ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ

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第365話 泣きっ面の池谷

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 ゲーム世界から現実世界に無事、帰還し、自衛隊員によって取り押さえられたピンハネの姿を見て、俺こと高橋翔はニヤリと笑う。

「どうやら上手くいった様だな……」

 ピンハネがゲームに帰る頻度は把握済。
 ピンハネが現実世界にいる内に、エレメンタルの力とコネを最大限利用して情報を探り、出てきた情報を国内外に対して盛大にばら撒いた。
 本当はミズガルズ聖国に住む人達にピンハネの犯した罪を知って貰い自発的にピンハネ排除に動いて欲しかったが、時間も無かった事だしな。
 そこは闇の大精霊の力を借り、洗脳に近い形で聖国の上層部を動かした。
 普通であれば、こうは行かなかった筈だ。
 何せ、このピンハネが行ってきた犯罪行為は聖国上層部も関与しているのだから……。

 いやー、吐き気を催す程の邪悪って存在するんだなという事を強く認識させられたよ。
 どこもかしこも見えない所で無茶苦茶してやがる。
 だからこそ、聖国上層部を洗脳し、ピンハネの人間牧場を潰しても、まるで良心が痛まなかった。

 やはり、宗教国家や税金を食い物に綺麗事や人助けを生業とする奴等は信用に値しない。
 そういう奴は、決まって保護した弱者を自分の都合の良いように使い倒す。
 無償で働かされ、性搾取される修道士や、公金を受け取り活動する活動家のデモ活動に参加させられる保護対象の筈の子女然りだ。

 潰れて良かった。まあ、ピンハネを蜥蜴の尻尾切りの様に切り捨て、全ての罪を擦りつけるとは思わなかったけど……。
 だからこそ、ピンハネは早々に諦めたとも言える。
 巨悪は依然として無くならない。
 でも、俺が巨悪と戦う義理もない。
 今を楽しく生きるだけで精一杯だ。
 向こう側から俺にちょっかいを出してこない限り、俺から何かをする気もない。
 俺は平和主義者なんでね。
 目に付くすべてのものに喧嘩を仕掛けるのではなく降り掛かる火の粉を払うだけに留めるさ。

「さて、ピンハネの件は片付いた。後はケジメを付けるだけだな……」

 そう呟くと、俺は、姿を消すアイテム、隠密マントを被ると、自衛隊員に捕縛され連れて行かれるピンハネを後目にその場を後にした。

 ◆◆◆

 ここは村井がピンハネと共に新たに立ち上げた公益財団法人の舎屋。
 村井は顔を真っ青に染め上げると、持っていたマグカップを床に落とす。

『――速報です。港区新橋を中心に東京都で発生した大規模テロ。このテロ集団と主犯格と見られる女が逮捕されました。逮捕されたのは公益財団法人の理事で、国籍不明のピンハネ容疑者と、十名の男女で……』

「そんな……。まさか……」

 村井とピンハネは一連托生。
 村井の立場は、ピンハネによって保証されている。
 しかし、今、ピンハネが逮捕された事により、その保証がなくなってしまった。
 これは大変な事だ。
 何せ、今の立場は、ピンハネの持つ闇の上位精霊による東京都知事脅迫と議会洗脳により成り立っている。
 それが、ピンハネの逮捕により瓦解したのだ。
 闇の上位精霊がいれば、ピンハネの逮捕報道を許す筈がない。
 しかし、今、現実に逮捕報道されている。
 それはピンハネの持つ闇の上位精霊が何者かにより倒されてしまった事を意味している。

 東京都から受け取り公益法人に配賦する予定だった二兆円の公金も、ピンハネが一元管理していた。
 その金で金塊や貴金属を購入し、向こうの世界で換金してから特殊な首輪の買い付けを行うと言っていた事から、おそらく金は残っていない。

 一番の問題は、村井がこの公益財団法人の代表理事であるという事……。
 どうすれば……。私はどうすればいい。
 理事の一人であるピンハネが東京都から受け取った二兆円もの公金をテロ資金として使いましたなんて公表できる筈がない。
 しかし、報道では公益財団法人の名称が出てしまっている。
 既にテロも行われてしまった。
 東京都の要請で自衛隊も出動したし、これほど大事となっては、国も本腰を入れる。

 チラリと窓の外を見ると、段ボールを持った黒服達がこちらに向かってくるのが見えた。

「げぇっ!?」

 まず間違いなく警察だ。もしかしたら、国税庁の人間も混じっているかも知れない。

 ――終わった。完全に終わった。

 壁を背にへたり込むと、村井はがっくり項垂れる。
 すべての責任がピンハネにあったとしても、二兆円もの大金が無くなったと知られれば国民が黙っていない。それに今の村井はこの公益財団法人の代表理事。タダで済むとは到底思えない。
 洗脳していた東京都議達も今頃、顔を青褪めさせている筈だ。
 洗脳していたとはいえ、彼等にはその記憶があるのだから……。

「な、何でこんな事に……。ううっ……! うわぁああああっ!?」

 村井は頭を掻き毟り床に横たわると、警察が部屋に突入して来るのをただ呆然とした表情で待ち続けた。

 ◆◆◆

「やった。やったわ……! 私は賭けに勝った。勝った!」

 村井が絶望の淵にいる頃、東京都知事である池谷はピンハネ逮捕の報道を見て狂喜乱舞していた。
 ピンハネの逮捕。嬉しくない筈がない。
 何せ、目の上のたん瘤が消えたのだ。嬉しいに決まっている。

