364 / 411
第364話 はっ……?
しおりを挟む
「はっ……?」
人間牧場があった筈の更地。
それがまっさらな更地になっているのを見て、ピンハネはもう一度、目を瞑る。
「…………」
おかしいな。場所を間違えたか?
何で、私の人間牧場が更地になっている?
借金奴隷共を連れて来た時はまだ更地ではなかった。
そもそも何で更地になっているんだ。ここは私の人間牧場。
ミズガルズ聖国には、家畜業としか伝えていない。
カモフラージュ代わりとして、本物の家畜も飼っていたし、内部に入り込み詳しく調べなければ分からない筈だ。
ピンハネは一縷の望みを賭け、もう一度だけ目を開く。
しかし、目の前の光景は変わらない。
そこには、まっさらな更地が広がるだけ。
ピンハネは膝をつくと、呆然とした表情を浮かべる。
「な、何で……」
何故、私の人間牧場が更地になっている。
人間牧場で飼っていた家畜共はどこに行った。
まさか、逃げたのか? 逃げたのか!?
家畜の分際で人間様に逆らいやがって……!
それとも、家畜共が脱走し、聖国に人間牧場の事を話したのか?
もし、そうだとしたら絶対に許さない。
誰に向ければいいのか分からない怒りの炎が、ピンハネの心を焼いていく。
「誰だ……誰が私の牧場を勝手に……勝手に……!」
勝手に更地にしたァァァァ!
何の権利があって……! 何で、何で、何でェェェェ!
その場に座り込み嘆いていると、背後から声が聞こえてくる。
「あ、いたいた。ここにいたんですか。探しましたよ」
振り向くと、そこには、まるで人間らしい格好をした家畜が立っていた。
表情は笑顔に溢れ、ピンハネとは対照的。
「家畜13号……」
「嫌だなぁ。家畜13号だなんて、そんな呼び方やめて下さいよ。僕には、スタインっていう名前があるんですから」
スタイン? 何を馬鹿な……。それは、家畜の代表格であるホルスタインを捩り、私がふざけて付けた呼び名だろ。
しかし、そんな事はどうでもいい。
ピンハネはスタインに詰め寄ると、状況説明を求める。
「……スタイン。質問に答えろ。何故、私の牧場が更地になっている。他の家畜共はどこに行った」
そう尋ねると、スタインは近くに建てられた小屋を見ながら言う。
「ああ、そうでした。そうでした。まあ話せば長くなると言いますか……。僕もピンハネさんに伝えなきゃいけないことがあるんですよ。質問に答えますので、ちょっと座れる場所に行きませんか?」
「……いいだろう。詳しく話を聞かせてもらおうじゃないか」
今のピンハネは怒り心頭。色々な事が立て続けに起こり冷静さを欠いている。
だから気付かない。数日前までは、あんな小屋が無かった事に……。
「こちらです。飲み物を持ってきますので、座ってお待ちください」
「ああ……」
小屋の中に入りスタインに促されるまま席に座る。
「色々あってお疲れでしょう。疲れを癒す効能のあるハーブティーです。さて、どこから話しましょうかね……」
口の中を湿らす程度にハーブティーを軽く口に含むと、ピンハネは手に持つティーカップをテーブルに叩き付ける。
「どこからでもいい! 情報の取捨選択は私が行う。余計な事を考えるな。お前はあった事を一から話していけばい……」
そこまで話すと、急に眩暈に襲われる。
「こ、これは、一体……」
あまりの怒りに血管が切れてしまったのだろうか?
テーブルの上に伏せる様にして脱力した体。
「スタイン。手を貸せ、私を横に……」
動けない訳ではないが、あまりにもしんどい。
手を借りる為、スタインに手を伸ばすと、スタインは満面の笑みを浮かべ手を払う。
「流石……。即効性のある薬は違いますな。どうです? ピンハネさん。動けないでしょう?」
「な……。どういう事だ……」
まさか、盛ったのか?
この私に怪しげな薬を盛ったのか??
「私が何を……」
「私が何を?」
ピンハネの言葉に、先程まで笑顔だったスタインが、顔を真っ赤にしながら激昂する。
「――私が何をじゃないだろっ! いつまで主人気取りでいるつもりだ貴様ァァァァ! 僕はもうお前の奴隷じゃないんだよ! 偉そうな事を言うなァァァァ!」
「なっ……! どういう事だ……」
この男には返しきれない程の借金を背負わせた筈だ。逆らう事ができぬ様、契約書で縛りも入れた。にも関わらず、何故、逆らう様な事ができる!?
