堕ちた神と同胞(はらから)たちの話

鳳天狼しま

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第二部

第六話 神の烙印〜秘匿された生還者〜

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昼下がり、東の国シュウヨウと中央都市コウトクの国境付近の平原にて。
キスク&イヴァンの一行と合流したジルカースたちは、久方ぶりのキャラバンのテント内部にて、話を進めていた。

「アカツキはああ言ったが、俺はゼロ奪還の任務をアカツキだけに一任するつもりはさらさらない。アイラの言っていた事も分かるが、リベラシオンに協力することを許してはくれないか。デオンやゼロの事もあるが、何より今後の東の国のために。東の国はテオとアイラの故郷だろう?」

ジルカースの申し出に、アイラは慎重げに思案しながら言葉を返した。

「あたしもね、自分の気持ちだけを尊重するなら、東の国をデオンたち反乱軍から取り戻すことを優先したいと思ったよ。でも世界中にはまだまだ奴隷狩りが横行してるし、あたしの助けを今日か明日かと待っている人々もいる。そう思うとね。ジルカースに悪気があった訳じゃないんだけど、ごめんよ」

その言葉に「ありがとう、大丈夫だ」と頷いたジルカースに頷き返したアイラは、その場に集まった一同全員にも目を向けて言った。

「これより、ソルティドッグキャラバンは、奴隷解放とゼロ奪還の任務を並行していくよ。ゼロ奪還の隊長はジルカースと私、奴隷解放班の隊長は、ミオ、あんたに任せたい」
「私にですか……?」

アイラの腹心としてながらくやってきていた女性ミオは、もう20歳近い年齢となり、奴隷解放戦線の中でも古参のメンバーになりつつあった。

「心配ないよ、通信機でお互いに連絡を取り合って、協力できる時はしていくつもりさ。他のみんなについては、どちらに協力するかは強制しないよ、どうする」

アイラの言葉に対し、テオはジルカースについていくと言った。テオの祈りの神力はジルカースとの相乗効果で強い増強効果を発揮する。何より息子であるゼロ奪還の任務である。その方が良いだろうとアイラも皆も判断した。

「他の奴らはどうする?」
「俺もアイラ、お前についてくよ。これまでしばらく別働だったからな」

続いてルトラとイヴァンも、皆へ各々の希望を申し出る。

「ウチは……デロの力が、ジル兄の力と相性がいいみたいだってわかったから、お役に立てるかわからないけど、ジル兄について行こうと思う」
「オレも、師匠から学びたいことはたくさんあるから、そうしようと思う。役にも立ちたいし」

一通り皆の希望を聞いたアイラは話をまとめるように言った。

「了解、みんなの意見はわかったよ。一軍をミオに任せるのは初めてのことだけど、いまや私兵の子達も育ってるから、人員としては事足りるだろうさ、心配しなくて大丈夫だよ」
「お任せください、必ずやアイラさんのご期待にお答えしてみせます」
「OKだ、ミオの方もよろしく頼むぜ」

キスクの言葉にミオは、「あんたこそ、アイラさんに何かあったら許さないから」と、啖呵を切って見せた。
そこまで意を交わしあった一同に、はいっと挙手したルトラがもじもじと言葉を挟む。

「あの……ウチとイヴァンから、ずっと隠してたことがあるんだけど、いいかな」

他の皆はここで解散となるのだろうと思っていたため、少し面食らったような様子だった。

「合流してからイヴァンと話し合ったんだ。なんかさ、今話しておかないと話すタイミングが無くなっちゃいそうで」
「そういうことです、黙っててごめん」

二人の様子に「構わんさ、それで話というのは」とジルカースが返す。

「他でもない、この刺青のことだよ。あたしもイヴァンも、彫られたのは幼い頃だったから、あんまり正確に覚えてないところもあるんだけど」

そう言って刺青の彫られた互いの右腕を差し出す。
腕輪のようにも見えるその黒い刺青は、特に変わったところもなく、なんの変哲もない刺青のように見える。

「この刺青には不思議な力があるみたいなんだ。イヴァンが昔、村の解熱剤が無くなったってんで、薬草を取るために無茶して崖を登ったことがあったんだけど、その時崖から転落しちゃってさぁ」
「また無茶なことを……イヴァンらしいといえばそうだが」

