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第二章 ノーカウントパンチ
第二十五話 戦う坊ちゃん
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二度目の食事が終わると、三人のナースメイドさんたちは一緒になって食堂を出た。もちろん子供たちも一緒だ。
(朝の食事のときはバラバラに出て行ったと思ったけど、何か違うのかな? さすがついていった方がいいよね)
そう思い、後ろをついていこうとすると――
「ひゃっ……!」
坊ちゃんに手を掴まれた。そして反対の方向へと連れていかれる。
(え? なんなの? どうすればいいかわかんない)
そのまま坊ちゃんについていくと、わたしの部屋と戻った。そして坊ちゃんは手を放し、自分の部屋へと入っていく。
(ずっと部屋にこもりっぱなしだけど、大丈夫なのかな?)
転移前の自分を棚に上げて、そんなことを思った。ただ部屋にいる時間が長いのは、わたしにとって好都合だ。
(人と会う機会は少なくて済むし、今はやりたい作業もあるしね)
アタッシュケースを開けて、セルペーパーを取り出す。すると、後ろから猫の悲鳴のような音が聞こえた。
振り向くと坊ちゃんが部屋から出てきていた。手には、坊ちゃんの胸くらいまでの長さのある棒を持っている。
そして相変わらず、わたしの方を見向きもせず廊下へと向かった。
「ちょ、待っ……!」
わたしは大急ぎでセルペーパーをしまい、アタッシュケースを手に取って後を追った。
坊ちゃんが向かった先は外だった。しかし町へ繰り出したわけではない。
閉じたままの門へは向かわず、芝生の庭に出たのだ。そこには、黒い影が待っていた。
(黒ドレスさんだ)
黒ドレスさんはいつもの黒いドレスに、お団子の髪型のままだったけれど、坊ちゃんと同じように棒を持っていた。
ゆっくりと歩いていた坊ちゃんの足は少しずつ速まっていく。そして黒ドレスさんがこっちを見た瞬間に、走り出した。
坊ちゃんは棒を振りかぶり、黒ドレスさんへと振り下ろす。
「えっ? な……!」
驚いていたのはわたしだけだ。黒ドレスさんは落ち着いた様子で棒を持ち上げて、それを受けた。
そしてその瞬間。坊ちゃんの姿勢が前に崩れる。黒ドレスさんが受けた棒を右下へと流したのだ。
坊ちゃんの棒は芝生を叩き、黒ドレスさんの棒の切っ先が、坊ちゃんの背中に置かれた。
(勝負あり……? 模擬戦なのかな?)
ただのチャンバラ遊びでないことは、一目でわかった。坊ちゃんの気迫ある動きも、黒ドレスさんの無駄のない動作も、相手を打ち倒すための動きだ。
その後も、坊ちゃんは黒ドレスさんに挑み続け、何度も返り討ちにされた。黒ドレスさんは坊ちゃんに、棒を当てないようにはしていたみたいだけれど、蹴とばすくらいのことは平気でしている。
(こ、こわっ……! 坊ちゃん平気なの? さすがにヒヤヒヤしてきたんだけど……)
見ていられない――とは思ったけれど、なぜか目が離せなかった。むしろ見ていることしかできないのが、後ろめたくなってくる。
坊ちゃんの戦術は一撃必殺のようだった。常に有効打を狙い、相手にプレッシャーをかけている。
対する黒ドレスさんは、確実にその攻撃を受け流し、坊ちゃんの攻め手を切っていた。実力差は歴然で、黒ドレスさんは動きにくそうなドレスでも息一つ切れていない。
坊ちゃんはボロボロで、もう立っているのも辛そうだ。
ふと、黒ドレスさんと目が合った。棒を持った手が、わたしに向けて振られる。
「え……?」
棒がわたしに向かって飛んできていた。山なりでそんなに速くはない。けれどわたしの運動神経では、キャッチすることなんてできないだろう。
(避けなきゃ!)
そう思ったとたんに、足がもつれた。後ろに倒れ、思いっきり尻餅をつく。
「や、やば……」
立ち上がろうと、手を後ろについてしまった。見上げた先に棒が迫っていたけれど、とっさに手が上がらない。
(頭守れな――)
次の瞬間に見えたのは、坊ちゃんの横顔だった。坊ちゃんが剣道の『面』を打つような動きで横から飛び出して、棒を叩き落としたのだ。
「――――――!」
坊ちゃんが離れたところにいる黒ドレスさんに向かって、大きな声を出した。黒ドレスさんは悪びれた様子もなく、手を振って背中を向ける。
坊ちゃんが一歩踏み込むと、黒ドレスさんは視線だけをこっちに向けて、わたしたちの後ろを指さした。
そこには猫目メイドさんが立っていた。
猫目メイドさんは黒ドレスさんに深く頭を下げたあと、わたしの膝に草で編んだ籠を置いた。
大き目のバケツにも見える籠の中には、厚手のタオルが入っている。
(これって、お風呂セットかな?)
