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第11話 強制送還

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「初めてこの世界にお主を召喚した際に話していた元の世界に戻る為の魔法陣だ。」

「元の世界に戻る為の魔法陣ですか……」

 ハッキリ言って、まったく興味関心がない。

 なんなら魔王を倒す旅の途中で手に入れた転移魔法で好きな時に元の世界に戻る事ができる。
 元の世界に戻る為の魔法陣など今となっては無用の産物だ。

「えっ、それが俺に対する褒美ですか? 以前、世界を救ったらワシは引退してお主に王の座をやると言っていたような……」

 王様の言葉に呆然としていると、魔法使いが魔法陣の描かれた絨毯に乗るよう促してくる。

「勇者マコトよ。此度の事、大義であった。ワシはお主を誇りに思う。ではさらばだ。」

「ち、ちょっと待って!」

 王様がそう口にすると、魔法使いが絨毯に魔力を込め出す。
 そしてバチっ! っと音が鳴ると勇者マコトは元の世界に戻って行った。

「ふう。よくやったお前達……しかし、大賢者スラングよ。本当に良かったのか?」

 王様は無事、魔法陣が発動した事に安堵の表情を浮かべる。と魔法使い達に紛れていた大賢者スラングに話しかけた。

 ◆

 元の世界に戻る為の魔方陣により、元の世界に戻った勇者マコトはというと……。

「クソッ! あの野郎、自分が王の座を退きたくないからって、この俺様を元の世界に強制送還しやがった!」

 王様のやり方に怒り悪態をついていた。

「今から転移魔法でアイツの目の前にカムバックしてやろうか……」

 ぶっちゃけ転移魔法がある為、あっちの世界に戻る事は容易い……が、今はここを離れる事を優先しよう。

「それドラゴンクエストファンタジーの勇者コスプレですか!? 完成度高いですね!」

 そう転移先は数々のレイヤーさん達の集うコスプレイベントの会場のど真ん中だった。

(なんちゅう所に転移させとるんじゃぁぁぁぁ!)

 とはいえ、ある意味助かったのも事実。
 転移先が渋谷や池袋だったら、『勇者コスプレした奴に乙してみた!』みたいなタイトルで迷惑系HeyTuberに動画を回された挙句、『メントスコーラお願いします!』とか言われていたかもしれない。

「ははっ、ありがとうございます。もちろん構いませんよ」

 勇者マコトは、写真撮影を終え、そのままの格好でトイレの個室に籠ると、アイテムボックスから元の世界の服を取り出し、それに着替えて質屋へと向かう事にした。
 質屋に辿り着くと、バックに偽装したアイテムボックスから金のインゴットを100g取り出し金を質入れする。

「グラム当たり5,300円か……。時化てるな……」

 勇者マコトは、質屋から53万円を受け取ると、そのまま財布へと仕舞う。

「おいおい、兄ちゃん。毎度の事ながらこの金どこから手に入れたんだ? 無駄遣いするなよ」

「ふっ、貴方も知っての通り、今の私の所持金は53万もあります。ですが勿論無駄遣いする気はありませんからご心配なく……」

 どこぞの冷凍庫が言った言葉を呟くと、質屋を出て以前購入したマンションに戻る事にした。

「折角、元の世界に戻って来たし、久しぶりにマンションで動画編集でもしてHeyTubeに流すか……。転移で彼方の世界に戻る事は容易いしな……」

 彼方の世界と此方の世界では時の流れに違いがある。
 此方の世界は彼方の世界でいう所の〔精神と時の部屋〕の様なもの。此方の世界で一年間過ごしても、彼方の世界では一日しか経過しない。

 勇者マコトは転移魔法を覚えてからというものの、トイレに行きたくなったら転移、眠たくなったら転移、シャワーを浴びたくなったら転移とちょくちょく此方の世界に戻って来ていた。

 そして冒険の数々を此方の世界から持ってきたカメラに収め、Hey Tubeに流す事で登録者数200万人のHey Tuberとして此方の世界でも財を成していた。

 勇者マコトは、現金一括払いで購入したマンションで動画編集を終えると、Hey Tubeにアップして勇者の格好に着替えると「よし、そろそろ彼方の世界に戻るか」と呟き、王の間へと転移した。

 ◆

 勇者マコトを強制送還した大賢者スラングは王の質問に答える。

「はい。勇者マコトは確かに大魔王コサカを倒し世界に平和を齎して下さいました。しかし! しかしです!! 陛下、私の顔を見て下さい!」

 大賢者スラングは仮面を取り王様へと自身の顔を晒す。

「お、おう……。一体何故そんな事になってしまったのだ……」

「これは勇者マコトがやったに決まっております。見て下さいこの醜い顔に皺だらけの身体をっ! これは奴がやったに違いありません!」

 大賢者スラングは頭を抱えながらそう呟く。

「確かに、お主の言う事も一理ある。だが私とて王。勇者と交わした約束は守らなければならない」

「そうです。しかし、勇者マコトを元居た世界に帰してしまえば、そんな約束は関係ありません。王位は譲らなくて済みますし、御子を嫁に出さなくて済むのです」

「確かに、そうだな……。よし! それでは勇者マコトはこれまで通り大魔王との戦いにより相打ちとなった事にして……」

「相打ちになった事にして……なんだ?」

 王様と大賢者スラングは急に口を挟んできた者に視線を向ける。
 すると、そこには先程強制送還したばかりの勇者マコトが立っていた。
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