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第一章 キノコマスター
第31話 『剣聖』ウエスト③
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受付に向かった俺は、受付の女の顔に視線を向け、六十六番の番号札を手渡した。
「大変お待たせ致しました。六十六番の番号札を回収させて頂きます」
「ああ……」
受付の女の胸元にあるネームプレートをチラリと見ると、そこには『冒険者協会受付員 リンドウ』と書かれている。
年は十五歳前後……いや、あの虫共のデレデレ具合から見て十六歳以上か?
ふむ。なるほど……Fランク冒険者になりたての虫共が騒ぐだけのことはある。
長い茶髪のウェーブかかった髪が特徴的で、おおよそ五歳の年齢差を感じさせない童顔……外見が良く、なんとなく雰囲気の柔らかい女だ。なにより胸もデカい。
なるほど、あのFランク冒険者になりたての虫共はこのリンドウという女目当てにここに足繁く通っていると……そういう訳か……。
そう思考を巡らせていると、受付の女リンドウが話しかけてくる。
「ようこそ冒険者協会へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
俺は思考を巡らせると、とびきりの笑顔を浮かべた。
「今日は冒険者協会へ登録をしに参りました」
「冒険者協会への登録ですね。それでは、こちらの用紙に必要事項の記入をお願いします」
リンドウは慣れた手付きで俺に登録用紙を渡してくる。
俺は「ありがとうございます」と言いながらそれを受け取ると、ポリポリと頬を軽くかいた。
「え~っと、リンドウさん? お恥ずかしい話なのですが、代筆して頂いてもよろしいでしょうか?」
困った表情を浮かべ、俺の顔が一番映えるローアングルからリンドウに話しかける。
すると、リンドウは少しだけ顔を赤らめた。
「…………」
ふふふっ……自慢じゃないが俺は孤児院で一位、二位を争うほどに顔だけはいいと言われた男。この俺にかかれば、女の一人や二人チョロイもんだ。
「えっと、ダメですか?」
「い、いえ! 代筆ですね! 承知しました!」
「ええ、よろしくお願いします」
俺がリンドウに登録用紙を手渡すと、リンドウが顔を真っ赤にしながらペンを取った。
「そ、それでは、代筆させて頂きます。名前と年齢、ギフトを教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい。私の名前はウエストと申します。年齢は十歳で、教会の神父様より先日『剣聖』のギフトを授かりました」
「け、剣聖のギフトをですかっ!?」
その瞬間、冒険者協会内が騒がしくなる。
「お、おい。マジかよ……」
「剣聖ってことは、この街に仕官してるってことか!」
「くう~! あんなガキが剣聖かよ……」
「おい! リンドウちゃんの顔……あれは……」
思惑通りの状況に俺は内心ほくそ笑む。
リンドウに視線を向けると、完全に顔を紅潮させていた。
手応えあり。この反応、俺様に惚れたな……。
リンドウの表情から確信を得た俺は、次なる行動に移すことにした。
「……リンドウさん。どうされたんですか?」
俺の顔が一番映えるローアングルからリンドウの表情を覗く。
そして、そっと手を添えると、リンドウはペンを落としてしまった。
「い、いえ……な、なんでもありません」
リンドウはそう言うと、ペンを拾い急いで登録用紙に俺の名前と年齢、ギフトを書き込んだ。そして、それを魔法道具に通すと、そこから一枚のカードが出てくる。
「お、お待たせ致しました。こちらが、ウエスト様の協会証になります。ウエスト様の場合、既に街に仕官されていること、また剣聖ギフトをお持ちであることから、Gランクではなく、Eランクからのスタートとなります」
「はい。ありがとうございます」
「いえいえ……あっ!?」
協会証を受け取る際、手を握るとリンドウは顔を真っ赤に染める。
「……リンドウさんのお蔭で、無事、冒険者協会に登録することができました。もしよろしければ、今度の休息日。一緒に食事でもいかがですか?」
「えっ……はい。喜んで……」
「それじゃあ、来週の休息日、十二時に冒険者協会に迎えにあがりますね。それでは、よろしくお願いします」
「は、はい……」
協会証を受け取り、悠々とFランク冒険者になりたての虫共の前を通ると、歯をギリギリさせ悔しがっている冒険者。四つん這いになり床を叩く冒険者。そして、血の涙を流しながら嘆き悲しんでいる冒険者の姿が目に映る。
ふっ……ふふふっ…………ざまぁぁぁぁ!!!!!!
