34 / 42
34_忘れられない日になりました①
しおりを挟む
冬の季節も深まってきた。最近ではちらほらと雪がふる日もある。
それに伴って、街のライトアップが少しずつ豪華になってきた。
この国では積雪が見られる頃に、冬に親しい人にプレゼントを贈ったり、ケーキを食べたりする、雪祭りというイベント……前世でいうところのクリスマスのようなイベントがあるのだ。それに向けて王都の店は各自準備をしているのである。
うちの仕事場のカフェもそれには漏れず、店を飾り付けることになった。
一緒に作業することになったアリアさんと雑談をしながら手を動かした。
「うちのカフェも忙しくなるでしょうか」
「どうかな。ある程度はなるだろうけど、冬祭りは奮発していいところに行く人も多いからね。ここのカフェはリーズナブルだから、客足はそこまで増えないかも。でもケーキを買いに来る人は沢山来るだろうから、いっぱい用意しておきたいね」
「そうですね。この機会に沢山作りたいです」
お菓子類を作ることは好きだ。普段はカフェで作るにしても数に限りがあるけど、限界突破して作れる機会があるならそうしてみたかった。沢山作ることで調理の上達にも繋がるだろうし。
そう言って張り切った様子を見せてみるけど、アリアさんは思案げに私を見やって言った。
「ただ、最近はオーナーが店長にネチネチ言うことも少なくなったから、無理して売上を上げようと頑張らなくてもいいかなって思ってるの。ケーキを作るのって結構体力がいるから、シルフィアも大変だと思ったら早めに言ってね」
「そうですね……落ち着いてくれたみたいで良かったです」
「シルフィアがオーナーとの話に付き合ってくれてるからだって店長が言ってたけど、シルフィアの方は大丈夫なの? オーナーと話すのがしんどいなら私がバシッと言うけど」
「大丈夫ですよ! 色々話してみてわかったんですけど、雑談の時間は意外と上機嫌で話してくれるので……」
私はアリアさんの心配にそう返した。
オーナーと雑談して店長への嫌味を減らそうという私の作戦は、今のところうまくいっている。
話が長いオーナーと話すのは面倒といえば面倒だけど、これで店が平和になるなら儲けものだと思った。
****
今日もカフェの仕事を終えて、家への道についた。
雪祭りの影響で、夜の街はいつもよりも賑やかだ。
(前世のクリスマスの頃を思い出すな。……)
イベントごとについては、気分が浮ついて好きだという気持ちと、落ち着かない気分になるから苦手だという気持ち、どちらもある。
一人で街を歩いたりしている分には好きなのだ。街中で仲間うちで楽しそうにしているところを見るのも好きだった。
でも、家に帰るときが鬼門だった。
微妙な仲の家族と暮らしている場合、何のイベントも無い方がよほど良いものだと思う。
家に戻ると親達だけで出掛けたという書き置きがあって、私は一人だけで過ごす、みたいなことが沢山あった。
いつもはそれでも何とも思わないけど、友人たちが「イベントは家族と過ごした」みたいな話をするとき、私はどう話を合わせればいいかわからなかったり……。
(いや、こんなことわざわざ思い出すものじゃないわね……。やめよう。それよりも、仕事とかこれからのことを考えなきゃ)
そもそも私は現世の家族とは仲が良かったのだから、わざわざ楽しくなかったときのことを考える必要はないのだ。
まあ――現世の家族は、みんな亡くなったけど。
家族が亡くなった後も、故郷の村の人間とささやかながら一緒にパーティをしたことだってあった。
まあ、最終的に私は生贄に捧げられた訳だけど……。
(いけない。なんか、妙に明るくないことばかり思い出すな。今日は早めに帰って休もう……)
こんなことを考えるのは、私の生活が安定しているからこそかもしれない。生存の危機にあるときは過去のことなんて考える余裕はないから。
そう考えれば、これは割と良い兆候なのかもしれない……。
