最初で最後の我儘を

みん

文字の大きさ
上 下
20 / 42

好きな気持ち

しおりを挟む
「模様は、伸びてませんね。」


あれから、私とヴァレリアは街へよく出掛けるようになった。他人ひとに触れてしまう事もあるけど、左手首に痛みが出る事はなく、模様も伸びている事はないようだ。

「この調子であれば、留学生活は全うできそうですね。」
「はい。良かった…です。あ、お訊きしたかったんですけど、半年後にある友好の祭典には、竜族の方達も参加されるんですか?」
「はい。勿論、竜王陛下も私も参加します。フォレクシスからは、レナルド様が参加されると聞いています。」
「お兄様が……」

フォレクシス王国王太子─レナルド

ーお兄様と最後に話をしたのは…いつだっただろう?ー

祭典に参加すると言っても、私は“ルチア=クルーデン”だから、直接会って話す事は…ないんだろうけど。少しだけでも、顔が見られたら良いなぁ。


半年後に控えた祭典。その祭典に聖女が参加する。その為、リルは学園が休みの日には登城して貴族のマナーやルール、貴族の顔ぶれや名前を覚えさせられているらしい。そして、ダンスの練習が一番大変だと言っていた。

「ロルフ様が練習に付き合ってくれるんだけど、いつも足を踏んでしまって……」

と言いながら、顔を赤くしているリルは可愛い。
今日は祭典準備のお手伝いと言う名目で登城している為、2人がダンスの練習をしている所をこっそり見てみたけど……あれで、2人ともが未だに無自覚だから……困ったものだ。
あんな嬉しそうに見つめ合っておいて……恋愛経験のない私でも分かるのに!

「どうしたら、自覚させられるのかしら?」
「何が─ですか?」
「サクソニア様!?」

今は、休憩中でヴァレリアは席を外していて、部屋には私1人だけだった。

「王太子殿下は、まだこちらに戻って来ていませんよ?」

王太子と話し合っている時、侍従に呼び出されて退室して行った王太子と共に、サクソニア様も一緒に退室した。
それが1時間ぐらい前で、今もまだ王太子は戻って来ていない。

「まだ少し時間が掛かりそうなので、私だけ先に戻らされたんです。それで……誰に何を自覚させたいんですか?」
「あー……ロルフ様とリルです。」
「あぁ…あの2人ですか……」

と、苦笑するあたり、サクソニア様も気付いていると言う事だろう。

「何と言うか…もどかしくないですか?想い合ってるのが丸分かりなのに…」
「確かに、丸分かりですけど…一応、ロルフ様には婚約者が居ますからね。」
「あぁ…そうでしたね……」

解消できていない事を忘れていた。
その辺りは、今、王太子が全力で動いているらしいから、それも時間の問題だろう。

「解消できれば…ロルフ様も…直ぐに気付くかしら?」
「それは…どうでしょうね?ロルフ様の性格上、直ぐには無理かもしれませんが……最後には、収まる所に収まるでしょう。」
「そう…ですね……」

サクッといくように、王太子に頑張ってもらうしかない。

「それで……ルチ─ジゼル様は、大丈夫なんですか?」
「え?」

私は椅子に座ったままで、私の斜め前に立っているサクソニア様を見上げる。

「私の目には、ジゼル様も、少なからず、ロルフ様を慕っているように見えるので……。」

パチッ─と瞬きをしてから目を見開く。

「呪いの事があるのは分かってますが…ジゼル様にも、幸せになる権利はあるんです。ジゼル様が求めれば、ロルフ様なら受け止めてくれると…思いますよ?」
「………」

確かに…噂を鵜呑みにしなかったロルフ様なら、きっと、私を受け止めてくれるだろう。でも─

「私…“ロルフ様には幸せになってもらいたい”と思うんです。“ロルフ様と幸せになりたい”では…ないんです。ロルフ様の幸せに、“私”が居ないんです。それって……そう言う事なのかな?と……意味、分かりますか?」

「分かり…ます。」

ロルフ様の事は、素直に好きなんだと思う。ロルフ様とリルが微笑み合っている姿を見ると、ほんの少しだけ胸が痛むのも気のせいじゃない。でも、それよりも、2人が並んでいる姿を見るのが好きなのだ。私の好きな2人が、幸せになってくれたなら、更に嬉しいなと思うのは嘘じゃない。

「悲観してるワケじゃありませんからね?呪いが解けたら……私だって、恋の1つや2つはするつもりなんです。」
「2つも…ですか?」
「はい!私も、男を手玉に取る悪女になるかもしれませんよ?」

ふふんっ─と笑えば、サクソニア様はまたキョトンとした後、ニヤッと口角を上げて私の耳元に顔を近付けた。

「それは…楽しみだな───」
「────っ!?」

バッ─と耳を押さえながらサクソニア様から距離を取ると、サクソニア様は、そんな私を愉快そうな目でみながら笑っていた。


ー余裕のある男性は……心臓に悪い!ー

心の中で叫んだ。





しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界イチャラブ冒険譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:347pt お気に入り:1,773

鬼上司と秘密の同居

BL / 連載中 24h.ポイント:4,376pt お気に入り:599

セックスがしたくてしょうがない攻めVSそんな気分じゃない受け

BL / 完結 24h.ポイント:6,398pt お気に入り:9

自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

SF / 完結 24h.ポイント:319pt お気に入り:76

顔面偏差値底辺の俺×元女子校

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:333pt お気に入り:2

処理中です...