すると、ピンハネの思考を読んだスタインが怒りながら言う。
「――返せるはずが無いとでも思っていただろ! 残念だったな! あんたの留守中に訪れた人が僕達の借金をぜーんぶ肩代わりしてくれたんだよ! 特別なアイテムで契約書も破棄して貰った! あんたの人間牧場を国に告発する事を条件になっ!」
「な、なんだって!?」
ふ、ふざけやがって!
「誰だ。誰がそんな事を……。うっ!?」
気力を振りしぶり声を上げると、その瞬間、頭をテーブルに押し付けられる。
「――いつまで上位者のつもりだ。終わったんだよ。あんたが僕等の上にいた時代は! いい加減、自分が今、置かれた立ち位置を自覚しろ!」
ぐっ、おのれェェェェ!
今まで見下していた相手にそう言われるのが一番腹が立つ。
何が自覚しろだ! ただ借金を肩代わりして貰っただけ。主人が変わっただけで、結局、何も変わっていないじゃないか!
「うぐぐぐぐっ……! 調子に乗るなよ。お前、一人などすぐにでも無力化できる。その事をわかっているんだろうなァァァァ」
幸いな事にアイテムストレージには一枠の空きがある。
このクズを収納し、解毒薬を飲めば形勢逆転。その後、拷問するなりして情報を聞き出せばいい。
スタインをアイテムストレージ内に格納すべく手を伸ばすと、突然、小屋の扉が開き数名の衛兵が入ってくる。
「そこまでだ。無駄な抵抗は止め大人しくしなさい」
「ぐっ、貴様ァァァァ!」
小屋の中に入ってきた衛兵を見て、ピンハネはスタインを睨み付ける。
小屋に入ってきた衛兵に視線を向けると、スタインは安堵のため息を吐いた。
「ふ、ははっ……。残念だったね。聖国には既に告発済みさ! 人間牧場が更地になっている事からそれくらい察しろよ。バーカ!」
そうか、貴様がっ……!!
「……殺す。お前だけは絶対にぶっ殺す!」
小屋の中に衛兵が入ってきたという事は、最初から私を捕えるつもりだったという事に他ならない。
事情聴取もなく牧場を更地にされたんだ。
既に証拠も抑えられているのだろう。
衛兵は、ピンハネに見せ付ける様にして紙を拡げると、声高らかにそれを読み上げる。
「罪人、ピンハネ・ポバティー。貴様を人身売買及び奴隷の不法所持、殺害、傷害の罪により投獄する」
ぐっ……勝手な事を……!
修道士との間に生まれた赤子や背教者の処理。
聖国がひた隠しにする闇。その処分を担ってきたのが、この私だ。
自分達の汚い部分は棚に上げ、責任全てをこの私に押し付ける気か!?
冗談じゃない。冗談じゃない!!
「……私を投獄していいのか? 何なら全てを白日の下にしてもいいんだぞ? でも、それだと君達の上司も困るんじゃないかな?」
投獄された所で、外と連絡を取る手段などいくらでもある。
いつもであれば通じる脅し文句。
しかし、証拠を抑えられた今と昔とでは置かれた状況があまりに違う。
ピンハネがそう告げた瞬間、小屋の中の空気が重くなる。
衛兵達は鍔に手を掛けると、互いに顔を見合わせ、ピンハネに視線を向けた。
「……ならば残念。あなたには消えて貰う他、ありません」
衛兵の一人が抜剣すると、もう一人がピンハネを抑え込む。
「あ、がっ! 貴様、何のつもりだ!」
「首を両断します。安心して下さい。痛いのは最初だけです。大人しくして下さい」
「な、何だとっ! ふ、ふざけるなぁぁぁぁ!」
何で、そんな話になる!?
違うだろ、そこは上司に確認を取り、一旦、話を持ち帰る所だろう。この愚か者がァァァァ!
