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「落ち着いた?」
「…すみません…」
泣き腫らした目元を濡れタオルで拭われ、そのまま当てられる。何度も何度も背中をさすられてやっと止まった涙。仮眠室のベッドに寝かされた時にはもう、体は脱力しきっていた。
「熱あるなら休んで良かったのに。ずっとしんどかったでしょ」
「…言い方、わかんなくて…」
「普通に休みますで良いんだよ。あ、スポドリ飲みな」
ペットボトルにストローを挿して、わざわざ飲みやすいように口元に持ってきてくれる。喉が渇いていたから200mlの小さいペットボトルはすぐに飲み干してしまった。
「その様子じゃお昼食べてないでしょ。ゼリー蓋緩めとくから食べれそうな時に食べなね」
「…すみません、」
「っもー、謝らない謝らない!」
「おこってない…?」
「何で怒るのさ。俺は心配してるの」
心配?何で?キョトンとした顔の先輩を見ていると嘘をついているようには見えない。怒られないのが違和感で、それがさらに俺の体の力を抜いていく。
「あ、あとお前電車でしょ?就業時間もう少しで終わるから待ってて。送るから」
「え、いいです、逆方向だし、遠いし…」
「だーめ。どうせそんな状態で人混みに混じれないでしょ。先輩命令です。じゃ、何かあったらケータイで呼んで」

枕元に俺のケータイと通勤用の鞄、そしてご丁寧に新しいペットボトルにストローを挿して出ていった。頭が追いつかない。それに、骨がなくなってしまったみたいに動かない。
 心配、するんだ。してくれるんだ。叫び散らして怒られないんだ。それだけで何か、安心する。でも、なぜか胸がチクリと痛む。その正体を考えようとしたけれど、出来なかった。怖かったのだ。



「ぅ゛…」
今何時だろう。体が異常なくらいほてってスマホをつけるのも億劫で。何もしていなくても息が上がって喉が乾く。
(あ、ぜりー…)
枕元に置いてある、金属色のゼリーの袋。口をつければレモンの酸味と甘味が広がって、乾きをいやそうと全て飲み干してしまった。
(たりない…)
枕元にはキャップの緩められた、それもさっきよりも大きいサイズのスポーツドリンクが置いてあって、一気にあおる。
「ぷはっ、…」
熱い体に吸収されていく液体が心地いい。グイグイと喉を滑って、いつのまにか半分以上の量を飲み干してしまう。
(ぁ…)
もう一度横になろう、そう体を寝かせた時だった。下腹部がチリ…と疼く感覚。
(トイレ…行きたい…)
思えば今日は昼休みに一回行ったっきり。喉の渇きを誤魔化そうと何度も何度も喉を湿らせていたものだから、排出されるべき水分が溜まってもおかしくはない。行こう、そう思って体を起こすけれど、グラグラと頭が揺れって、思うように動いてくれない。
「ぁっ、」
やっとのことで地面に足を下ろして立とうとするも、力が入らない。地面がふわふわして気持ち悪くてへたり込んだ。
「っは、っはぁ、」
何でこれだけの動作で息がこんなに上がるんだろう。何で、動けないんだろう。さっき感じた尿意はみるみるうちに強くなって、太ももをよじってしまう。
寝る前は普通に歩けていたのに。いつも、どれだけ熱を出しても家事ができるくらいには動けていたのに。
「っ、ぅ、」
何分そうしていただろうか。急に、ほんとに急にきた。
力の入らない人差し指と親指で出口を抓る。やばい、ほんとに漏らす。
「せんぱい…」
仕事の邪魔だとか、迷惑だとか、考えていられなかった。この歳でお漏らし、それも会社でってなると流石に笑えない。

「ん?佐倉?どうした?」
早くも3コール目で電話にでた先輩。余裕がなくて食い入るように訴えた。
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