樹様の隣にいるようにと仰せ使っています。なので祐樹様が入る部活へ入るつもりです」
「日向自身はやってみたい部活とかないの?」
いくら山城様の言付けだとしても、花の高校生多少のわがままぐらい持っててもいいと思う。
「えぇと…そうですね」
うんうんと悩でいる様子。
と、そんな時。
『32番でお待ちのお客様、ご注文の品が整いました』
「あ、私たちの番号です。取りに行って参ります」
「助かるよ」
タイミング悪く呼ばれてしまった。
「でも、いい機会といえばいい機会なのかな」
普段我慢ばかり強いてしまっている、とよく日向のお母さんから愚痴というか相談というかそう言った話を聞いている。
唯一自由でいられた学院の中さえ僕のせいで不便を強いてしまうんだ。
出来るだけ日向のためになるように動きたい。
そう考えている時だった。
「となり、空いてるかしら」
「え?え、えぇっ、て、天童寺さん」
「ふふ、さっきぶりね、小鳥遊さん」
聖桜女学院が生徒会長、天童寺渚様のご登場。
頭が一瞬、パニックになる。
(しまった、化粧してきてないっ)
どうせ誰にも会わないだろう、会ったとしても気づかれることはないだろうなんて言ってたの一体誰だ。
「化粧、落としたのね」
「えぇ…まぁ…」
あまり突っ込まれたくない、というか顔を見られたくない。
そんな僕の気持ちが顔に出ていたのか天童寺さんがすこし寂しげな表情を浮かべる。
「ごめんなさいね、つい見知った顔見つけてしまったものだから。もしかしてお邪魔だったかしら」
「いえ、そんなことは…」
素顔を見られたくないだけなんです、とはいえず。
「少し驚いたもので。。。てっきりこういうお店に学院の生徒はあまりこないものだと」
そう言って周りを見渡す。
雰囲気のいい店内だとは思うけど、あくまで大衆的なチェーン店だから、老若男女いろんな人がいる。そして、その中に聖桜の制服を着た生徒の姿は見受けられない。
「そうね。確かに外食なんて、って子も結構いるわ。でも私だって時にはジャンクフードも食べたくなる時もあってね」
「意外ですね」
「実はね…」
と、急に声を窄めて顔を近づけてくる。
「自室にもカップ麺持ち込んでるの。時たまむっしょーに、食べたくなるのよね」
さも悪戯大好きと言った顔で囁かれるけど、正直僕はそれどころじゃない。
まず匂い…というか香り?がすごい。
あと心臓がバクバク鳴り始める。
日向はまだ来ないのかっ!日向助けてー!
「ゆう、夕陽様?」
願いが通じたようで、トレイを持った日向が戻ってきた。その目は僕と一緒にいる天童寺さんに向けて見開かれている。
「あら、日向ちゃんじゃない。あなたもいたのね」
別のおもちゃを見つけたように目をキラキラさせる。その一方で日向は表情が固くなる。
守衛室でも思ったけど、日向って実は天童寺さんのこと少し苦手に思ってる?
「小鳥遊さんが座ってるのが見えてね、これは声をかけなければと思ったのよ」
「そ、そうですか」
緊張で少し盆を揺らしながら、空いた席に座る。
「どうぞ、ゆ、夕陽様」
さっきまで祐樹の方で名前を呼んでたせいで間違えそうになってるし、声も震えている。
落ち着けー、落ち着くんだひなた!
「ありがとう、日向」
盆はもちろんのこと、窮地を救ってくれたことに対してもお礼を言う。
「天童寺さん、先にいただいてもいいですか?」
「えぇ、もちろんよ。むしろ私のことは気にしないで」
ではお言葉に甘えて、と。
正直結構お腹も空いてたし、話題を逸らすにしてもちょうど良いとまずはハムサンドに手を伸ばす。たかがハムサンド、されどハムサンド。
パンの方にも甘めのバターが塗ってあってレタスとハムの塩辛さが絶妙にマッチしている。
何より空腹からお腹に物が入っていく感覚がなんとも言えない幸福感を運んでくる。
「随分美味しそうに食べるわね」
「ん、えぇまぁ。実際結構美味しいですよ?」
日向が相手なら一口食べてみる?と気負いなく差し出し出すんだけど流石に今日会ったばかりの人にそんなことはできない。
『54番でお待ちのお客様、54番でお待ちのお客様、ご注文の品が整いました…』
「あ、私の番号。少し離れるわね」
そう言って天童寺さんが席を離れた。
彼女の姿が見えなくなると、日向が目をキツくしてこちらを見つめる。
「祐樹様。一体なぜあの方がここに」
「僕にもわかんないよ。日向を待ってたら突然声をかけられて…」
それこそ油断してたから男の声で返事しそうになって、相手を見てすぐに切り替えたのだから。
「とにかく、今は祐樹様がその、…であることをバレないようにしませんと」
「だよね。こんなことになるなら化粧落とさなければよかった…」
突然日向が固まった。
少し思案したかと思うと、
「その、祐樹様としては甚だ不本意だとは思うのですが、化粧がなくとも男性であるとバレなかったのであれば、無理に化粧を覚える必要はないのでは…?」