弟子の無謀な行いにやや困惑したジルカースだったが、“刺青の力により一命を取り留めた“という言葉に何かを察した様子だった。

「なんかさ、イヴァンが言うには、刺青からすごい力が湧いてきて、致命傷の怪我があっという間に治っちゃったんだって」
「今救おうとしてるゼロにも、“癒しの神力“があるって聞きました。だからもしかして、俺のも“そういう力“なんじゃないかって」
「なるほどな」

ジルカースの知る限り、“神力“とは生まれつき神の血を引いたもの、もしくは神に等しい力を授かったものしか使えないはずであった。
ソルティドッグキャラバン関係者で神力を使えるのは、ジルカースたち家族の三人だけであると思っていた。しかしそうではなかったらしい。

「オレが西の国にキスクさんと行った帰り道、中央都市コウトクで会った人から聞いたんだけど……東の国に、オレたちとよく似た刺青を持った、銀髪の子供が居たって。リベラシオンとは違う軍隊と一緒にいるのを見たって」
「イヴァンの聞いた話からして、その子は多分ゼロくんとそう年嵩の変わらない子みたいだよ」
「ふむ……それが今後にどう関係してくるかはわからないが、向こうのデオン軍にも不思議な刺青を持つ人間がいるやもしれん、と言うのは考えておいた方が良さそうだな」

その神力が使えるという銀髪の子供というキーワードに、引っかかるものを感じながら、ジルカースは黙して考え込む。
その昔、キスクと出会った頃に目にした“刺青のある銀髪の子供“
もう数十年昔のことだが、これはどういう符合だろうか?
ジルカースはなぜかデオン・ギロの姿が意識にちらついて仕方なかった。

「旦那、その力は、俺たちが持っている不老不死の力とは違うのかな?不老不死ってのがそんなにゴロゴロ居るとは思えないけど、でももしかすると、あの不老不死の研究をしてた東の国の関係者かもしれないんだろ?」

キスクの問いかけに、アイラも口を挟む。

「その可能性もあるね。あたしも子供の頃、不老不死の力が目覚めて瀕死の怪我を治してるからね。同じことかもしれないよ」
「確かに、以前の東の国研究機関関係者であるヘンゼン博士へ話を聞いた方が良さそうだな」

そう判断した一行は、現在南の共和国へ在住しているヘンゼン博士(元東の国研究者
)へ、通信機を利用して詳細な話を聞くことにした。

「わしも研究の記録文に関しては、東の国の研究施設へ置いてきてしまったからな……もうかなり昔のことじゃから、あまり覚えておらん。ただ、その刺青とやらは、確かに不老不死の研究の一環として行なっていたのは覚えておるよ。確か鎧型タイプの後継となる研究だったか」
「鎧型?」

博士の記憶によれば、鎧内部にとある紋様を掘り込むことで、無限回復効果を付与する研究らしかった。その鎧を着用すれば、装備者は無敵状態となれるらしい。
その話題を聞いて真っ先に顔色を変えたのはキスクだった。

「待ってくれよ……!そいつはもしかしてかつて西の国を襲ったアベルバイゼンの軍隊のことか!?」

唯一、その時代に居合わせたことがあるのはジルカースだけだったため、キスクの言葉の意味を理解する者は居なかったが、ジルカースはその戦乱の終幕を知っているだけに心底苦い顔をした。
“西の国コミツ平定の戦乱“というと聞こえは良いが、要は東の国が介入して旧西の国が滅び、現在の西の国コミツができたということなのである。
その歴史の中には数多亡くなった人間たちがいるということであり、決して軽く流して良いことではなかった。

「西の国平定の戦は惨たらしい数の人が亡くなった、酷かったと聞いておるよ。あんたはそれに関係していた人物だったんじゃな……わしの研究が歴史に傷を残してしまったのは確たる事実じゃ。今更詫びてどうなることでもないかもしれんが……詫びさせてくれ、すまなかった……」
「わかってる、あんたは今償いとして、こうして東の国から逃れた生活をしてるんだもんな。今更詫びなんて求めちゃいねぇさ」

キスクの言葉に、安堵した様子のヘンゼン博士のため息が、通信機ごしに聞こえてきた。
ヘンゼン博士は“自分が関わってきた不老不死の研究で発生した、あらゆる事象への償いを、終生をかけてする“と約束したのである。
とはいえ人間の感情も思考も存在する以上、辛いという個人的感情は消えないのだろうな、という、どうしようもない人間臭さも感じてしまうのだった。

「……それで、その鎧とやらが東の国で実用化されなかったのはどうしてなんだい?ものすごく軍事を発展させそうな技術だろうと思うけど」

アイラの最もらしい問いに、一同は揃って首を縦に振った。
現在の東の国にも西の国にも、そのような技術はかけらも残っていない。
闇に葬り去られたということは、何か致命的な欠陥があったのだろうと思われた。

「西の国平定の戦乱直後は、研究員みなが無敵の鎧を実用化することに賛成しておったよ。ただな、数ヶ月ほどしてから、致命的な副反応が発見されたんじゃ」
「致命的な“副作用?“」

アイラの問いに、ヘンゼンは一息置いてから、言葉を紡ぎ出す。

「“装備した者はやがて自分の死期が見える“という奇怪なものじゃよ。ある日、白昼の最中突然に、または睡眠中の夢の中で、繰り返し見るとの報告じゃった。やがて気が触れて自殺する者も現れ、気味悪がる意見が高まり、実用化の意見は撤廃された」
「そんな理由があったのか……俺たち不老不死の存在ならともかくも、一般の人間からすれば死期が存在しない人間などいないからな」
「旦那、あの件も聞かないとですよ、刺青の件」
「わかっている。ヘンゼン、国家要人と名乗る人間たちが、子供たちの体へ刺青を彫る、という事例は身に覚えがないか?東の国だけでなく、各国の村々で確認されたそうだ」

ジルカースの問いに、うっと言葉を詰まらせたヘンゼンは、「あんた方は、わしの研究がことごとく忌々しいものだったと、いつも教えてくれるのう」とこぼした。

「その反応、やはり東の国が関わっていたんだな。詳細を聞かせてもらえるか」
「……話は長くなるぞ」

ヘンゼンの言葉に「構わない、続けてくれ」と返したジルカースにならい、一同は声を顰めて通信機のからの声に聞き入った。

「“神の烙印“と呼ばれる刺青の本格的な研究が始まったのは、わしとレビィの手により無敵の鎧の研究が進んでいた頃のことじゃった。レビィにも極秘でその研究を始めたのは、わしの弟子だった若い研究者でな。あろうことか“鎧に施す紋様を刺青に落とし込み、直接体に彫る“という、いわばわしの研究成果の応用じゃった」
「また危険な賭けに出たもんだ……それで、鎧の時に現れた“死期が見える副反応“とやらは現れなかったのかい」
「鎧に施さず直接体に彫れば、奇怪な副反応は現れない、という研究結果がのちに出ておったからな。そういったことは無かったんじゃが、しかし、紋様を直接体に彫り込むことにより、今度は過剰な精神崩壊反応が出てしまい、力をコントロールできない事例が多発してしもうた。その反応を経てなお、生き残った子供とされるのは、“神の玩具“と呼ばれた子供だけじゃ」
「“神の、玩具?“」

その呼称にざわつく胸を抑えながら、テオが恐る恐る問いかける。
ヘンゼンは「幼いお子が居る方へ、このような話をしたくはないのじゃが」とことわってから、ゆっくりと話し始めた。

「神の烙印の研究により、百にものぼる被検体が死亡する中で、唯一生存した個体が彼じゃった。神力の覚醒、不老不死の力の覚醒を確認したが、西の国平定の戦場内で暴走し、双方の兵団を壊滅させた。それゆえ西の国にて捕獲後は、力を恐れられカプセルに封じ込められた。長く伸ばした銀髪が美しい、紅い瞳の子供じゃったよ」
「そんな、そんなことって……!」

