恋する乙女の学園騎士

「どうしてこうなったんだろう…」

少し時期をはずれた桜が待つ通学路。
傍目からも育ちの良いお嬢様たちが桜並木を潜りながら登校する中、僕は誰に言うでもなく呟いた。

「それは、お姉さまがお母様の申し入れを断れなかったからではないのですか?」

横の童女は歩くたびに赤みがかった髪を揺らす。
その表情は決して豊かとはいえないけど、慣れた人ならその奥にその機微を見つけられる。

「まさか本当に入学させられるとは思わないだろう?」

だって、僕は『男』なんだもの。
言葉にこそ出さないけど何を言いたいのかわかったのか日向は少し目をふせる。

「僕が女子校に入学だなんて、お嬢様に知られたらどんな顔されるか」

「お姉さまにとって、歓迎できない事態になるのはまず間違い無いかと」

「はぁ…そうだよねぇ」

深いため息をつきつつも、学院への通学を続ける。ここで足を止めても余計に目立つだけなんだから。

「とにかく、まずは目立たないように過ごさないとね」

気を取り直してカバンの握り手を持ち直す。
家を出た時から覚悟は決めてたんだろ、しっかりするんだ「私」!

「お姉さま、ごきげんよう!」

「ごきげんよう、いい天気ですね」
 
下級生の挨拶に、にこやかな笑顔を浮かべて返事をする。
スマイル100点、(いろんな細工込みで)容姿もも100点、それでも総合得点は赤点必至の0点必。

だってここは女子校で、『私』は『僕』で『男』なんだから。
無駄なことを考えても仕方がない、そう思い直して前を向く。

「日向、行きましょうか」

「お姉さま、辛くなったらいつでも日向がいますからね?」

日向が少し心配そうな表情を浮かべる。
でもそれは不要だと笑みを浮かべる。やろうと思えばきっとやれるんだから、と。

「大丈夫だよ…」

こうして僕の、私の学園生活は不穏な空気を纏いながらも軽快にスタートを切った。

「果てしなく不安だけどね」

1人呟いた言葉は今度こそ誰にも聞かれず、空に静かに溶け去った。
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