「いや、流石にそれは…」
男のプライドというか、せめてもの反抗というか、スイッチの切り替えというか。
少なくとも化粧がいらないほど女顔、と言われるのはショックである。
「何にせよ、ひとまずこの場を乗り切らないと。これからはもう、誰がそばにいてもいなくても夕陽って呼んでくれていいよ」
「承知しました、夕陽様」
「それで日向、普通学院の生徒ってこう言ったお店によくくる物なの?」
「そう、ですね。良くも悪くも学院生は育ちの良い方が多いのであまりそう言った話はお聞きしません」
「だよね…」
「ですが、規則として禁止されているわけでもないので来てもおかしくはない、ともいえます」
「ちなみに寮での間食は?」
「…?それも、度をこした、周りに迷惑をかける類のものでもなければ特段…。紅茶やスコーンなどでしたら良く嗜む方が多いとお聞きしています」
紅茶、紅茶ねぇ。
少なくとも日向が思い浮かべたのは ザお嬢様 の間食でカップ麺とかは考えていなさそうだ。
「お待たせ」
と、話していると天童寺さんが戻ってきた。
盆にはトールサイズのドリンクと、
「BLTサンドにアップルパイ…、結構ガッツリ行くんですね」
「まぁね。さっきまで頭使ってたからお腹すいちゃって」
といって、まずはサンドに手を出し始めた。
控えめな一口でかぶりつくと驚いたように手のひらを口元に運ぶ。
「あら。これは初めて注文したけど案外いけるわね」
しばらくは食事を楽しむ時間となったようで、こちらはこちらでサンドをシェアしながら食べ始める。
たまごサンドの方もふわふわしててなかなかに美味しい。
「2人とも随分仲がいいわね。どんな関係なの?」
「あー、それは」
何で答えた物だろうか。
日向は代々家に支えてくれている家の次女というべきか、はたまた簡単に幼馴染とだけ伝えるか…
「私と夕陽様は、昔からの幼馴染になります」
「あら、そうなの?」
「はい。私が聖桜に入学して一時期離れてしまいましたが、それまでは家も近くにありました」
ふむ、日向は幼馴染の方で行くと決めたらしい。
実際嘘は言ってないし、わざわざ深く話す理由もない。
僕も話を合わせれば、他に知る人もいないだろうし。
「今回私も聖桜に転入することになったので、日向に会えるのが楽しみだったんです」
だよね、と日向に視線を送る。
はい、と日向もうなづいた。
「2人は今どこに住んでるの?日向ちゃんは親戚の家に住んでるって聞いたことあるけど」
「私も夕陽様の転入に合わせて寮に入ることになりましたので、今は2人でホテルに泊まっています」
そういうと、天童寺さんが嬉しそうに手を合わせる。
「あら、2人揃って入寮するのね。それは楽しみだわ」
「お手柔らかに、お願いしますね天童寺さん」
何となくだけど天童寺さんの性格がわかってきた気がする。
この人は美月様と同じタイプの人だ。
深く関わるとおもちゃにされかねない。
生徒会長を任されている以上、能力や責任感、性格なんかは素晴らしいんだろうけど。
「あぁ、そうだわ。学院に私の妹がいるの。だから渚って呼んでちょうだい」
「わかりました、渚さん」
「これからよろしくね、夕陽さん」
ーーー
「しかし、驚きました」
「ほんとにね、まさかあんなところで数少ない学院の知り合いとエンカウントするなんて…」
「夕陽様、これ以上何か起こさないためにも早く戻りましょう」
渚さんと別れた帰り道、ホテルにたどり着くまで日向が少しピリピリとしていたけど無事何事も起こらなかった。
せっかく休みに行ったのに逆に体力消費する羽目になるなんて。
不幸中の幸いは、化粧をしてなくても男じゃないかと疑われなかったことぐらいだろうか。
「それはそれで僕に取っては大打撃なんですけどね」
「どうしましたか?夕陽様」
「いや、何でもないよ日向」
今は今度こそホテルでリラックス中。
もう外には一歩も出ないぞの構えで紅茶を飲んでいる。
入れてくれた日向の腕のおかげでとても美味しい紅茶が飲める。
僕が自分で入れたってこんなに美味しく入れられない。おんなじ味にはならないだろう。
「ありがとう、日向」
「いえ、お気に召したのでしたら良かったです」
「そういえば、渚さんって学年はどこなのか知ってる?」
「私も去年までは中等部にいてので接点が多くはありませんでしたが、3年生だったかと思います…」
「3年、かぁ」
つまりは僕の1つ上。
先輩だから寮を除けばそこまで会うこともないと考えるか、生活する場でとても関わり合いになりそうなのを心配すべきか。
「夕陽様?」
「いや、何でもないよ」
とかく、世はすべてこともなしともいえないけど。
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