神様だった人を、好きになってしまった話

音央とお

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東雲はづき先生こと、東雲葉月くんは高校生でありながら商業作家である。
なんとデビューは中学生の時。

心理描写を得意とし、ホラーやサスペンスで4作をこれまでに出版している。

「何度読んでも、ゾクゾクするなぁ」

もう何十回読んだか分からないハードカバーの表紙をなぞる。
おどろおどろしい黒い表紙だけど、私にとっては世界で一番愛しい本だった。

「吉田さん」

クラスの女の子――たしか、伊藤茉菜さんが声をかけてきた。

まだクラス替えをして間もないこともあり、私たちはよそよそしく様子を見ながら話をしてしまう。

「東雲くんって今日は来ないの?」

そわそわと髪の毛先をいじる伊藤さんにピーンっときた。

「もうすぐ登校してくると思うよ」

連載中の小説の締め切りが昨日までだと話していた。
おそらく、寝坊してしまっただけだ。
……もう昼休みだけど。

「……おはよう」

噂をすれば。
そのタイミングの良さに笑いそうになりながら、聞き慣れた声に振り返ったら、……言葉を失った。

猫背の淀んだ目をした少年。
「2~3人殺してきた?」と疑うくらいのただならぬ雰囲気を身にまとっていた。

「……」

ちらりと伊藤さんのほうを見れば、ぎこちない笑顔を貼り付け「ごめん、用事を思い出しちゃった」と逃げていった。

……ああーっ!

「どうしたの?」

背筋が凍るような声で、東雲くんが聞いてくる。

……なるほど、今回はそういう方向なのか。

私は白目をむきたくなりながら、頭にチョップをした。
できるだけ力を込めて。

「……痛い?! ……え? なに?!」

憑きものが取れたかのように、東雲くんの雰囲気が切り替わった。
おろおろしながら周りを見渡している。

「え? 僕、また何かやらかしてた?」 

心配そうに聞いてくる彼に、そっと頷いた。

「そっかぁ。今朝まで殺人鬼の少年の話を書いていて、役から抜けきれなくなっていたんだね」

そのせいで、一つの恋の始まりは白紙に戻されてしまったけどね。
遅かれ早かれ、彼が“変な人”扱いされるのは避けて通れないことではあったのだけど。

「可愛い子だったのになー」と嘆く。

「何の話?」

東雲くんには、可哀想だから伝えないことにした。
ついついキャラクターにのめり込んで、多重人格者みたいになるのは避けられないことのようだから。

「一読者として、私は東雲くんにずっとついていくから。たとえ、周りから理解されなくても」

「うん? ……ありがとう?」

微笑む彼は、女子から見た目だけなら最高と言われている。東雲くんの魅力はそれだけじゃないんだけどね。

私だけが理解しているようで、なんだかなぁ……と思いながら、笑顔を返したのだった。


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