ざまぁみさらせっ!
この俺様に向かって無礼な態度を取るからそうなるんだ大馬鹿者め!
これでお前達が大好きな冒険者協会のリンドウちゃんは俺様のものだ!
……あれ?
それにしても、なんで俺はリンドウを口説こうなんて思ったんだ?
いや、まあいいか。
あんな可愛い女性はそうはいない。来週の休息日。デートを楽しみにしておこう。
そんなことを思うと、俺は意気揚々に冒険者協会を後にした。
◆
意気揚々と冒険者協会から出て行くウエストの姿を楽しげに見ている者が一人。
そう。この街の支配者オーダー・インベーションである。
オーダーは、冒険者協会でエールを傾けながら笑い声を上げる。
「あはははっ! いやあ~こんな面白い展開になるとはね。こんなことならアメリア君も連れてくれば良かったなぁ!」
いまも顔を赤らめている冒険者協会のリンドウに視線を向けると、オーダーは楽しげな表情を浮かべた。
「あれが剣聖、ウエスト君か。彼には長くこの街にいて貰わなくてはならないからねえ」
十歳の子供が十六歳のリンドウ君をあんな簡単に落とせる訳がない。
あれは、私のギフト『領主』でリンドウ君とウエスト君の気持ちをほんの少しだけ操ったに過ぎない。
いま、彼等は心の底から互いに好感を抱いている。
『剣聖』のギフトを持つ者は希少だ。
彼を長くこの街に縛り付けるためには、女性をあてがうのが一番。
それに、リンドウ君がウエスト君にほんの一握りの好感を抱いていたのは事実。
私はそれを後押ししてあげただけだ。
それにこれは彼女にとって不幸なことではない。
私のギフトによる後押しがあったとはいえ、互いに好きな者同士付き合うことができるのだから……。
「……さて、中々、面白いものが見れた。次はどこで、酒を飲もうかなあ?」
そう呟くと、私は空になったコップの側に一万コルを置き、冒険者協会を後にした。
「大変お待たせ致しました。六十六番の番号札を回収させて頂きます」
「ああ……」
受付の女の胸元にあるネームプレートをチラリと見ると、そこには『冒険者協会受付員 リンドウ』と書かれている。
年は十五歳前後……いや、あの虫共のデレデレ具合から見て十六歳以上か?
ふむ。なるほど……Fランク冒険者になりたての虫共が騒ぐだけのことはある。
長い茶髪のウェーブかかった髪が特徴的で、おおよそ五歳の年齢差を感じさせない童顔……外見が良く、なんとなく雰囲気の柔らかい女だ。なにより胸もデカい。
なるほど、あのFランク冒険者になりたての虫共はこのリンドウという女目当てにここに足繁く通っていると……そういう訳か……。
そう思考を巡らせていると、受付の女リンドウが話しかけてくる。
「ようこそ冒険者協会へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
俺は思考を巡らせると、とびきりの笑顔を浮かべた。
「今日は冒険者協会へ登録をしに参りました」
「冒険者協会への登録ですね。それでは、こちらの用紙に必要事項の記入をお願いします」
リンドウは慣れた手付きで俺に登録用紙を渡してくる。
俺は「ありがとうございます」と言いながらそれを受け取ると、ポリポリと頬を軽くかいた。
「え~っと、リンドウさん? お恥ずかしい話なのですが、代筆して頂いてもよろしいでしょうか?」
困った表情を浮かべ、俺の顔が一番映えるローアングルからリンドウに話しかける。
すると、リンドウは少しだけ顔を赤らめた。
「…………」
ふふふっ……自慢じゃないが俺は孤児院で一位、二位を争うほどに顔だけはいいと言われた男。この俺にかかれば、女の一人や二人チョロイもんだ。
「えっと、ダメですか?」
「い、いえ! 代筆ですね! 承知しました!」
「ええ、よろしくお願いします」
俺がリンドウに登録用紙を手渡すと、リンドウが顔を真っ赤にしながらペンを取った。
「そ、それでは、代筆させて頂きます。名前と年齢、ギフトを教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい。私の名前はウエストと申します。年齢は十歳で、教会の神父様より先日『剣聖』のギフトを授かりました」
