快楽の檻は出られない。という夢を見ました

君は悪くない

アミティはまた同じ部屋で目を覚ます。

本当に…夢じゃないの？

アミティは不安になる。

「これで分かりました？これは夢ではありません。君はどこへも行けない。君は悪くないんですよ？ずっと…ここにいればいいんですから…」

ヴァンの言葉に違和感を感じる。
その違和感を率直に尋ねた。

「私は悪くないってどういうこと？」

「君は自らの意思で俺にこの部屋を作らせて、引き籠もったんですよ。」

「引きこもり…私、逃げたんだ。」

「君は悪くありません。君を傷付ける世界が悪い、君を大切にしない世界が悪いのですから。」

ヴァンはアミティの頭を撫でる。その手は柔らかくあたたかく、愛おしいものをただ愛でているような手つきだった。

「アミティ、俺の可愛いアミティ。何をします？」

しかし、その目は獲物を狙う目だった。

アミティはメニューを開き、今から何をするのか考える。
身体に負担のないもので、心が満たされるもの。

そうだ、今日はヴァンとのんびり過ごそう！

「今日はエッチしない。ちょっと疲れちゃったかも。」

「へぇ…そうですか。いいですね。」

ちゅっ……

ヴァンはアミティの唇を奪う。

「なら今日はキスだけで気持ちよくしてあげますね…」

人形のように美しいヴァンの顔、ふんわりとした唇……
甘くてクラクラするような感覚に、アミティはなんだか嫌な予感がしていた。

ちゅっ…ちゅっ…

優しく、唇が触れ合う。
唇が重なる度にヴァンの甘い香りが鼻腔から頭に抜ける。

なんだろう…ふわふわ…する。

「ああ可愛い…キスしてるだけなのに顔蕩けてますよ？舌入れたら、もっと気持ちいいですからね。」

ヴァンの吐息を感じる。
ちゅー…ってこんなに気持ちいいんだ。

ヴァンの舌が口内に侵食を始める。
弾力のある舌で口内を隅々まで舐め尽される。

くちゅっ、くちゅっ…

舌同士が触れ合うたび、電気が流れたかのようにアミティの身体がはねた。

「んんっ……あっ…むうぅ……んっ…」

アミティの口から吐息が漏れている。

「耳塞いであげますね。」

ヴァンの両手がアミティの耳を塞ぎ頭を固定する。
…そして、ヴァンの妖艶な顔が近づいてくる。

ぐちゅっ、じゅるる…

耳を塞がれキスの音がより鮮明に脳を犯す。ヴァンが舌に吸い付き甘く刺激される度に何もかもがどうでも良くなり永遠にこの快楽を得ていたいと思ってしまう。

「もっと…んっ…あ…んんんっ！！」

「ベロチュー…あたま空っぽになるでしょう？良いんですよ、全部忘れてしまいましょう。」

予感通り、のんびりまったりとは程遠い。
ヴァンの魔の手には今日も敵わなかった。

「どうしてでしょうか。アミティは悪くない、頑張っていたのに…世界は君を傷付けてここに閉じ込めさせたんですよ。アミティ、かわいそうに。俺ならそんな事絶対にしません。」

アミティはベッドに横たわったまま、ぼんやりと天井を見つめている。ヴァンはアミティの髪を優しく撫でながら、何度愛の言葉を囁く。

彼の言葉はまるでアミティを慰めているかのようだがその奥に潜む真意が分からず、アミティはますます混乱する。

「ねえ、ヴァン…？」

アミティは思い切って口を開く。

「どうして私をこんな目に遭わせるの？私はあなたに何かした？世界が私を傷付けたってどういう意味？」

アミティは彼の言葉の意味が理解できない。世界が私を傷つけた？そんな抽象的な理由でここから出られないなんて、納得できない。

「君は自分の弱さや脆さを隠すためにこの部屋を俺に作らせた。そして、自分自身をここに閉じ込めたのです。」

「私が…？」　

アミティは自分の過去を振り返る。

確かに、色々なことがあった。　
辛いこと、悲しいこと、苦しいこと…　
それらを忘れるために…
ここに引きこもった？

「でも、もう大丈夫ですよ。」

ヴァンはアミティを優しく抱きしめる。

「俺が、君を傷つけた世界から守ってあげます。必ず幸せにしますよ。」

ヴァンの言葉は、まるで魔法のようだ。　

アミティは彼の腕の中で、安堵と希望を感じる。
もしかしたらここにいるのが幸せなのかもしれない。

しかし、その希望はすぐに不安に変わる。

ヴァンは本当に私を助けたいと思っているのだろうか？
それとも、彼は自分の欲望を満たそうとしているだけなのだろうか？

アミティはヴァンの胸の中で葛藤する。　
彼の言葉を信じるべきか、疑うべきか。

まだ答えを見つけられずにいる。

心が不安と期待で満たされ、
安らかな眠りにつくことはできない。