迫り来る刃。
心の中で絶叫を上げると、ピンハネは抑え付けている衛兵をアイテムストレージに収納し、迫り来る刃の前で解放する。
「ぎ、ぎゃああああっ!?」
「な、何っ!?」
味方を袈裟斬りにした衛兵は動揺し、手に持っていた剣を取りこぼす。
その隙を抜い、もう一人の衛兵をアイテムストレージに格納すると、解毒薬を取り出し、気力で飲み切った。
「う、うわぁああああっ! 誰か、誰か助けて! 衛兵さァァァァん!」
小屋から逃げ出すスタインに視線を向け、ピンハネは冷や汗を拭う。
あ、危なかった。
今まで感じた事のない命の危機。
相当強い薬だったのだろう。解毒薬を飲んで尚、体の怠さが抜けない。
「衛兵さん! ピンハネが! ピンハネが衛兵二人を……!」
小屋の外から聞こえるスタインの声。
おそらく、外に衛兵が待機しているのだろう。
今になって高橋翔の言葉を理解する。
『好きな方を選べ』とはこの事を言っていたのだと……。
自衛の為とはいえ、衛兵を倒したという事実は間違いなく悪い方向に作用する。
今、衛兵に捕まれば、私はまず間違いなく死罪となるだろう。
おそらく、高橋翔はこうなる事を予期していた。生か死か。つまり、奴は私に選択を迫っているのだ。
「こっちの世界で裁かれ物理的に死ぬか、むこうの世界で社会的に死ぬか……か……」
なんて酷い選択肢だろうか。
あちらの世界に転移すれば、その瞬間、自衛隊員に取り押さえられる。
あれほどの事をしたのだ。
死にはしないだろう。しかし、タダで済むとも思えない。
良くて長い有期刑。悪ければ、無期刑といった所……。
しかし、それでも生き残る選択肢がある以上、遥かにマシだ。
ここにいれば、まず間違いなく死が訪れる。
「衛兵さん! 早く、あいつを……! ピンハネを捕まえて下さい!」
不快なスタインの声と、小屋に向かってくる衛兵の足音。
選択の時間は残されていない。
「くそっ……。こんな事になると分かっていれば……」
こんな事になると分かっていれば、最初から神の言う事に耳を傾けなかった。
輝かしい未来を幻視し、高橋翔を侮った結果がこれか。
しかも、奴隷に裏切られ衛兵に売られる始末……。不本意な結果ではあるが時間もない。
「……今回は潔く負けを認めようじゃないか」
しかし、私はまだ終わらない。地獄の底からでも這い上がってみせる。
「……転移。新橋」
自嘲気味にそう呟くと、ピンハネは、自衛隊が闊歩する新橋へと転移した。
人間牧場があった筈の更地。
それがまっさらな更地になっているのを見て、ピンハネはもう一度、目を瞑る。
「…………」
おかしいな。場所を間違えたか?
何で、私の人間牧場が更地になっている?
借金奴隷共を連れて来た時はまだ更地ではなかった。
そもそも何で更地になっているんだ。ここは私の人間牧場。
ミズガルズ聖国には、家畜業としか伝えていない。
カモフラージュ代わりとして、本物の家畜も飼っていたし、内部に入り込み詳しく調べなければ分からない筈だ。
ピンハネは一縷の望みを賭け、もう一度だけ目を開く。
しかし、目の前の光景は変わらない。
そこには、まっさらな更地が広がるだけ。
ピンハネは膝をつくと、呆然とした表情を浮かべる。
「な、何で……」
何故、私の人間牧場が更地になっている。
人間牧場で飼っていた家畜共はどこに行った。
まさか、逃げたのか? 逃げたのか!?
家畜の分際で人間様に逆らいやがって……!
それとも、家畜共が脱走し、聖国に人間牧場の事を話したのか?
もし、そうだとしたら絶対に許さない。
誰に向ければいいのか分からない怒りの炎が、ピンハネの心を焼いていく。
「誰だ……誰が私の牧場を勝手に……勝手に……!」
勝手に更地にしたァァァァ!
何の権利があって……! 何で、何で、何でェェェェ!