あまりのショッキングな出来事に、テオは口元を抑え“うっ“と身を屈める。
それを案じるようにテオの背中をさすってやりながら、ジルカースは最後の問いを投げかけた。

「俺たちの仲間に“刺青を掘られてなお、正気を保って生き残った二人の人間“がいる。ヘンゼンたちはこれを認識していたのか?」
「……してなかっただろうね。認識してたとしたら、東の国が黙って見過ごすはずがない」
「そうじゃ、わしらはそういった成功例があることは一切聞いておらんかった。おそらく子らの命を重んじた村長が、亡くなったと偽りの報告をあげていたんじゃろう」
「でもそのおかげでオレたちは今こうして生きてる。ヘンゼンさんたちと村長のおかげだな」
「そだね……まぁ村長がどう言って誤魔化してたのかはウチらにはわかんないけどさ」

イヴァンとルトラの言葉に、ヘンゼンは「まさかこの研究をしてきて感謝される日が来るとは……奇妙なこともあるものじゃ」と言って、二人の出身や身の上を改めて聞いた。

「……なるほどのう。もしかすると“降霊術を使う民“というのがキーポイントだったのやもしれん。初めて聞く事例じゃ」
「降霊術が使えるってそんなに特異なことなの?ウチは幼少期から霊体が見えたりするのが当たり前だったから、特になんとも思わなかったけど」
「そうそう、オレは見える方じゃないけど、なんとなく気配はわかったし。あとルトラは、よく昔から霊体と漫才してたっけ」
「そんな“へんちくりん“なことがあるのかよ!?」

まさかというキスクのツッコミに、ヘンゼンが「おそらくはそれじゃよ」と告げる。

「霊体が見える、感じられるという特性が、精神崩壊から逃れる要因になったのやもしれん」
「なるほどな。自分のことだけど全然わかんなかった」
「イヴァンは精神図太いだけ、って可能性もありそうだけどね」
「おもしれ~!ルトラの言う通りその可能性あるかもな。オレよく鈍いって言われるから」
「そういうとこだっつの……」

イヴァンとルトラ、二人の漫才に、それまでどことなくものものしかった空気が一瞬和む。
二人には年相応に若いという以外にも、何か場を和ませる不思議な力があるようにジルカースは感じた。

「ヘンゼンさん、刺青の力が今後暴走するって可能性はないのか?」
「そうそう知っときたいよね。自分らのことだし」
「これだけ長期の間安定しているということは、まずこのまま何事も起きんままじゃろう」
「そう願いたいものだな……」

二人の身を案じながら、ジルカースは“西の国平定の日“にすれ違った、銀髪に赤髪の“デオンによく似た少年“を思い出していた。

***

「ゼロ!デオンから外出の許可が出たぞ!」

軟禁から一週間ほど経過したある日のこと。
イルヴァーナが嬉しげに息を切らしながら、ゼロとイクリプセの居る部屋に入って来た。

「と言っても、城の敷地内なんだけど」
「外に出られるだけマシだよ。行こう、イクリプセも!」

イルヴァーナとイクリプセを伴ったゼロは、意気揚々と城内敷地の散策へと出かけた。
長い銀髪を靡かせながら先導するイルヴァーナを尻目に、ゼロは城内をキョロキョロと落ち着きなく見回す。
そんな彼を見かねた様子のイクリプセが「嬉しそうだねゼロ」と声をかけた。

「この東の国の城はぼくの母さまの暮らしていた場所だからね。一度見てみたかったんだ。母さまは以前この国の神子だったから、城の敷地内で軟禁されていたんだって」
「そうか、それはまた奇妙な巡り合わせだね……」
「神子かぁ、僕のいた時代にも居たような気がするけど、お前の顔とは似てなかったなぁ。なんていうかもっと堅苦しそうな奴らだった」
「イルヴァーナがいつの時代の話をしてるのかはわからないけど、神子の存在を知ってるってことは最後の神子だった母さまよりも年上ってこと……?もしかしてイルヴァーナって“ぼくたちと同じで“長生きなの?」

ゼロの言葉に、ふと何かに勘づいたような表情をしたイルヴァーナに対し、イクリプセは初めて見る城の大階段からの眺望に驚いている様子だった。
そして徐に両手を広げると、あろうことか階段から転げ落ちたのである。これには、大事な話をしかけていたゼロとイルヴァーナもびっくり驚いてしまった。
よろよろ起き上がったイクリプセを、慌てて助け起こしたゼロとイルヴァーナは、「いきなり何をするんだよ!」と問い詰めた。

「どうしてだろうね。ここに立った途端、自分は“なんでも出来てしまう存在“のような気がしてしまってね。城というのは不思議な場所だね」

どこか皮肉を含んだようなその言葉に、ゼロもイルヴァーナもいっとき言葉を失ってしまった。
そこでゼロは、以前ジルカースたちが話していた言葉を思い出した。城というのは権力や欲望が渦巻く、厄介な場所であると。子供の自分には理解が及ばないところだなと思っていたが、しかしイクリプセの言葉を聞いて“確かにそうかも“と思い至る。
母のテオを軟禁した城も、自分たちを軟禁している城も、同じこの場所なのである。そう考えるとなんだか、イクリプセの言葉が酷く重たい言葉に感じられた。

「イクリプセ、肩を擦りむいてるじゃないか!待ってろ、いま救護班を呼んできてやるから」

そう気づくや否や、慌てて駆け出そうとしたイルヴァーナを引き留めたのはゼロだった。

「なんだよ、早くしないとバイキン入るだろ!母さまに教えられなかったのかよ」
「大丈夫、このくらいならぼくにも治せるよ。以前に死にそうな小鳥を助けたことがあったから」

そう言って、イクリプセの肩の傷口に両手を差し伸べたゼロは、むかし父のジルカースに教えられた神力の使い方を思い出しながら、意識を集中させる。
気の力が指先にポッと収束すると同時に、イクリプセの傷口がスッと消えるように回復してしまった。

「治った……!そうか、これがお前の神力なんだな。デオンほど派手な力じゃないけど、お前らしいや」
「そう、これがぼくの神力だよ。まだ父さんや母さまほどの力はないけど、癒しの力が使える。あのデオンさんも神力を使うの?」
「デオンもメリルもレギオンも、それに僕も、みんな神力を使えるよ。まぁ、厳密にどういう力を使うのかは僕も教えてもらってないんだけど」
「そうなんだ……イルヴァーナも“ぼくたちと同じ不老不死だったら良かったのに“と思ったんだけど。そんな都合良くはいかないか」
「……ふーん、やっぱりお前も不老不死だったのか」

イルヴァーナの返事に「えっ」と返したゼロは、心底驚いたというような顔をしていた。それに対し、イルヴァーナは“以前からどことなく勘づいていた、というように「バレバレだよ」と言った。

「お前、考えが顔に出やすいだろ。僕の周りの人間だとレギオンがそういう奴だからさ」
「レギオンさん、そんなタイプに見えなかったけど……人は見かけによらないんだなぁ」
「レギオンほどわかりやすい奴もいないと思うけど……お前の目がフシアナなんじゃないのか?」
「なんだって」

“同族の不老不死“と知って浮き立つも、また不仲げな空気を醸し出して来たゼロとイルヴァーナに、イクリプセが割って入る。

「ストップ、私を救ってくれたゼロの力は素晴らしいものだったよ。だからきみの目は決してフシアナなんかじゃない。イルヴァーナも、元気なのは良いことだけれど、相手を傷つけるような言葉を使うのは良くないと思うよ」
「ごめん……」

すっかり二人の仲裁者が板についてきたイクリプセは、不思議なことに、二人と出会ったばかりの頃に比べ、どこか大人びた雰囲気を醸し出すようになっていた。

「イクリプセ、変わったよな。なんか初めは頼りないヤツだなって思ったけど、今の感じからして僕なんかより全然年上って感じする」

イルヴァーナの言葉に、ゼロもうんうんと相槌を打ちながら「わかる」と答える。

「良くわからないんだけど、今のイクリプセからは、ぼくの父さんのような気配を感じるよ。なんて言ったらいいのかわからない感覚なんだけど」
「フーン……お前の父親って、デオンが探してる“ジルカース“とやらなんだっけ。そんなに強いのか」
「当たり前じゃないか。刀術も上手いし、銃使いも上手いし、体術だけにしても負けたの見たことないし。あとぼくたちはみんな不老不死の一族だから」
「そこは僕たちと同じだな。なんていうか、デオンの話からして不老不死なんてそんなゴロゴロ居ないと思ってたんだけど。意外といるもんだなぁ」
「そうだね」

三人は“不老不死“という、通常非現実的なワードを持ち出しながら、青空に緩やかに流れてゆく呑気な雲を眺めていた。
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