大切なはずだった君と

りさ

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2.サインを

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「・・っ、悪かった。だがシンシア、俺は別れたくない!君が俺の番であるのは本当のことだ。間違いなんかじゃない!」

「・・そうなの?私たちの屋敷に住まう獣人の皆さんは、私とあなたの新婚とは思えない日々に疑問を持っていたわ。蜜月に入れば狼族なら尚更、はなしてもらえないはずなのに、と。私がおかしな呪術でも使って、あなたを騙したのではないかと専らの噂だったわ。」

初耳だった。屋敷の使用人たちがそんな風に思い、あまつさえシンシア本人の耳に入れるなんて。

「こちらの、管理不足だ。不快な思いをさせた。本当にすまなかった。」

と頭を下げた。
シンシアが話し出す。

「屋敷のどこにいても、落ち着かなかった。確かに私は魔法が使えるけれど、心に干渉するような精神系の魔法は使えないわ。精神系の魔法は使える人も少ないけれど、一般的な精神力でもあれば全く効きもしないといわれているし。あなたは何か魔法でもかけられたの?」

「いや。君からはもちろん、他の誰からの魔法も受けていない。屋敷の者たちは厳重に注意する。」

「もう出ていくし面倒なことはしなくていいわ。あぁ、でも私の不名誉な噂については訂正しておいて。元は二人好き合って結婚までしたのに、呪術だなんて!私をなんだと思っているのかしら。」

シンシアの発言に一瞬思考が止まった。
つまり、今は好きではない・・?

「っ、出ていかないでくれ!君がいないと俺はっ・・!」

「私がいなくても大丈夫でしょう?よそで楽しんでいたみたいだし。今までと同じよ。」

「違うし、大丈夫ではない!シンシアに過剰に触れなかったのは、その、この体格差だろう?シンシアの体に負担をかけたくなくて・・」

「負担をかけたくないその理由で、よそで楽しむことが許されるとでも?せめて私に自分の状況を伝えて、可能な範囲で私に手伝ってもらうか自分で処理するかすれば済む話じゃない。どうして他の女性が必要になるのよ。私でなくてもいい時点で、私はあなたの唯一の番ではなかったということになるわね。」

確かに、他の女性の身体を求めなくても対処できたはずなのに、むしろシンシアだけのはずなのに、どうして俺はあんな行動を繰り返していたのだろうか。

「もう、私はあなたに触れられたくないの。こどもも作れない。」

「え!?そんな・・」

「逆に考えてみて。もしもの話よ?私が毎日のように別の男性の匂いをつけてあなたを出迎え、ハグするの。私はあなたに満足できなくて、毎晩のように違う男性に相手してもらって。周囲は私を満足させられないあなたを毎日非難する。・・どう?考えただけで、これだけでも気持ち悪いでしょう?もう、私に触れてこないで。」

言われて、自分の行動に吐き気がする。俺は、なんてことをしてしまったのだろう。

「もう一度言うわ。離婚届にサインをしてください。」

「・・離婚して、どこに行くつもりなんだ?」

「あなたにはもう関係ないでしょう?言うつもりもない。早くサインを。」


のろのろとペンを手に取り小さな紙を見つめた。シンシアの記入すべきところは全てうまっている。

婚姻届のときは、同じ大きさの用紙のはずなのにとても大きく、輝いてすら見えたのに。こんな小さな紙で、シンシアとの関係が終わってしまうのか。

自分がした不始末に、なによりシンシアの心が遠く離れてしまっている事実に目頭が熱くなる。番と離れたくない、と心が叫ぶ。しかし、屋敷のことやクリスティーナのこと、シンシアを傷つけた多くのことを確認し、対処しなければ。その上で何度でもまたアプローチしに行こう。


ゆっくりと、時間をかけてサインをいれ始めた。
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