その場に座り込み嘆いていると、背後から声が聞こえてくる。
「あ、いたいた。ここにいたんですか。探しましたよ」
振り向くと、そこには、まるで人間らしい格好をした家畜が立っていた。
表情は笑顔に溢れ、ピンハネとは対照的。
「家畜13号……」
「嫌だなぁ。家畜13号だなんて、そんな呼び方やめて下さいよ。僕には、スタインっていう名前があるんですから」
スタイン? 何を馬鹿な……。それは、家畜の代表格であるホルスタインを捩り、私がふざけて付けた呼び名だろ。
しかし、そんな事はどうでもいい。
ピンハネはスタインに詰め寄ると、状況説明を求める。
「……スタイン。質問に答えろ。何故、私の牧場が更地になっている。他の家畜共はどこに行った」
そう尋ねると、スタインは近くに建てられた小屋を見ながら言う。
「ああ、そうでした。そうでした。まあ話せば長くなると言いますか……。僕もピンハネさんに伝えなきゃいけないことがあるんですよ。質問に答えますので、ちょっと座れる場所に行きませんか?」
「……いいだろう。詳しく話を聞かせてもらおうじゃないか」
今のピンハネは怒り心頭。色々な事が立て続けに起こり冷静さを欠いている。
だから気付かない。数日前までは、あんな小屋が無かった事に……。
「こちらです。飲み物を持ってきますので、座ってお待ちください」
「ああ……」
小屋の中に入りスタインに促されるまま席に座る。
「色々あってお疲れでしょう。疲れを癒す効能のあるハーブティーです。さて、どこから話しましょうかね……」
口の中を湿らす程度にハーブティーを軽く口に含むと、ピンハネは手に持つティーカップをテーブルに叩き付ける。
「どこからでもいい! 情報の取捨選択は私が行う。余計な事を考えるな。お前はあった事を一から話していけばい……」
そこまで話すと、急に眩暈に襲われる。
「こ、これは、一体……」
あまりの怒りに血管が切れてしまったのだろうか?
テーブルの上に伏せる様にして脱力した体。
「スタイン。手を貸せ、私を横に……」
動けない訳ではないが、あまりにもしんどい。
手を借りる為、スタインに手を伸ばすと、スタインは満面の笑みを浮かべ手を払う。
「流石……。即効性のある薬は違いますな。どうです? ピンハネさん。動けないでしょう?」
「な……。どういう事だ……」
まさか、盛ったのか?
この私に怪しげな薬を盛ったのか??
「私が何を……」
「私が何を?」
ピンハネの言葉に、先程まで笑顔だったスタインが、顔を真っ赤にしながら激昂する。
「――私が何をじゃないだろっ! いつまで主人気取りでいるつもりだ貴様ァァァァ! 僕はもうお前の奴隷じゃないんだよ! 偉そうな事を言うなァァァァ!」
「なっ……! どういう事だ……」
この男には返しきれない程の借金を背負わせた筈だ。逆らう事ができぬ様、契約書で縛りも入れた。にも関わらず、何故、逆らう様な事ができる!?
すると、ピンハネの思考を読んだスタインが怒りながら言う。
「――返せるはずが無いとでも思っていただろ! 残念だったな! あんたの留守中に訪れた人が僕達の借金をぜーんぶ肩代わりしてくれたんだよ! 特別なアイテムで契約書も破棄して貰った! あんたの人間牧場を国に告発する事を条件になっ!」
「な、なんだって!?」
ふ、ふざけやがって!
「誰だ。誰がそんな事を……。うっ!?」
気力を振りしぶり声を上げると、その瞬間、頭をテーブルに押し付けられる。
「――いつまで上位者のつもりだ。終わったんだよ。あんたが僕等の上にいた時代は! いい加減、自分が今、置かれた立ち位置を自覚しろ!」
ぐっ、おのれェェェェ!
今まで見下していた相手にそう言われるのが一番腹が立つ。
何が自覚しろだ! ただ借金を肩代わりして貰っただけ。主人が変わっただけで、結局、何も変わっていないじゃないか!
「うぐぐぐぐっ……! 調子に乗るなよ。お前、一人などすぐにでも無力化できる。その事をわかっているんだろうなァァァァ」
幸いな事にアイテムストレージには一枠の空きがある。
このクズを収納し、解毒薬を飲めば形勢逆転。その後、拷問するなりして情報を聞き出せばいい。
スタインをアイテムストレージ内に格納すべく手を伸ばすと、突然、小屋の扉が開き数名の衛兵が入ってくる。
「そこまでだ。無駄な抵抗は止め大人しくしなさい」
「ぐっ、貴様ァァァァ!」
小屋の中に入ってきた衛兵を見て、ピンハネはスタインを睨み付ける。
小屋に入ってきた衛兵に視線を向けると、スタインは安堵のため息を吐いた。
「ふ、ははっ……。残念だったね。聖国には既に告発済みさ! 人間牧場が更地になっている事からそれくらい察しろよ。バーカ!」
そうか、貴様がっ……!!