 首に嵌った隷属の首輪。
 これで、この忌々しい隷属の首輪を堂々と外す方法を探る事ができる。
 ピンハネがいる時はその余裕すらなかった。
 利用され続けていたからだ。

「もう私を利用する者なんていな……」

 テレビの横に飾ってある氷樹を入れた小瓶。
 それが視界に入った瞬間、現実に引き戻される。

「……だ、駄目だわ」

 全然、自由を取り戻していない。
 むしろ、これからが地獄の始まり。
 レアメタルと氷樹の流通網は依然として高橋翔の手にあり、洗脳されていたとはいえ東京都議会は、テロを引き起こした者が理事を務める公益財団法人に、二兆円もの大金を預ける事を承認してしまった。
 しかも、ピンハネはそれを原資に、隷属の首輪を購入……。当然、二兆円は残っていない。
 そして、ピンハネがテロを引き起こし逮捕された今、東京都議会が賛成多数で承認したこの件はすぐに表沙汰となる。
 都議会議員選挙と東京都知事選挙が近い今、それはあまりに重い枷。
 下手をすれば、全議員落選の可能性すらある。
 村井が代表理事を務める公益財団法人に、東京都内で活動する公益法人の助成金支給の采配を任せてしまった為、公益法人の助力を得るのは難しい。
 采配する筈の二兆円が隷属の首輪の購入費用に消えてしまったのだから当然だ。
 誰も好き好んで選挙応援などしない。

 どうすれば……。私はどうすれば……。

 思考を巡らし解決策の模索をしていると、スマートフォンから着信音が鳴る。

 電話の主は仁海俊英。
 東京都知事である池谷の後ろ盾にして、池谷を東京都知事という権力の中枢へと導いた張本人。政界における師といっても過言ではない存在。
 このタイミングで掛かってきた仁海からの電話。池谷は警戒しながら電話に出る。

「はい。池谷ですが……。先生。ご無沙汰しております」
『ああ、君も随分と活躍しているようだね。何でも、村井に騙され二兆円もの金を騙し取られたんだって?』

 その瞬間、場が凍り付く。
 何の遠慮も無く突かれた核心。

「仰っている意味がわかりませんわ。何を言っているのです?」

 池谷は長い政治家人生の中で培ってきたポーカーフェイスでやり過ごす。
 しかし、仁海もまた政界の重鎮。その場凌ぎは通用しない。
 そもそもこれは電話でのやり取り。ポーカーフェイスが通用しないのも当たり前。

『いやね。先日、都議会議員の室井君が突然、私に泣き付いてきたんだ。驚いたよ。何事かと聞いてみれば、君が草案を纏め提出した詐欺紛いの二兆円議案に賛成してしまったというじゃないか。東京都の歳入の四分の一を公益財団法人に任せ、民間の公益法人に配賦させるという初の試みだからこそ賛成したのに、蓋を開けてみれば二兆円の配賦は行われず仕舞い。いい様に働かせるだけ働かされたという声や、従っただけなのに通報され逮捕された等という声も上がっている……』
「お言葉ですが、あれは私が草案を纏めたものではありません。生活文化スポーツ局の局長が纏めたものです」

 そう。私はそんな物を書いていない。
 確かに、書かせたのは私かも知れないが、実際に書いていないのだ。
 その責任を私に求められても困る。

「それに、詐欺紛いと仰いますが、判断に必要な資料は予め、議員の皆様に配布しております。自分が賛成した議案に対して、後になってから異論を唱えるのは議員としと如何なものでしょうか?」

 例え、それが闇の上位精霊、ディアボロスに操られ賛成した議案だとしても、一度、賛成したからには文句を言う資格はない。

『しかし、こう大事となっては誰かが責任を取らねば収まらないだろう? 問題は誰が責任を取るのかだ。賛成した議員か? それとも議案を提出した君か? 都議会議員にも生活がある。彼ら全員を失職させる気かね……』

 二兆円という金額。そして、それがテロに使われたという事実。
 既にこの件は、私一人が責任を取っただけでは収まらない所まで来ている。

「……ええ、この件は、私だけではない。議案に賛成した都議会議員全員の責任です」
『知事を辞職するつもりはないようだな。都議会の解散でもするつもりか?』
「ええ、必要があればそうするつもりです。今であれば私の一存で解散に踏み切る事ができます。例えば、台風の発生する八月末を選挙日に設定する事も可能……。投票率が下がれば、必然的に固定票を持つ私が勝ちます」

 有象無象を知事候補として並べ立て表を分散させる事もできる。

『……そうか。君がそう言うならそうなのだろうな』

 何か含みのある言葉に、池谷は警戒心を露わにする。

『いや安心した。実は君に今回協力できなくなった事をどう伝えようか迷っていたのだよ』
「はっ? それはどういう……」

 池谷の固定票は仁海の助力あってのもの。
 仁海の協力が無いとなると話がだいぶ変わってくる。

『今回の都知事戦には、私の孫を擁立しようと思っていてね。残念だが、今回、私は君の応援には回れない。情勢が情勢だけに援助も難しいだろう。だが、君がもし今回の都知事選で勝つような事があれば……。その時は改めて君の力になろうじゃないか』

 自分の孫を池谷の対抗馬として送り出す。
 堂々と真正面から言われた池谷は盛大に顔を引き攣らせた。
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