女性恐怖症の高校生

こじらせた処女

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「…………え?」
頭が真っ白になった。え、今なんて。ゲイ?もしかして…これからの展開は、何となくわかって聞きたくない。
「あのね、フラれた日にね、偶然秋葉さんっていう人に会ってね。あ、秋葉さんっていうのは男の人なんだけど、2つ年上で…」
「っへー…それって同じ会社の?」
「ううん、前に電車で会って、っていうのも梅雨ぐらいだったんだけど。息苦しそうだったからお水を渡したのがきっかけで…」
何それ知らない。いつの話?そんなことご飯中に言ってなかったじゃん。やばい。どんどん黒い感情が湧き上がって不快感でいっぱい。
「それでね、連絡先だけ交換してお礼にお菓子もらってそれっきりだったんだけど。先生も食べたと思う」
ああ、ぼんやりと思い出した。テーブルに置いてあった、妙に高級感のある金色の缶。美味しい美味しいと2人でゴミの山を作って食べきってしまったやつ。確かその時は仕事のお礼って言っていた。
「泣きじゃくりながら歩いてたら、偶然会って…終電も間に合わなかったから、泊めてもらって…」
「何それ。泊まったの?知らない人の家に?危なすぎるじゃん。言ったら迎えにいったのに」
「それは…だって、名刺とか連絡先とかも貰ってたし…」
「それにしても…!まあいいや…それで?」
「えっと、あ、そうそう。それで、相談したの。そしたらさ、秋葉さんも俺と似た悩み持ってるって。そんなに落ち込むことじゃない、いつか大丈夫になるかもしれないし、また俺みたいに同じ悩み持った人と出会えるかもって」
綾瀬の言った言葉が耳をすり抜けて行く。何で一回しか会ったことない奴にぬけぬけと相談してるの?嫌な思考が止まらない。「秋葉さん」像がとんでもなく悪いものになって行く。
「それでね、秋葉さんともっと話したいってなって…会ってるうちに…」
「良かったじゃん。いい人に出会えて」
「そうっ、すごくいい人なの!俺が夜失敗しちゃっても怒んなかったし、ずっと他の友達に言えなかったこと、全部言えて…」
 素直に喜べない。俺の「先生」の部分を無理くり引っ張り出して会話してる。
 それ、俺じゃダメだったの?ていうか、俺が今までやってたことだよね?一緒に寝たり、悩みも全部聞いてきたじゃん。
 あれ、俺、何にイラついているんだろう。

 惚気話を続ける綾瀬の口は止まらない。もう、終わりにして欲しい。これ以上、イライラしたくない。
「そんなに好きなら早く家出ていかなきゃね。俺と2人で暮らしてるって聞いたら怒るんじゃない?」
ふと、静かになった。さっきまでペラペラと動いていた口元もポカンと空いている。
「え?…だってせんせーは…親?みたいな感じだし…ってか、せんせい…何か怒ってる?」
「別に。話終わり?俺風呂入ってくるから」
「まってって、何?俺、怒らせるようなこと、した?それとも、男同士で気持ち悪いって思ってる?」
ああ、もうこれ以上。これ以上、大人気ないことを言いたくない。これ以上、キツイ言葉を吐きたくない。
「そりゃ早くでてかなきゃとは思うけど…あ、先生の話したんだ、いい人だね、会いたいって、いっ、」
「もういい?ってかそんなの俺に言う必要あった?俺疲れてるって言ったよね?」
「、てた…だって最近先生と一緒にご飯、食べれてないから…ねえ俺、何かした?何かしたなら謝る、邪魔なら出てく、」
「うるさいなぁ、普通さ、その歳だったらそういう恋愛事情、隠すと思うんだけど。俺若い時そんな話題出さなかったよ」
「っ、ごめ、ん、」
あ、やっちゃった。震えた唇で謝る姿が映る。でも今は頭を撫でることも、ごめんって一言いうことも出来なさそうだ。
「俺眠いから。もう風呂行くね」
洗面所のドアを大きく閉める。いい人ってなんなんだよ。さっきから的外れな事ばっかり。自分が何でこんな吐きそうなくらいにイライラしているのかも分かんない。
「あ゛ー…」
 こんなに怒るなんて久しぶりだ。職業柄、めんどくさい事には慣れているし、鬱陶しい生徒と関わることも多かったのに。ゆっくり風呂に浸かったらリセットできていたのに。

 
 酒飲みたい。けど、最後の一缶はこの前飲んだ。
「っはぁ~…」
コンビニで買ってこよう。財布とスマホを持ってサンダルに足をかける。
「………、っ~、せんせ、あのね、…ごめん…ね?」
ドアを開けようとすると、後ろから声がする。
「…別に怒ってないから。俺が悪かったから、ごめん」
「、おこってるじゃん、せんせい、さいきん一緒にご飯たべてくれないし、話しかけてもそっけないし、おれ、何かしたんでしょ?」
「だから何でもないって。しつこいよ」
「そーやっていっつも誤魔化すよね、何かあるならいってよ、一緒に住むの嫌気さした?たまに夜起こすの、うざい?布団汚しちゃうの、…いや…?」
「そーじゃないって、」
「そーじゃないなら何か他のがあるんでしょ!?いってよ、おれ、せんせーとこのままじゃ…」
やだ…小さく呟く頃にはもう、泣く一歩手前だった。いや、もう泣いてた。目に溜まった涙が落ちるまでに数秒とかからないだろう。
「…コンビニ行ってくる」
何やってんだ俺。10も離れてる子供に突っかかって。相手は何も悪くないのに。逃げるようにして外に出る。自分でもわからない。こんなこと、初めてだ。どうやって収めればいいかわかんない。そういえば、綾瀬とこんなに言い合ったのは初めてな気がする。だって、どれだけ夜遅くに起こされても、体調を崩した時のお世話も苦痛に感じたことが無かった。どれだけ疲れていても、だって。
 嬉しかったのだ。俺を1番に頼ってくれて、先生、先生って慕ってくれて。可愛くて可愛くて、仕方がなかった。頭を撫でると、もっと甘えたいってふうに顔を擦り付けてくるのも、先生とご飯食べるのが1番楽しいって家に帰ってくるのも。

 いつからだろう。俺より料理が上手くなったのは。しんどくなっても感情を落とし込んで1人で解決できるようになったのは。
 ああ、依存していたのは俺の方。綾瀬は俺が居なくても生きていける、俺以外を頼れるようになった、それが寂しかったのだ。
 大学生の時に付き合っていた彼女に言われた事がある。私、必要?、って。俺、なんて返したっけ。それすらも思い出せない。あの時に蔑ろにしたツケが回ってきたのだろう。人の気持ちを考えようもしなかった、今までの行動全てが返ってきているのだろう。

(ああそうか)
 この歳になって初めて知った。
 俺、綾瀬が好きだったんだ。















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