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第15話 時代考証的美女

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『時代考証的美女』そんな言葉がある。
 簡単に言えば、その時代によって美女の定義に違いがあり、あの時代ではこういった顔立ち、体型が美女とされていた……というものだ。

 勇者マコトが突然開いた扉に視線を移すと、そこには膨よかな体付きとなったかぐや姫の姿がそこにあった。

 勇者マコトはゴシゴシと目を擦りながら何度もかぐや姫に視線を向ける。

 魔王を倒す旅に出る前に一度お会いしたがこんな感じだっただろうか?

 なんて言ったらいいんだろう。
 渡〇直美見たいな体型になっている。
 左手に抱えているハッピーREターンは必要だろうか……食べる毎に体重が加速度的に上がっていく事が容易に予想できる為、できれば離して欲しい。

 勇者マコトがしどろもどろしていると、満面の笑みを浮かべた国王がかぐや姫に声をかけた。

「かぐやちゃん、まだそのハッピーREターン食べていないなんて駄目じゃないか~。そんなんじゃ立派な淑女になれないぞ」

 誰だこの爺。本当に国王か?
 何故、かぐや姫にハッピーREターンを食べさせる。
 なんとなく、いや誹謗中傷する気なんて全くないんだけど、なんとなく豚に餌をやって喜びの声をあげる飼育員に見えなくもない。

 豚に人間の言葉が分からない事をいい事に、あと一ヶ月後出荷予定だからね。しっかり食事を摂って良質な脂身を蓄えるんだよ~。と言っている飼育員さんに……。

 勇者マコトが変わり果てたかぐや姫に視線を向けると国王がニヤニヤとした笑みを浮かべ話しかけてきた。

「勇者マコト……。いや、いまは大王陛下であったな。どうだ、かぐやちゃんの仕上がり具合は……完璧であろう」

 何を言っているんだこの糞爺は?
 自分の娘をここまで肥えさせるとは新手の嫌がらせか?
 いくら俺にかぐや姫を渡したくないにしても、これはないだろう。
 可愛らしい顔立ちは今も健在だが、二重になった顎、二段になった腹、桜島大根の様な足と、顔以外の要素すべてが俺のストライクゾーンから外れている。

 そういえば、国王の妻、王女様もえらく太っていた様な気がする。あの時は色々な趣味、趣向の持ち主がいるなとしか思っていたが……。

 まさか……。

「な、何故、かぐや姫がそんな感じに……?」

 勇者マコトの質問に国王は本気で分からないといった表情を浮かべる。

「勇者マコト……。いや、大王陛下。如何ですかなかぐやちゃんのこの仕上がり。これほど完成された美女は他にはおりませぬ。まさに絶世の美女でしょう。いや傾国……傾国の美姫といっても過言ではありませぬ」

 国王の称賛にかぐや姫も満更ではない表情を浮かべる。

「如何でしょうか。マコト様……。私あなたの為に頑張ってこの体型に致しました。私の事……どう思われますか?」

 勇者マコトがかぐや姫の体型に視線を向けると、かぐや姫はポッと頬を桃色に染める。

「そんなに私の事を見ないで下さいませ。恥ずかしいですわ」

 ああ、全くだよ。
 恥ずかしい体型をしているよ。
 脂質とか肝機能とか尿酸値とか大変な事になってるよ!
 何なら健康診断とかしたらメタボリックシンドローム判定に『該当』って書かれる位のやばさだよ!
 二次精密検査まっしぐらだよ!!

 しかしこれで確定した。
 この世界では、ふくよかな体型の女性ほど傾国の美姫と呼ばれる位、美しく見えるのだろう。

 だが俺はデブ専ではない。残念ながらデブ専門ではないのだ。
 あの可憐だった頃のかぐや姫に戻って欲しい。

「国王陛下」

「うん? 大王陛下。如何致しましたかな? 私に陛下と付けるなぞ……」

「やはりまだ婚姻を結んでいない男女が一緒の部屋で寝食を共にするのは良くないと思い直しました。暫くの間、王城の貴賓室に寝泊まりしたいと思います」

 真摯な眼差しを国王に向けると、国王が大きく頷く。

「そうでしょう。そうでしょう! 分かってくれると思っておりました。大王陛下。婚姻を結ぶまでの我慢です。それまでの間に、かぐやちゃんを万全の状態に仕上げて見せます! そうだろう。かぐやちゃん」

「はい。お父様! 婚姻の時までに必ずやマコト様の隣にいて恥ずかしくないボディーを手に入れて見せますわ!」

 かぐや姫は頬を桃色に染めると、くねくねと身体を揺らす。
 顎から上だけを見ていると、とても可愛らしいが体に視線を向けると、バインバインと腹の贅肉が上下にバウンドしている。

 とてもじゃないが見てはいられない。
 いや、顎から上はストライクゾーンど真ん中なんだけれども……。

「いやですわマコト様ったら……。私の体に視線を向けてくるなんて、いやらしい御方……。婚姻迄お待ち下さいませ」

 時代考証的美女であるかぐや姫が頬を染めて呟く。
 今この時ほど、婚姻を結んでいなくて良かったと思った事はない。

「あ、ああっ……。楽しみにしているよ」

「ふふっ、それでは失礼致します」

 勇者マコトは頬を引き攣らせながらそう呟くと、かぐや姫が礼をして去っていく。
 そこには満足げな表情を浮かべる国王と、そんな国王を睨み付ける勇者マコトが王の間に取り残された。
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