その日、神絵師がVR世界に舞い降りた

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ひとつのギルドができるまで

カリカリ

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 カリカリ、カリカリと、閉ざされた部屋に小さな音が響く。
 彼の周囲に散らばる紙には、古びた街、広い空、小さな噴水、そして小さなコーギー犬──他にも様々なイラストが、美しいタッチで描かれている。

 そうしてまたスケッチブックのページが一つ埋まり、彼は次の一枚を描くべくページを捲る。しかし、その先には厚紙の台紙だけが存在した。

「……ない」

 彼はスケッチブックに絵を描いては、完成したページをちぎり取ってしまう。昨晩から休み無しに絵を描き続けた彼のスケッチブックは、すっかり痩せ細ってしまっていた。
 ふぅ、と息を吐いた彼──ひなたは、自分が何時間も同じ体勢でいたことに気付くと、ぐるりと首を回した。ぱきぱきと音を立てる関節が痛み、目を細める。

「……もう、こんな時間」

気が付けば窓の外からは夕日が射し込んでいた。昨晩から絵を描いて朝を越え昼を越えて、時刻は17時を回ろうとしている。

「……ごはん、作らないと」

 食事を作ることも忘れて絵に没頭していた自分に、ひなたは溜め息を吐いた。自分が寝食を忘れるのは別にいい。しかし、食べ盛りである妹のゆきみが碌な朝食も摂らずに学校へ行ったかと思うと、自己嫌悪で気分が沈みこんでいく感覚がした。

 部屋を出てキッチンへ立ち入ると、案の定そこには混沌が広がっていた。料理が不得手なゆきみがどうにかコンロで昨晩の残りのスープを温めようとしたらしいが、鍋の底が焦げ付いて大変なことになっている。オーブントースターの中が綺麗なままであることから、パンは焼かずにそのまま食べたらしい事が推測された。

(……かわいそうな事をしてしまった)

 朝食を作り忘れ、昼に食べるお弁当も作ってあげられなかったことを反省したひなたは、せめて夕食だけでも美味しいものを作ろうと意気込む。

「……ん、」

 しかし、それを遮るようにひなたのスマートフォンが着信の通知音を鳴らした。


「もしもし、お兄ちゃん? 今日はごはん作らなくていいよ! 買って帰るから!」
「? ……遠慮しなくても、作るよ……?」
「ううん! その代わり今日はさっさと食べて、昨日の続きしよ!」

 どうやらゆきみはMonster Legendsが大層気に入ったらしく、声を弾ませて購入する夕食の候補を挙げていく。
 その中から野菜やたんぱく質の多いメニューを選んだひなたは、夕食を作る代わりにお湯を沸かして紅茶を淹れることにした。
 ゆきみは、ひなたの淹れるはちみつ入りの紅茶が好きだ。

(……ゆきみが嬉しそうで、僕もうれしい)


「ただいまぁ! お兄ちゃん、あれから何か描いた!? なに描いた!?」
「うん、色々描いたよ。街が綺麗だったから、風景が多いかな」

 ゆきみは帰ってきて早々にひなたの絵を見たがった。それに応えるように、ひなたは部屋に散らばっていた絵を集めた紙束を渡す。

「わぁぁ! 早速Monster Legendsの世界を描いたんだねー! これはラテさん? すごいすごい! きれいー! あ、これわたしだー!」
「うん、ゆきみはVRの世界でも美人さんだね」
「もー! お兄ちゃんもほぼ同じ顔でしょ!」
「全然ちがうよ」

 自分の絵にはしゃぐ妹の姿に、ひなたは眩しいものでも見るかのように微笑んだ。

「そういえば、この絵は記憶だけで描いてるの? Monster Legendsの中でもメモ帳機能を使って絵を描いたりできるんだって!」
「え、そうなんだね。知らなかった……ゲームの中のお店とかで、買えるのかな?」
「ううん、元から付いてる機能みたいだよ! メニューにあるみたい!」
「そっか、ならゲームの中で絵を描くのも、いいかもしれないね」
「それじゃ、早く食べて今日もやろー!」

「──ゆきみ、楽しい?」
「お兄ちゃんとゲームできるの、すっごく楽しい!」
「そっか」

 仲良し兄妹の静かな方は、幸せそうに表情を緩めた。
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