花握りの魔女は話せない ~言葉のわからない異世界で、コミュ障のわたしが謎解き魔女になった理由~

もさく ごろう

文字の大きさ
27 / 45
第二章 ノーカウントパンチ

第二十七話 セルペーパーは坊ちゃんの手の中に

しおりを挟む
 坊ちゃんが背中を向けたまま待っていてくれたので、わたしはお風呂に入ることができた。温泉が湧いているのか、浴槽にはお湯が入っていた。

 シャワーがあれば完璧だったけれど、贅沢は言っていられない。

 お風呂が終わるともう寝る時間だった。食事は一日二食のようだ。

 そして一週間。一日二食なことにも、シャワーのないお風呂にも慣れてきた。スケジュールは毎日同じで、坊ちゃんの勉強時間がわたしの自由時間だ。

 自由時間になると、わたしは毎回図書室に行った。そして図鑑のような、わたしでもわかる本を探して読むのだ。それを続けていると、一つのことがわかった。

(この世界には、虫がいないのかもしれない)

 ドラゴンを含む爬虫類っぽい生き物の描かれた本や、哺乳類らしき生き物、植物の描かれた本は見つかったけれど、虫が描かれた本は一つも見つからなかったのだ。

 思えば、前の集落は森に囲まれていたのに、虫を一匹も見なかった。ここに来たとき、花畑が作り物じみて見えたのは、蝶一匹すら飛んでいなかったせいなのかもしれない。

 図書室にしばらくいると、外の教会にお人形ちゃんたちが入っていく。わたしはそれが見えると、本を片付けて教会に向かう。

 気づかないこともあるから毎日ではないけれど、そこでお祈りをしてから演奏を聞くのが日課になっていた。

 演奏される曲は日替わりだったけれど、どれも教会にふさわしい厳かな雰囲気の曲だった。お人形ちゃんは速い曲でも遅い曲でも、同じように体を揺らして、ノリノリで聞いている。

(まさかわたしが、自分から人のいる場所に行くようになるなんて)

 音楽とお人形ちゃんによってなされる、天国のような世界観。それを見るためだけに、わたしはここに来ていた。

 その光景に心を震わせ、高まったモチベーションを部屋まで持って帰り、セルペーパーにぶつけるのだ。

 作品はかなり完成に近づいてきていた。すでにクライマックスのドラゴンを倒すところまで描き終えている。お城に帰るエンドシーンを描き終えれば完成だ。

 エンドシーンを作るのは、描き始めと同じくらい心高まる作業だ。扉が開く音が聞こえても、手を止めずに進めたかった。けれど、そんなことをしたら坊ちゃんは、すぐに一人でどこかに行ってしまう。

(仕方ないか)

 手を止めて背中を伸ばし、振り向いた。

「え? わ!」

 一歩踏み込めば手の届く距離に坊ちゃんがいて、その手に一週間描き溜めたセルペーパーが握られていた。

「か、返して……!」

 手を伸ばしたけれど、坊ちゃんには簡単に避けれれてしまった。

 坊ちゃんはセルペーパーをパラパラとめくり、一枚を抜出して何か言った。

 そこに描かれているのは、頭に剣を突き立てられて、倒れている竜だ。坊ちゃんは男の子だから、竜とかが描かれている絵が好きなのだろうか。

 坊ちゃんは束から、どんどんとセルペーパーを抜き出していく。

(順番変えないで欲しいんだけどなぁ)

 坊ちゃんは十数枚のセルペーパーを抜き取ると、残った束をわたしに押し付けるように渡してきた。坊ちゃんの手に残った十数枚の中に、さっきの竜の絵も残っている。

 渡された束を確認してみると、竜の絵をすべて抜かれたわけではなさそうだ。傷ついた竜の絵だけを抜いたのだろうか。

 坊ちゃんは手元に残った絵を、アタッシュケースの中に入れて閉じた。そして廊下の扉を指さして、顔の前でバッテンを作る。

「えと、外に、持っていくなってこと……?」

 わたしの言葉に疑問符があるのがわかったのか、坊ちゃんの説明は続く。

 今度はわたしの手元にある束から、竜の描かれている絵を探して指さし、坊ちゃんは両手を交差させるように胸に当てた。

 そのポーズには見覚えがあった。

(たしかお人形ちゃんが、教会でお祈りするとき、このポーズを取らされてたっけ)

 無垢なメイドさんは頭に手をのせる、前の集落でも見たお祈りの仕方だったけれど、お人形ちゃんにはそれをさせていなかった。

(わたしが自分の神様に祈っているみたいに、別の神様にお祈りしてるとか?)

 玉座の後ろに、竜の石像があるのを思いだした。

(竜は敬意を示す相手であって、倒す対象ではない?)

 空想の生き物に敬意を示すのは変な気もするけれど、神様みたいなものなら納得がいく。

 答え合わせをするには、作品を作り直して観てもらうしかない。

 坊ちゃんはしきりにアタッシュケースと廊下側を指さして、バッテンを作っている。細かい説明は諦めて、さっきの絵を外に持っていくなとだけ、伝えようとしているみたいだ。

(わたしが他の人に嫌われないように、心配してくれたのかな?)

 なんとなく坊ちゃんの頭を撫でたら、思いっきり振り払われて、坊ちゃんは廊下へと出て行ってしまった。

(かわいくないなぁ)

 後を追うわたしの足は、少しだけ軽やかだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...