138 / 203
第五章ー聖女と魔法使いとー
疲れる心
しおりを挟む6日目
「何故、こうも父と連絡がとれない?」
少し苛立ったように呟く。ロンさんが何度となく王城に連絡を飛ばすが、返事が返って来ないらしい。
ーひょっとして…リュウが動いてる?若しくは…これが“強制力”なんだろうか?ー
『やっと会えた!やっと、シナリオが動き出したんだわ!』
あの時、彼女はそう言った。
「ロンさん、私が…直接登城してゼンさんに会いに行きましょうか?」
「それが…今は王城勤め以外の者は、登城許可が降りないんです。」
「え?」
「私も詳しくは分からないのですが、城内で問題が起きたようで…立ち入りが規制されているようです。父やカルザイン様も、それに巻き込まれているのかもしれません。」
ーあぁ…本当に…疲れるー
これからも、何かある度に…ゲームのシナリオに怯えなきゃいけないんだろうか?
信じたい気持ちと、疑う気持ちがせめぎ合っていて、本当に疲れる。
ーあぁ、そうだ、私も魔法使いだったっけー
普段の私なら、魔法使いだからとルール違反な事はしない。
したくなかったけど─心が疲れていたのかもしれない。考えるのが億劫で、すぐに行動に出た。
お姉さん達が聖女の訓練をしている間に、私は図書館に通って色んな魔術書や魔法の書を読み漁った。知識はそれなりに持っている。
“気配を消す”魔法を自分に掛け、更に“認識阻害”の魔法を重ね掛けする。
ー自分の目で見て…確かめるー
私はそっと、パルヴァン邸を出た。
自分に掛けた魔法は上手く掛かっているようで、道を歩いていても誰も私の存在に気付く人は居なかった。
そして、歩いて一時間程で王城に着いた。今は王城正門前に立っている。
出入りが規制されているのは本当のようで、いつもは開いている門が、今はピッタリと閉じられている。
ーさて…どうする?ー
門を飛び越える…のは無理だ。ちょっと怖いし。
そう言えば…魔法使いは勿論の事、ダルシニアン様も転移魔法を使っていたよね…“魔法は想像力が大切”か…よし!
ー先ずは…この閉じられた城門の向こう側へー
目を瞑り向こう側の景色を思い浮かべると、一瞬の浮遊感の後、足が地に着く感覚があり、転移できた事が分かった。
ーホントに、魔法使いってチートだよねー
先ずは…ゼンさんを探してみよう。多分…国王様の執務室だよね?と、私は王城内を歩き出した。
今は国王様の執務室の前に居る。ここに来る迄も、誰にも気付かれる事はなかった。
大きく深呼吸をする。
ー勝手に入ります!ごめんなさい!ー
「パルヴァンの様子はどうだった?」
「えぇ、特に問題はありませんでした。未だに穢れも出ていません。本当に…あの聖女様達には頭が上がりませんね。」
国王様の執務室には、国王様と宰相様とゼンさんが居た。
ーゼンさん…元気そうで良かったー
「しかし…王都とパルヴァンを4日で往復するとは…本当にパルヴァンの騎士とは…恐ろしいものがありますね…」
と、宰相様が遠い目をしながら言うと
「はっ。王城付きの騎士達が腑抜けているだけだろう?」
ーん?幻聴?ー
「まだ足りないなら、いつでもやってやるが?」
と、ゼンさんはニッコリ微笑んでいる。
「…いえ。ルイスはしっかりと分かっていると思いますので、大丈夫だと…。」
「そうか…。それなら良かったです。」
“死んでも取ってこい”
ーうん。このゼンさんなら言うかもしれないー
と言うか…ゼンさん、この4日でパルヴァンを往復してたの?それが本当なら、ロンさんからの連絡が届かなかったのは仕方がない事かもしれない。魔術で飛ばした手紙は、飛ばす相手にしか受け取りも開封もできないから。しかも、その手紙は王城に居る筈のゼンさんに送られた。パルヴァンに行っていたゼンさんに届く事はない。
「兎に角、パルヴァンに問題は無しです。他の物も調べていきましょう。」
よくは分からないけど、何かしら問題が起こっているのだろうと言う事は分かった。次は、エディオル様を探そうかな─と思った時
「あぁ、本当に新たな聖女様は可愛らしい娘ですね?アレなら、彼等が聖女様に惹かれる理由が分かりますね。」
「確かに…。まぁ…その辺りはエディオル殿とクレイル殿も居るから、大丈夫でしょう。最近では…噂になっている程ですから…。」
「…噂ですか…。“新たに恋に落ちた氷の騎士”でしたか?本当に、おめでたい事ですね。」
“新たに恋に落ちた氷の騎士”
ドクドクと嫌な音を立てる心臓。
ー誰が?誰に?ー
これ以上聞くのが怖くて、国王様の執務室から転移した。
「ここは…?」
国王様の執務室から、エディオル様を思い浮かべながら転移してみた。すると、王城の奥にある庭園の近くに転移していた。間違ってはいない筈だ。この庭園の奥にあるガゼボで、ベラトリス様とよくお茶をしたから。
ー何故…ここに?ー
恐る恐る前へと進む。
フワッと花の香りがしたかと思ったら、微かに話し声も聞こえて来た。
更に前へと進むと
「本当に、この庭園は綺麗ですね。」
聖女様─宮下香─が、ベラトリス様のガゼボのソファーに座っていて、その横に寄り添うように…エディオル様が座っていた。
「え?」
そして…その足元には…レフコースが丸まって眠っていた。
『散歩していたら、王都の外れ迄行ってしまったのだが、そこでいい昼寝場所を見付けてな?グッスリ眠ってしまっていたのだ…』
ーその場所が、ここだった?ー
『あぁ、沢山咲いている。主にも見てもらいたい。』
ーそう言っていた主とは、誰の事だった?ー
ーあぁ…本当に…疲れるー
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
2,243
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる