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第一章
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しおりを挟むあの人がこの街に帰ってきたからといって、視線を感じることが増えたとかでも、何か変わったことがあるわけではない。
普通の日常のはずなのに、私の情報は筒抜けだった。
フードを被り、夜道を歩いている時だった。
前触れもなく人の気配が現れた。街路灯が顔を照らす。
「こんな時間にお出かけとは、お兄さんも本当に人が悪いね?」
見た目は夜が似合わない。なのに、暗闇の中に立つと、こっちの住人だと思わせる雰囲気がある。
「……どこに行くかは知ってますよね」
「連れていってくれる?」
どうせついてくるくせに。返事はせずに歩き始める。
今日の目的地は若者が集まるクラブだった。
「表向きには、情報屋のラビットは君ということになってる。お兄さんは姿を現さないからね」
「迷惑な話です。でも、貴方の顔も知られてないでしょう」
「情報屋なんて、そんなものだよ」
耳が痛くなるような音楽の中、指定された2階の座席で待機する。当然のように隣は男の体で埋まった。
下を覗けば、揉みくちゃになって男女が踊っていた。
「アレは何が楽しいんだろうね」と聞こえてきて、「分かりません」と素直に口する。
興味のない世界だ。
「熱い視線で見られてますよ」
ジロジロと複数の女性からの視線を感じる。
こういうところにいる女は、危ない雰囲気の男が好きだ。それも身なりの良いものが。
「じゃあ、見せつけようかな」と言って、私の腰に腕が回された。胸元へと引き寄せられる。
「ちょっと……!」
「君のためでもあるよ。変な男に近寄ってきて欲しくないでしょう?」
一番の危険人物がそれを口にする。
呆れて言葉も出なかった。
「……ラビット、だよな?」
約束の時間ぴったりに現れた金髪の男は困惑していた。
物の受け渡しをするはずの情報屋が、親密な空気で謎の男を連れているのだから無理もない。
頷き、隠し持っていた小包みを手渡そうとした時だった。
「待って」
横から伸びてきた手に邪魔をされる。
「は?」と金髪の男が漏らし、戸惑っている。
くつくつと喉を鳴らしたKINGは、愉しそうに口元に狐を描いて告げる。
その声は普段よりも低い。
「お前、偽物だろう?」
「え?」と声を漏らしてしまう。どういうこと?
「なんだよ急に!」
「じゃあ、素性を明かせるか?」
「……もちろんっ!」
宙から聞いていた名前を、金髪の男が口にする。
それを鼻で笑い、KINGは別の男の名前を口にしたかと思えば、住所から家族構成までを告げていく。
「……なんで」と青ざめ、金髪の男は後退る。
「続けようか? ……さっさといなくなってくれない?」
その一言に、目の前にいた人物は慌てて消えていった。
まるで肉食獣に目をつけられた草食動物のよう。
残された私は状況が分かっていなかった。
……今の、なに?
耳元で囁かれる。
その声は確信めいていた。
「ね? 俺がいたら、変な男は寄ってこれないでしょう?」
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