「……殺す。お前だけは絶対にぶっ殺す!」
小屋の中に衛兵が入ってきたという事は、最初から私を捕えるつもりだったという事に他ならない。
事情聴取もなく牧場を更地にされたんだ。
既に証拠も抑えられているのだろう。
衛兵は、ピンハネに見せ付ける様にして紙を拡げると、声高らかにそれを読み上げる。
「罪人、ピンハネ・ポバティー。貴様を人身売買及び奴隷の不法所持、殺害、傷害の罪により投獄する」
ぐっ……勝手な事を……!
修道士との間に生まれた赤子や背教者の処理。
聖国がひた隠しにする闇。その処分を担ってきたのが、この私だ。
自分達の汚い部分は棚に上げ、責任全てをこの私に押し付ける気か!?
冗談じゃない。冗談じゃない!!
「……私を投獄していいのか? 何なら全てを白日の下にしてもいいんだぞ? でも、それだと君達の上司も困るんじゃないかな?」
投獄された所で、外と連絡を取る手段などいくらでもある。
いつもであれば通じる脅し文句。
しかし、証拠を抑えられた今と昔とでは置かれた状況があまりに違う。
ピンハネがそう告げた瞬間、小屋の中の空気が重くなる。
衛兵達は鍔に手を掛けると、互いに顔を見合わせ、ピンハネに視線を向けた。
「……ならば残念。あなたには消えて貰う他、ありません」
衛兵の一人が抜剣すると、もう一人がピンハネを抑え込む。
「あ、がっ! 貴様、何のつもりだ!」
「首を両断します。安心して下さい。痛いのは最初だけです。大人しくして下さい」
「な、何だとっ! ふ、ふざけるなぁぁぁぁ!」
何で、そんな話になる!?
違うだろ、そこは上司に確認を取り、一旦、話を持ち帰る所だろう。この愚か者がァァァァ!
迫り来る刃。
心の中で絶叫を上げると、ピンハネは抑え付けている衛兵をアイテムストレージに収納し、迫り来る刃の前で解放する。
「ぎ、ぎゃああああっ!?」
「な、何っ!?」
味方を袈裟斬りにした衛兵は動揺し、手に持っていた剣を取りこぼす。
その隙を抜い、もう一人の衛兵をアイテムストレージに格納すると、解毒薬を取り出し、気力で飲み切った。
「う、うわぁああああっ! 誰か、誰か助けて! 衛兵さァァァァん!」
小屋から逃げ出すスタインに視線を向け、ピンハネは冷や汗を拭う。
あ、危なかった。
今まで感じた事のない命の危機。
相当強い薬だったのだろう。解毒薬を飲んで尚、体の怠さが抜けない。
「衛兵さん! ピンハネが! ピンハネが衛兵二人を……!」
小屋の外から聞こえるスタインの声。
おそらく、外に衛兵が待機しているのだろう。
今になって高橋翔の言葉を理解する。
『好きな方を選べ』とはこの事を言っていたのだと……。
自衛の為とはいえ、衛兵を倒したという事実は間違いなく悪い方向に作用する。
今、衛兵に捕まれば、私はまず間違いなく死罪となるだろう。
おそらく、高橋翔はこうなる事を予期していた。生か死か。つまり、奴は私に選択を迫っているのだ。
「こっちの世界で裁かれ物理的に死ぬか、むこうの世界で社会的に死ぬか……か……」
なんて酷い選択肢だろうか。
あちらの世界に転移すれば、その瞬間、自衛隊員に取り押さえられる。
あれほどの事をしたのだ。
死にはしないだろう。しかし、タダで済むとも思えない。
良くて長い有期刑。悪ければ、無期刑といった所……。
しかし、それでも生き残る選択肢がある以上、遥かにマシだ。
ここにいれば、まず間違いなく死が訪れる。
「衛兵さん! 早く、あいつを……! ピンハネを捕まえて下さい!」
不快なスタインの声と、小屋に向かってくる衛兵の足音。
選択の時間は残されていない。
「くそっ……。こんな事になると分かっていれば……」
こんな事になると分かっていれば、最初から神の言う事に耳を傾けなかった。
輝かしい未来を幻視し、高橋翔を侮った結果がこれか。
しかも、奴隷に裏切られ衛兵に売られる始末……。不本意な結果ではあるが時間もない。
「……今回は潔く負けを認めようじゃないか」
しかし、私はまだ終わらない。地獄の底からでも這い上がってみせる。
「……転移。新橋」
自嘲気味にそう呟くと、ピンハネは、自衛隊が闊歩する新橋へと転移した。
142
あなたにおすすめの小説
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる