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ドグマ組騒動編

15.ドグマ組長のお見舞いに行こう(10)

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「そうなのですか。一度は聞いてみたいものです」

 ミヅキさんが微笑んで言った。俺も微笑みを返す。

 穏やかな一時。

 だが、それは飽くまで表向き。俺は内心、物凄くそわそわしていた。サクちゃんがいる手前、俺が訊いても良いものかどうかとずっと悩んでいたのだが、サクちゃんが訊いてくれない。

 色々と気になることはあるだろうに、訊く気配すら見せない。

 たった三ヶ月の付き合いだが分かる。この男は訊かない。少なくとも今日は絶対に訊かない。もうしょうがないので、俺が訊くことにした。

不躾ぶしつけですが、ミヅキさんは、ドグマ組長とはどういったご関係で?」

「義理の親子です。私は、三十年前に人攫ひとさらいにかどわかされたところを救われて、それからはミヅキと名を付けてもらい義理の娘として育てていただきました。当時は十八歳になったばかりで、森から出る怖ろしさをわきまえておらず、もしお義父とう様が通りがかっていなければ、と今でも怖ろしく思います」

「故郷の森に帰ろうとは思わなかったんですか?」

「ええ、お義父様についていこうと、救われたときに決めましたので」

 表情が決意に満ちている。義理堅い人なのだろう。

「サクちゃん、こんなにしっかりした義理の娘さんがいて良かったね」

「ああ、本当に。それも、父さんが救ったなんてな。誇らしいよ」

 サクちゃんが嬉しそうに言って、ドグマ組長を見つめる。記憶の中の父親の姿と重ねているのかもしれない。少し、寂しげにも見えた。

「お義父様は『自分は人生を濁らせてしまったから、名前も濁らせて戒めにする』と言っておられました。それで、トクマをドグマにしたのだと」

 え? とサクちゃんが呟く。俺も急にミヅキさんが語りだしたから驚いた。ミヅキさんは、俺たちの反応を見て察したようで、口元に手を遣り苦笑した。

「すいません。サクヤさんを見ていると思い出してしまったんです。本当によく似ていらっしゃるので、つい……」

 サクちゃんがミヅキさんと向き合う。

「他には、何か言ってましたか?」

「はい。お義父様はこう言っておられました。『馬鹿なことをして、一緒になった人と二人の息子を幸せにできなかった。かけがえのないものを失ったことを悔いている。だが、もうやり直すこともできなくなってしまった。戻れないほど遠くにいるのは天罰が下ったからだろう』と」

「そうですか……」

 サクちゃんはまたドグマ組長の方を見て黙り込んでしまった。俺はミヅキさんと会話を続け、ヒューガさんから聞いた話との擦り合せを行った。
 
 
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