わたしはこのとき『久しぶりにまともなお風呂に入れそう』としか思っていなかった。
(朝の食事のときはバラバラに出て行ったと思ったけど、何か違うのかな? さすがついていった方がいいよね)
そう思い、後ろをついていこうとすると――
「ひゃっ……!」
坊ちゃんに手を掴まれた。そして反対の方向へと連れていかれる。
(え? なんなの? どうすればいいかわかんない)
そのまま坊ちゃんについていくと、わたしの部屋と戻った。そして坊ちゃんは手を放し、自分の部屋へと入っていく。
(ずっと部屋にこもりっぱなしだけど、大丈夫なのかな?)
転移前の自分を棚に上げて、そんなことを思った。ただ部屋にいる時間が長いのは、わたしにとって好都合だ。
(人と会う機会は少なくて済むし、今はやりたい作業もあるしね)
アタッシュケースを開けて、セルペーパーを取り出す。すると、後ろから猫の悲鳴のような音が聞こえた。
振り向くと坊ちゃんが部屋から出てきていた。手には、坊ちゃんの胸くらいまでの長さのある棒を持っている。
そして相変わらず、わたしの方を見向きもせず廊下へと向かった。
「ちょ、待っ……!」
わたしは大急ぎでセルペーパーをしまい、アタッシュケースを手に取って後を追った。
坊ちゃんが向かった先は外だった。しかし町へ繰り出したわけではない。
閉じたままの門へは向かわず、芝生の庭に出たのだ。そこには、黒い影が待っていた。
(黒ドレスさんだ)
黒ドレスさんはいつもの黒いドレスに、お団子の髪型のままだったけれど、坊ちゃんと同じように棒を持っていた。
ゆっくりと歩いていた坊ちゃんの足は少しずつ速まっていく。そして黒ドレスさんがこっちを見た瞬間に、走り出した。
坊ちゃんは棒を振りかぶり、黒ドレスさんへと振り下ろす。
「えっ? な……!」
驚いていたのはわたしだけだ。黒ドレスさんは落ち着いた様子で棒を持ち上げて、それを受けた。
そしてその瞬間。坊ちゃんの姿勢が前に崩れる。黒ドレスさんが受けた棒を右下へと流したのだ。
坊ちゃんの棒は芝生を叩き、黒ドレスさんの棒の切っ先が、坊ちゃんの背中に置かれた。
(勝負あり……? 模擬戦なのかな?)
ただのチャンバラ遊びでないことは、一目でわかった。坊ちゃんの気迫ある動きも、黒ドレスさんの無駄のない動作も、相手を打ち倒すための動きだ。
その後も、坊ちゃんは黒ドレスさんに挑み続け、何度も返り討ちにされた。黒ドレスさんは坊ちゃんに、棒を当てないようにはしていたみたいだけれど、蹴とばすくらいのことは平気でしている。
(こ、こわっ……! 坊ちゃん平気なの? さすがにヒヤヒヤしてきたんだけど……)
見ていられない――とは思ったけれど、なぜか目が離せなかった。むしろ見ていることしかできないのが、後ろめたくなってくる。
坊ちゃんの戦術は一撃必殺のようだった。常に有効打を狙い、相手にプレッシャーをかけている。
対する黒ドレスさんは、確実にその攻撃を受け流し、坊ちゃんの攻め手を切っていた。実力差は歴然で、黒ドレスさんは動きにくそうなドレスでも息一つ切れていない。
坊ちゃんはボロボロで、もう立っているのも辛そうだ。
ふと、黒ドレスさんと目が合った。棒を持った手が、わたしに向けて振られる。
「え……?」
棒がわたしに向かって飛んできていた。山なりでそんなに速くはない。けれどわたしの運動神経では、キャッチすることなんてできないだろう。
(避けなきゃ!)
そう思ったとたんに、足がもつれた。後ろに倒れ、思いっきり尻餅をつく。
「や、やば……」
立ち上がろうと、手を後ろについてしまった。見上げた先に棒が迫っていたけれど、とっさに手が上がらない。
(頭守れな――)
次の瞬間に見えたのは、坊ちゃんの横顔だった。坊ちゃんが剣道の『面』を打つような動きで横から飛び出して、棒を叩き落としたのだ。
「――――――!」
坊ちゃんが離れたところにいる黒ドレスさんに向かって、大きな声を出した。黒ドレスさんは悪びれた様子もなく、手を振って背中を向ける。
坊ちゃんが一歩踏み込むと、黒ドレスさんは視線だけをこっちに向けて、わたしたちの後ろを指さした。
そこには猫目メイドさんが立っていた。
猫目メイドさんは黒ドレスさんに深く頭を下げたあと、わたしの膝に草で編んだ籠を置いた。
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(これって、お風呂セットかな?)
わたしはこのとき『久しぶりにまともなお風呂に入れそう』としか思っていなかった。
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