そう思いたい。
****
「ピピィッ」
「あっ……レヴィウス様。お疲れ様です!」
「シルフィア。今日も何とか時間が作れそうだったから、来たぞ」
私の家の前にはレヴィウスがいた。
彼の手には二つほど大きめの紙袋がある。
その紙袋のロゴには見覚えがあった。
「それって、シャロームの袋じゃないですか……!?」
「ああ、そうだ。今日店に寄って買ってきた」
「本当に!?」
シャロームは王都にある店の中でも歴史が長い洋菓子店だ。私がカフェに出勤する際の通り道にあるので、そこの看板を必ず見ることになる。だからかなり印象に残っている。
ただ、知っているというだけで行ったことは無い。
そこは人気店のため、貴族や功績をあげた冒険者など、一定程度の地位が無いと入れないのだ。私にとっては未知の世界だった。
「行きたくとも一生行けない方も多くいると聞きます。レヴィウス様、一体どうやってシャロームに……?」
「人間たちが考えている程には難しくない。人通りの多い酒場を辿って、資格持ちの人間に多めに金を渡して一時的に入店証を借りているだけだ」
(う、裏口からだった……)
レヴィウスからすれば人間界の貨幣を稼ぐことは容易だろうけど、そこまでしてシャロームに行ってみたいと思っていたのは意外だった。
「人間の習俗の研究のために動かれたのですね。レヴィウス様の探究心は流石です!」
「……いや。今回は研究のためとは言いがたい。純粋に、いい菓子を求めてみたいと思った。今は人間界の祭りの期間らしいからな……」
そう呟いたレヴィウスは、紙袋の中から箱を取りだした。
それに伴って、街のライトアップが少しずつ豪華になってきた。
この国では積雪が見られる頃に、冬に親しい人にプレゼントを贈ったり、ケーキを食べたりする、雪祭りというイベント……前世でいうところのクリスマスのようなイベントがあるのだ。それに向けて王都の店は各自準備をしているのである。
うちの仕事場のカフェもそれには漏れず、店を飾り付けることになった。
一緒に作業することになったアリアさんと雑談をしながら手を動かした。
「うちのカフェも忙しくなるでしょうか」
「どうかな。ある程度はなるだろうけど、冬祭りは奮発していいところに行く人も多いからね。ここのカフェはリーズナブルだから、客足はそこまで増えないかも。でもケーキを買いに来る人は沢山来るだろうから、いっぱい用意しておきたいね」
「そうですね。この機会に沢山作りたいです」
お菓子類を作ることは好きだ。普段はカフェで作るにしても数に限りがあるけど、限界突破して作れる機会があるならそうしてみたかった。沢山作ることで調理の上達にも繋がるだろうし。
そう言って張り切った様子を見せてみるけど、アリアさんは思案げに私を見やって言った。
「ただ、最近はオーナーが店長にネチネチ言うことも少なくなったから、無理して売上を上げようと頑張らなくてもいいかなって思ってるの。ケーキを作るのって結構体力がいるから、シルフィアも大変だと思ったら早めに言ってね」
「そうですね……落ち着いてくれたみたいで良かったです」
「シルフィアがオーナーとの話に付き合ってくれてるからだって店長が言ってたけど、シルフィアの方は大丈夫なの? オーナーと話すのがしんどいなら私がバシッと言うけど」
「大丈夫ですよ! 色々話してみてわかったんですけど、雑談の時間は意外と上機嫌で話してくれるので……」
私はアリアさんの心配にそう返した。
オーナーと雑談して店長への嫌味を減らそうという私の作戦は、今のところうまくいっている。
話が長いオーナーと話すのは面倒といえば面倒だけど、これで店が平和になるなら儲けものだと思った。
****
今日もカフェの仕事を終えて、家への道についた。
雪祭りの影響で、夜の街はいつもよりも賑やかだ。
(前世のクリスマスの頃を思い出すな。……)
イベントごとについては、気分が浮ついて好きだという気持ちと、落ち着かない気分になるから苦手だという気持ち、どちらもある。
