神様だった人を、好きになってしまった話

音央とお

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パンケーキ疑似デートの一件から3日ほど経ってるけど、自分の奇行に悶絶している東雲くんは、隣の席だというのに私と目を合わせようとしなかった。
会話もよそよそしい。

でも、あの似非プレイボーイなんかよりも「かわいい」と肯定的に受け取れる。

あれは本当に苛ついたから……。二度とやらないで欲しいもんだ。


購買でお昼のパンを選んでいると、誰かに名前を呼ばれた。

「吉田」

「あっ、紫村先輩じゃないですか」

同じ図書委員の先輩だった。
ヘアスタイルも佇まいも洗練されていて、一見でモテオーラを発揮している。
これでサッカー部の司令塔なんだから設定盛りすぎ。

「東雲を見なかったか?探しているのに見つからないんだ」

「さあ?」

私の顔が直視できなくなっている彼は、昼休みになると一目散にどこかへ消えている。

「明日の昼休みの当番を、東雲と吉田に頼みたいんだ。どうかな?」

「私はいいですけど……」

東雲くんが了承するかは不明だ。
曖昧な返事に、しごでき・・・・な紫村先輩は何かを察した。

「喧嘩しているのか?」

「私たちがすると思います?」

「……しないだろうな」

どちらも喧嘩なんてできないタイプだ。
自分で聞いておいて、矛盾に気づいたのか紫村先輩は苦笑している。

「じゃあ、また東雲はづき先生の病気?」

「まあ、そんなところです」

紫村先輩は事情を知っている。

自分が作家であることを東雲くんは積極的には公表していない。
でも、本好きで勘の良い紫村先輩はパズルのピースを嵌めるように気づいた。

「吉田も苦労するなぁ」

しみじみと言われたけど、どうだろう。
彼の作品作りに関われているのは嫌じゃない。

たまに迷惑な役作りがあるのは、面倒くさいけど。

「いい加減にちゃんと会話もしたいので、東雲くんと当番やりますよ。任せてください」

「うん、よろしく」

きっかけは得たので、東雲くんはもう逃げられない。
本当に世話にかかる人だなぁと笑った。



*   *   *



翌日の昼休み。
私の手によって、図書室に強制連行された東雲くんは「ごめんなさい」と謝った。

「いつもいつも、吉田さんには迷惑をかけて……」

「そういうのいいから。今さらだし」

“今さら”に、東雲くんは更に落ち込んだようで、私は笑い飛ばしてもらうつもりだったのになと思った。

「あの……、実は相談があって」

「どうしたの?」

「編集から、プレイボーイを書くために、もっと女の子の生態を知れって」

「生態って」

言いたいことは分からんでもないけど、ちょっと笑ってしまう。

「どうせなら、女性視点で書いてみたらとも言われていて。そこで、吉田さんにお願いしたいことがある」

「うん?」

改めてお願いされるなんて何だろう。
東雲くんは真剣な顔をして、口を開いた。

「しばらく彼女になりきってくれないかな?」

「……は?」

「それで、思ったことや感じたことを全て伝えて欲しい」

「……」

なんでそうなるの?

「頼めるのは、吉田さんだけなんだ」

そう言われると、私の世話焼きな部分が刺激されてしまう。
不安そうな東雲くんは更に付け足した。

「彼女じゃなくてもいい。僕に恋をしているふりをして欲しい」

「恋をしているふり……」

ずくんっと胸の中に重い感覚が宿った。
その違和感に、首を傾げる。

「ダメかな? 吉田さん」

「……いいよ」

違和感が消えず、歯切れが悪い返事になってしまった。
それに気づかない東雲くんは、胸をなで下ろして喜んでいた。




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