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欠陥だらけの主人公!
しおりを挟むその頃、クロ達は街に向かって全力で疾走していた。
我ながらの名演技。『UFO』と言いそうになりつつも何とか成功した。
ゴブリン達の視線の誘導。本当に変な技術は持っているクロだった。
ゴブリン達の雄叫びはクロ達にも聞こえていたが、気にもとめずひたすら無我夢中でミラを抱きかかえて走る。目的を達成したクロの頭の中は『早く街へ』と言うのでいっぱいだった。
息を荒げて限界まで肉体を強化し、ドバドバと汗を垂らしながら走る姿はかなり不細工だ。もう少しちゃんと走れるはずなのだが恐怖心がそうさせない。
速く!速く!速く!速く!………
その時
「なんで…」
小さな声がボソリと聞こえる。
「なんで、なんで、なんで!なんで助けに来たの!!!」
徐々に声は大きくなり、怒鳴り声へと変わる。その声の主は言うまでも無い。ミラは抱き抱えるクロの手を振り払う。急に暴れ出したミラをクロは離してしまった。かなりの勢いで転がりこけるミラ。クロは急いで止まり、ミラの元へ駆け寄る。
「お前何してんの!怪我して無いか?」
地面に転がるミラに手を差し伸べるとミラは俯きながら叩き拒絶した。一瞬、『はっ』とし心臓が大きく鼓動をうつ。
「……どうした?」
表情は俯いて見えないがいつもと雰囲気が違うのはわかった。クロは様子を確認する様に声をかける。
「なんで助けに来たんですか?私はあなたの奴隷です。奴隷の為に命をがけで助けにくる主人がどこに居るんですか!」
折角助けに来たのにめんどくさい。
これが今クロが思った正直な気持ちだ。それと同時に少しホッとしている自分がいた。普段、冷めきった顔に死んだ魚のような生気のない瞳をしていたミラが、初めて感情的に声を発したのだ。嬉しい事ではあるがそれはそれ、クロは今すぐにでもこの場所を離れたかった。
「わかったからから速くここから離れよう。ここはまだ危ないから」
「何も分かってないっ!!!」
怒鳴るミラに気圧されるようにクロは一歩下がった。
「私は死なないといけないんです!これがお兄様からの最後の命令なんです!私は生きていてはいけないんですよ!!」
「いいから速く帰ろう」なんて言葉も浮かんだが、ここはちゃんとしないといけないと。対応を間違ってはいけないとクロの直感が言っていた。
「何故お兄様がお前に死ね何て言うんだ」
「私は、出来損ないの欠陥品ですから」
『欠陥品ってどう言う事だ?」
「私は天使族の中でもそれなりの家柄の家系に生まれました。天使族の使う神術という力。私にはこれの才能がありませんでした。どんな家柄の天使でも五歳にでもなればそれなりの種類の神術が使えます。でも、私は五歳になってもまともに使える神術がなかった。その時点で、両親は私を見放し、私は牢獄のような部屋に入れられました。それでも、神術を使えるようになればいつか認めてもらえると信じて私はひたすら神術の特訓をしました。そして10歳になった頃、お兄様が私のところへやってきました。お兄様私に『付いて来い』と言い、私は言われるがまま付いて行きました。認めてくれたという期待した私が連れていかれたのはオークション会場でした。そしてお兄様は『お前は終わっている』と『黙って死んどけ』と私に言った。だから私は死ななければいけないんです。」
話を聞いてやはりこのは異世界なんだなと実感する。
「要するに、お前は神術の才能がないから、そしてお兄様が死ねと言ったから死なないといけないとそういう事だな」
「……はい」
クロは一際大きな溜息を吐いた。
才能がないから死ね…か。めちゃくちゃだな。……いや、この世界では普通の事かもな。でもアニメ、漫画なら…
「アホか」
クロの言葉に『へっ』と言わんばかりに顔を上げる。
「何で兄貴火に死ねって言われたからってお前が死ななきゃならんのだ。才能がない?そんなの誰が決めたんだよ。確かに神術の才能はミラには無いのかもしれない。だが、お前は神術が全てじゃないだろ。神術の才能がなくても、他の才能があるかもしれない。勉学の才能、運動の才能、戦闘の才能、武術の才能、才能何て色々だ。それに才能何ていつ開花するかなんてわからない。今は大した神術が使えなくても十年後、もしかしたらそのお兄様より凄い神術が使えるようになっているかもしれない。時には七十歳、八十歳になってから才能が開花する奴もいる。まだ十歳のガキのくせに才能が無いとか言ってんじゃねぇよ。」
「でも!」
「でもじゃねぇ。今、お前の主人は誰だ?お兄様か?違うだろ!お兄様が死ねと言った?だから何だ。今のお前の主人は俺だ。俺がお前の主人だ。もう一度言うが俺がミラを買った理由は正直勢いだ。天使といつ理由だけでお前を買った。神術が使えるとかそんな理由で買ってはいない。神術が使えなかろうと、才能が無かろうと俺がお前を見捨てることは絶対にない。お前を買ったからには最後まで面倒は見る。お前が俺のそばが嫌で自由になりたいと言うのなら自由にしてやる。だが、死ぬ事は許さん!これは命令だ!わかったか!」
「…はい」
黙ってクロの話を聞いていたミラ。胸の奥から込み上げてくるものがある。
才能がないと言われ続け、家族に捨てられ、自分を諦め、人生を諦めていた。
奴隷になって、どうやって死ぬのだろう。奴隷として使い潰されるのか、拷問でもされるのか、愛玩人形として買われるのか、そんな事を考えた。
だが、私を買った人間は拍子抜けでこき使う訳でも無ければ愛玩人形にはする訳でもない。
変な人間に買われたと思っていた。だが、私は運命の出会いをしていたのかも知れない。
いや、これは間違いなく運命の出会いだ。
この人に言ったことは綺麗事ばかりで、めちゃくちゃな事を言っている。だけど、偽りを言っているわけではない。本気でそう思っている。何故かそう思えた。
この人は信用できる。そしてこの人が言った言葉は私の心を紐解いていく。
才能があると言われた気がした。そして、生きろと言ってくれた。私は生きていては良いのだと、ここにいて良いのだと。
私はこの瞬間、奴隷になって、この人と買ってもらえてよかったと、心の底から思った。
クロは座り込むミラを背負い再び街へ走り出した。
街では門の前でみんなが待っていた。ミラを背負って帰ったクロにみんなが驚きの視線を向けた。だが、アリスだけは帰ってくる事を確信していた様に、まるでお使いから帰ってきた様に『お帰りなさい』と言った。
「ああ、取り敢えず今日はここで解散にする」
恐怖によるストレスと街では走ってきた疲労で顔はげっそりしていた。
ミラを背負ったままクロはアリスと宿へと戻った。部屋に戻るとベッドにミラを背負ったまま倒れ込んだ。
「あーー、しんど」
ベッドにうつ伏せになるぼやく。ミラは背負っている時から眠ってしまっている。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ、問題ない。疲れただけだから」
徐々に意識が遠くなりそのままの格好で眠りについてしまった。
そして目を覚ますと翌日の昼前くらいになっていた。
「おもたっ!」
ライトアーマーを着けたままクロの身体に圧迫感が襲う。クロの両側にはアリスとミラが寝ている。二人とも俺の服を掴みヨダレを垂らして寝ていた。何とも微笑ましい光景だ。
「あーあ、やる気でねぇ」
クロはめんどくさそうにはムクムクと起き、アリアとミラを起こした。ライトアーマーを脱ぎ二人を連れ、水浴びする。
二人はクロの手を握りベッタリとくっついている。アリスはともかく、ミラもクロから離れないのは正直驚いた。
水浴びを終え、部屋に戻ったクロは再びベッドに飛び込んだ。
クロ久しぶりにスマホを起動させる。
「あーあ、やっぱり電波ないよなぁ」
クロはスマホに入っている電気書籍を読み始める。クロの電子書籍は漫画とライトノベル、アニメやゲームの雑誌しか入っていない。
「お兄ちゃん、今日はギルド行かないの?」
「ああ、めんどくさいしな」
人間と言うのは怠惰である。
何かしらの壁にぶつかれば直ぐに諦め、自分を正当化する言い訳をペラペラと並べる。
普通の人間とはそう言うものである。
そして今現在、クロも言い訳の真っ最中である。
以前、最悪の恐怖体験をし、漫画、アニメの偽善者主人公を演じると決めて、二か月ほどで自分で決めた決意を放棄している。
こんなのいつまでも続けられるわけがない。
冒険者何て年中無休のブラック職だ。
命がけの仕事なのに対した報酬が貰えない。
使える魔法は対して役に立たないし、能力は使ってはいけない。
モンスターは怖い。最低ランクの依頼のくせにやけに手強い。
過酷な条件に生意気な仲間、やってられない。
あーあ、家に帰りたい。
クロは現実逃避をする様に漫画を読む。
「今頃、どのくらいアニメ溜まってるだろう?」
元の世界の事を考えるとどうしようもない想いが込み上げる。
……帰りたいなぁ
涙すら込み上げてくる。
そんな時、扉を叩く音が聞こえ『バタンッ!』と勢い良く扉が開いた。
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