一人で街を歩いたりしている分には好きなのだ。街中で仲間うちで楽しそうにしているところを見るのも好きだった。
でも、家に帰るときが鬼門だった。
微妙な仲の家族と暮らしている場合、何のイベントも無い方がよほど良いものだと思う。
家に戻ると親達だけで出掛けたという書き置きがあって、私は一人だけで過ごす、みたいなことが沢山あった。
いつもはそれでも何とも思わないけど、友人たちが「イベントは家族と過ごした」みたいな話をするとき、私はどう話を合わせればいいかわからなかったり……。
(いや、こんなことわざわざ思い出すものじゃないわね……。やめよう。それよりも、仕事とかこれからのことを考えなきゃ)
そもそも私は現世の家族とは仲が良かったのだから、わざわざ楽しくなかったときのことを考える必要はないのだ。
まあ――現世の家族は、みんな亡くなったけど。
家族が亡くなった後も、故郷の村の人間とささやかながら一緒にパーティをしたことだってあった。
まあ、最終的に私は生贄に捧げられた訳だけど……。
(いけない。なんか、妙に明るくないことばかり思い出すな。今日は早めに帰って休もう……)
こんなことを考えるのは、私の生活が安定しているからこそかもしれない。生存の危機にあるときは過去のことなんて考える余裕はないから。
そう考えれば、これは割と良い兆候なのかもしれない……。
そう思いたい。
****
「ピピィッ」
「あっ……レヴィウス様。お疲れ様です!」
「シルフィア。今日も何とか時間が作れそうだったから、来たぞ」
私の家の前にはレヴィウスがいた。
彼の手には二つほど大きめの紙袋がある。
その紙袋のロゴには見覚えがあった。
「それって、シャロームの袋じゃないですか……!?」
「ああ、そうだ。今日店に寄って買ってきた」
「本当に!?」
シャロームは王都にある店の中でも歴史が長い洋菓子店だ。私がカフェに出勤する際の通り道にあるので、そこの看板を必ず見ることになる。だからかなり印象に残っている。
ただ、知っているというだけで行ったことは無い。
そこは人気店のため、貴族や功績をあげた冒険者など、一定程度の地位が無いと入れないのだ。私にとっては未知の世界だった。
「行きたくとも一生行けない方も多くいると聞きます。レヴィウス様、一体どうやってシャロームに……?」
「人間たちが考えている程には難しくない。人通りの多い酒場を辿って、資格持ちの人間に多めに金を渡して一時的に入店証を借りているだけだ」
(う、裏口からだった……)
レヴィウスからすれば人間界の貨幣を稼ぐことは容易だろうけど、そこまでしてシャロームに行ってみたいと思っていたのは意外だった。
「人間の習俗の研究のために動かれたのですね。レヴィウス様の探究心は流石です!」
「……いや。今回は研究のためとは言いがたい。純粋に、いい菓子を求めてみたいと思った。今は人間界の祭りの期間らしいからな……」
そう呟いたレヴィウスは、紙袋の中から箱を取りだした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした
柴田はつみ
恋愛
侯爵令嬢エラナは、父親の命令で突然、10歳年上の国王アレンと結婚することに。
幼馴染みだったものの、年の差と疎遠だった期間のせいですっかり他人行儀な二人の新婚生活は、どこかギクシャクしていました。エラナは国王の冷たい態度に心を閉ざし、離婚を決意します。
そんなある日、国王と聖女マリアが親密に話している姿を頻繁に目撃したエラナは、二人の関係を不審に思い始めます。
護衛騎士レオナルドの協力を得て真相を突き止めることにしますが、逆に国王からはレオナルドとの仲を疑われてしまい、事態は思わぬ方向に進んでいきます。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる