Freaks! “つゆ払い役”の天才魔導士が役目を終えて退場、なんて許さない!

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第五章 存在証明

ep.22 君という光

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 ギルバートは、髪に触れる柔らかい感触で目が覚めた。
一瞬、魔力が昂り、はっと目を開ける。コンスタンシアの指先が葉っぱをつまんでいた。
自然と、肩から力が抜ける。

「起こしちゃった?」

コンスタンシアが少し申し訳なさそうな顔で笑う。

「枯葉が落ちてきたから」

ギルバートは、その言葉にわずかに安堵した。
辺りにはオレンジの残光が落ちるばかりだった。

「よく眠れた?」

彼女の細めた目が、驚くほど優しい。
ギルバートは無意識に口元へ手を当て、視線を逸らした。

「……ああ」
「よかった」

彼女はそう言って笑う。そしてふと、思案するように黙り込んだ。

「もし、また辛いことがあったら教えてね。わたしじゃ、役に立てないかもしれないけど」

自分を見上げた彼女の目が、あまりにも真剣だった。
あんなものを見せて、きっと怖がられると思っていた。

彼女と並んで座れるのは、この森のベンチでだけ。
それ以上を願う資格はないのだと――。

なのに、ほんの一瞬だけ。
この時間が終わらなければいい。そんな思いが、ふっと胸をよぎった。

ギルバートはその衝動を押し殺すように目を伏せた。

「……ありがとう」

彼女に頼るつもりはない。
彼女には、彼女の世界がある。

「ねえ」

彼女が、いつもの調子で、少し躊躇いがちに口を開く。

「明日は何か……クッキーでも、持ってくるね」

夕暮れを映したその瞳が、柔らかく揺れた。

「一緒に食べよう?」

ギルバートの胸は、かすかに痛んだ。

「明日……?」

ギルバートは思わず問い返す。
気づかぬうちに、眉が寄っていた。

「あ、無理しなくてもいいんだよ。まだ痛いよね? 明日じゃなくても、いつでも」

彼女の目が、ギルバートの顔を覗き込む。
明日があると、純粋に信じている目。

「……わかった」

ギルバートは、なぜそう答えてしまったのか、自分でもわからなかった。

 彼女と別れ、一人になった自分の部屋。扉を閉めると、静寂が押し寄せてくる。
本当は、まだ何も癒えてはいなかった。

昨日、彼女が座っていた椅子だけが、机からわずかにはみ出していた。
冷たくなった部屋の中で、そこだけがまだ人の温度を残しているように見えた。

ギルバートは、コートのポケットに手を入れた。
そこには、彼女がくれた飴の包み紙。

『来てくれて、嬉しかったからだよ』

綻ぶように笑った彼女の顔を思い出す。
視界の端に、空のごみ箱が映った。

一瞬、喉の奥で呼吸が引っかかる。

――できない。

まだ、彼女の笑う顔を見ていたかった。
もし許されるなら、明日も、明後日も、その次の日も――。

ギルバートは、ポケットに残るもう一枚の紙切れ――中央機構の魔導士の連絡先――を取り出した。
その二枚の紙を重ね、そっと机の引き出しに仕舞い込んだ。

 夜。ギルバートは眠れなかった。寮の裏手に腰を下ろし、風を浴びていた。

目を閉じて、夕暮れの出来事を反芻していたとき。
座り込んだ足元に鼠が一匹駆けてきた。その姿が目に入った瞬間、胸の呪印が鈍く疼いた。

カルダの伝令だ。
追い払いたい衝動を、拳に爪を立てて押さえる。
ギルバートは静かに立ち上がった。

 深夜、音のないカルダの執務室。
執務卓越しに、カルダがギルバートの頭から足先まで視線を走らせた。

「こんな夜中に何をしていた?」

ギルバートは無意識に脇腹に手を添える。
視線を落とし、何も悟られないよう声を沈めた。

「あなたには、関係ありません。……風に当たっていただけです」

カルダが、かすかに顔を顰める。

「仕事だ」

カルダは机上に紙束を放った。
ギルバートはカルダに鋭い一瞥を向け、書類を手に取る。

《角蜘蛛》へ潜入し、メリエルの“仕入れリスト”――次に狙われる、魔導士の卵たちの名を盗み出すこと。

「これを、俺に……?」
「この場に、ほかに誰がいる?」

カルダが乾いた声で言い捨てた。
ギルバートは、その視線を真正面から受け止める。
しばらく見つめ合った末、カルダが白い壁の方へと目を逸らした。

「受けられません」

吐息がわずかに混じった。
カルダは、指先で机の縁をかつんと叩いた。

「なぜだ?」
「……なぜ?」

ギルバートはカルダの言葉を繰り返す。

「俺もあなたに聞きたい。なぜ、俺なんですか」
「わかりきっていることを聞くな。生徒をこんな危険な任務に関わらせるわけがないだろう」

ギルバートの喉が鳴った。

「俺は……?」
「お前は、兵器で、化け物だ」

俺は傷ついても、死んでも構わないというのか?

「……俺は……兵器じゃありません」

生きたい。
けれど、化け物だ。それだけは、否定することができなかった。

カルダが鼻で笑う。

「兵器でないなら、生徒として扱われる理由を言ってみろ」

カルダの声は淡々としていた。その視線は壁に向いたまま、指先で書類の端を弄ぶ。

ギルバートは答えられなかった。

俺が、守られていい理由。
戦わなくていい理由。
誰かが俺を、“普通”のように扱う理由。

「お前がここにいられるのは、それが任務の対価だからだ」
「……わかっています」

カルダは、ため息をひとつ吐いた。
弄んでいた書類の上に、叩きつけるように手のひらを振り下ろす。

「では、断る理由はないな?」

ギルバートの肩が強張る。

「……せめて、生きて帰れる保証をください」

声は弱々しかった。

戦わずにいられるとも、許されるとも、信じてはいない。
それでも、生きて――確かめたかった。自分もまた、あの穏やかな光の中にいられる人間なのかを。
せめて、そう思える何かを、掴み取りたかった。
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