神様だった人を、好きになってしまった話

音央とお

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東雲くんの前からフェードアウトしたと思っていた伊藤さん。
最近になって彼女は、よく私に話しかけてくるようになった。

理由はすぐ分かった。

「今日って紫村先輩は図書室にいる?」

「いるよ。昼休みに当番することになってる」

ちなみに私とペアである。

紫村先輩が当番だと、女子生徒の利用が増える。
東雲くんが当番だと、不気味がって量が減る。
個人的には後者の仕事が楽で好きだった。

「紫村先輩ってどんな本が好きなの? 共通の話題が欲しくて」

「……え? 紫村先輩の趣味?」

私は言い淀んだ。

さわやかスポーツマンなのに、先輩が借りていく本には特徴があった。グロテスクで耽美的な作風のやつばかり。

それに気づいたのは東雲くんだけど、私たちはそれに触れないことに決めたのだ。

「さあ? ライトノベルとかはあんまり読まないみたいだよ」

「そうなんだ。本とか読書感想文のためにしか読んだことがなくて。吉田さんはどんなの読んでるの?」

「私?」

聞いちゃう?
聞いてくれちゃう?
語りだしたら止まらなくなるよ?

「中学生の時に読んで、神と思っている作家さんがいるの! 私たちと同じ歳なのに、なんでこんな文章を書けるのかって感動するよ。初めて読んだのはデビュー作でホラーなんだけど、怖さよりも切なさに胸が締め付けられてね。残念ながら図書室には置いていないんだけど、読みたかったら布教用が3冊家にあるから持ってくるけど、読む?」

「……」

あれ?

反応がないと思ったら、伊藤さんの顔はちょっと引きつっていた。

「ホラーは苦手だった? ごめんね」

「……うん」

「怖かった……」と伊藤さんが呟いたのを聞き逃さなかった。
そんなに苦手だったのか、ごめん。

「でもね、本当に素敵なの。この本があったおかげで私は生きてる」

机の中に入れてある、ハードカバーの表紙を撫でた。

それが癖になっているせいで、手触り一つで気持ちが落ち着く。
まるで薬みたいだった。

「佐藤さんは本当に好きなんだね。その作家さんのこと」

「うん、大好き」

頬が自然と緩んだ。
東雲くんの本のことを考えているだけで、心が温かくなるんだ。

恋もこんな感じなら、分かりやすいのになぁ。

「じゃあ、また後で」と言って伊藤さんは去っていった。
さて、次の授業は何だったかな。

「……吉田さん」

机に伏せて寝ていたはずの東雲くんが目を覚ましていた。
夜遅くまで執筆していたようで、朝から爆睡していたのに。

「ごめん、うるさかった?」

「……いや」

腕の中で顔を伏せたまま、東雲くんは小さく呟いた。

「ありがとう」

その耳は真っ赤になっていて、会話を聞いていたらしい。
別に隠すことではない。

「先生の本、本当に大好きだよ」

「……うん、わかった」

何度も伝えているはずなのに、照れ屋さんである。


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