「け、剣聖のギフトをですかっ!?」
その瞬間、冒険者協会内が騒がしくなる。
「お、おい。マジかよ……」
「剣聖ってことは、この街に仕官してるってことか!」
「くう~! あんなガキが剣聖かよ……」
「おい! リンドウちゃんの顔……あれは……」
思惑通りの状況に俺は内心ほくそ笑む。
リンドウに視線を向けると、完全に顔を紅潮させていた。
手応えあり。この反応、俺様に惚れたな……。
リンドウの表情から確信を得た俺は、次なる行動に移すことにした。
「……リンドウさん。どうされたんですか?」
俺の顔が一番映えるローアングルからリンドウの表情を覗く。
そして、そっと手を添えると、リンドウはペンを落としてしまった。
「い、いえ……な、なんでもありません」
リンドウはそう言うと、ペンを拾い急いで登録用紙に俺の名前と年齢、ギフトを書き込んだ。そして、それを魔法道具に通すと、そこから一枚のカードが出てくる。
「お、お待たせ致しました。こちらが、ウエスト様の協会証になります。ウエスト様の場合、既に街に仕官されていること、また剣聖ギフトをお持ちであることから、Gランクではなく、Eランクからのスタートとなります」
「はい。ありがとうございます」
「いえいえ……あっ!?」
協会証を受け取る際、手を握るとリンドウは顔を真っ赤に染める。
「……リンドウさんのお蔭で、無事、冒険者協会に登録することができました。もしよろしければ、今度の休息日。一緒に食事でもいかがですか?」
「えっ……はい。喜んで……」
「それじゃあ、来週の休息日、十二時に冒険者協会に迎えにあがりますね。それでは、よろしくお願いします」
「は、はい……」
協会証を受け取り、悠々とFランク冒険者になりたての虫共の前を通ると、歯をギリギリさせ悔しがっている冒険者。四つん這いになり床を叩く冒険者。そして、血の涙を流しながら嘆き悲しんでいる冒険者の姿が目に映る。
ふっ……ふふふっ…………ざまぁぁぁぁ!!!!!!
ざまぁみさらせっ!
この俺様に向かって無礼な態度を取るからそうなるんだ大馬鹿者め!
これでお前達が大好きな冒険者協会のリンドウちゃんは俺様のものだ!
……あれ?
それにしても、なんで俺はリンドウを口説こうなんて思ったんだ?
いや、まあいいか。
あんな可愛い女性はそうはいない。来週の休息日。デートを楽しみにしておこう。
そんなことを思うと、俺は意気揚々に冒険者協会を後にした。
◆
意気揚々と冒険者協会から出て行くウエストの姿を楽しげに見ている者が一人。
そう。この街の支配者オーダー・インベーションである。
オーダーは、冒険者協会でエールを傾けながら笑い声を上げる。
「あはははっ! いやあ~こんな面白い展開になるとはね。こんなことならアメリア君も連れてくれば良かったなぁ!」
いまも顔を赤らめている冒険者協会のリンドウに視線を向けると、オーダーは楽しげな表情を浮かべた。
「あれが剣聖、ウエスト君か。彼には長くこの街にいて貰わなくてはならないからねえ」
十歳の子供が十六歳のリンドウ君をあんな簡単に落とせる訳がない。
あれは、私のギフト『領主』でリンドウ君とウエスト君の気持ちをほんの少しだけ操ったに過ぎない。
いま、彼等は心の底から互いに好感を抱いている。
『剣聖』のギフトを持つ者は希少だ。
彼を長くこの街に縛り付けるためには、女性をあてがうのが一番。
それに、リンドウ君がウエスト君にほんの一握りの好感を抱いていたのは事実。
私はそれを後押ししてあげただけだ。
それにこれは彼女にとって不幸なことではない。
私のギフトによる後押しがあったとはいえ、互いに好きな者同士付き合うことができるのだから……。
「……さて、中々、面白いものが見れた。次はどこで、酒を飲もうかなあ?」
そう呟くと、私は空になったコップの側に一万コルを置き、冒険者協会を後にした。
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