魔族への生贄にされたので媚びまくって生き残ります

白峰暁

文字の大きさ
37 / 42

37_悪い状況の中にある

しおりを挟む
 暫く気絶をしていて、目を覚ますと魔族たちが遠巻きにこちらを見ていた。
 その中には魔族会議に出席した際にも会った者たちはいるが、あのときよりも私を不審がっている目をしている。


 私が連れて来られたのは、評議会室……人間界で言うところの裁判所のような場所らしい。
 私はチェルシーに手を引かれてそこの台に立たされていた。


「皆様、現在私にかけられている疑惑について、真の犯人をお連れしましたわ!」
「真の犯人……!?」
「ということは、あの人間がローヴァイン家の祭壇を壊すように扇動したということか!?」


 何の話をしているのか、私は注意深く彼らの言うことを聞くことにした。


 どうやら、人間界でローヴァイン家の祭壇が破壊される事案が以前から起きていたらしい。
 最近の魔族間では人間との関係の緩和について取り沙汰されているが、ローヴァイン家はその事象をもって、やはり人間に対しては締め付けを進めるべきだと主張しているらしい。
 だが、ローヴァイン家の被害は彼らの主張を通すために自作自演でやったのではないかと疑念を抱いている者がいる。
 その風評を覆すために、犯人――つまり私――を捕まえてきた。そんな流れらしい。


「何故この人間が生贄として魔族に捧げられたかわかりますか? この人間は人間界にいる頃から問題行動を起こしていた。ローヴァイン家の祭壇を破壊したのもそのひとつです。だから周囲の人間が見放して生贄にした」
「そうだったのか……!?」
「でも、魔族に捧げるなら良き人間を捧げて欲しかったものです。こんな人間をよこすなんて、あまつさえその演技に騙される魔族が出てくるなんて……ああ、情けないですわ……!」
「泣くなチェルシー! お前の主張通りあの人間を処断して、平和を取り戻してみせよう……!」


 ローヴァイン家の当主ダズは、さめざめと泣く腹心のチェルシーを庇うように抱きしめている。


(……なんかこの光景、魔族会議のときにも見た気がするわね)


 今なら隙をついて逃げ出せないかなと考えてみたけど、私の周りには他の家の魔族たちがいる。一人で逃げてもすぐに捕まってしまうかもしれない。

 魔族たちは、私を怪しむ目で見ながら話し合っているようだ。


「やはり、チェルシーちゃんは犯人ではないんじゃないか?」
「な。念の為に行動に悪意が無いか魔術で確かめたけど、引っかからなかったらしいし……」
(それって、私が最初に受けたあれのことなのかな)


 受けた当人だからこそわかるが、あの魔術には脆弱性があるのだ。あれで調査しても参考になるとは言いがたい。
 それに、チェルシーの言い分にはおかしい点が色々ある。私がローヴァイン家の祭壇を壊したという嫌疑がかけられてるけど、それならアドラー家に生贄として捧げられたのは妙だ。ローヴァイン家に捧げられる方が自然ではないか。


(でも、そういう細かいことは気にされてないんだろうな。魔族たちは雰囲気に飲まれやすいみたい。今はチェルシーを庇おうという場になっている……)


 私の前で喧々諤々と話し合う魔族たちを見つめながら、私は内心で考える。


 魔族会議のときはここから哀れみを誘ってなんとか乗り切れたけど、今回は厳しそうだ。
 私自身に嫌疑がかけられているからである。

 チェルシーの言い分がそのまま通る訳ではないかもしれない。私が魔族たちにすぐに殺されるようなことにはならないと思う。
 でも、元みたいに人間界で平和に暮らせるかどうかはわからない……。


(魔族会議から生還出来たとき、うまくやれたって思ってたけど、あの一件で私は目を付けられたんだろうな。もともとローヴァイン家は人間否定派なこともあって、私がレヴィウスと時々交流するような生活は良しとしたくなかったのかも……)


 あと、レヴィウスがローヴァイン家について色々調べていると言っていた。
 何か後ろ暗いことがあって、アドラー家に対しても嫌がらせをするつもりで、私を誘拐したのかもしれない。


(…………)


 魔族会議の頃は私にまだ緊張感があったというか、『人間界に帰りたい』という強い気持ちがあった。そうすれば穏やかに暮らせると思っていたから。
 実際に数ヶ月暮らしてみたところ、今の私は附抜けてしまったというか、かつてのような張り詰めた気持ちが無くなってしまった。

 具体的にどうすればこの局面を乗り切れるのか、頭が回らない……。
 自分なりに可愛がっていたティラミスがあんなことになってしまって、頭がぼーっとしているのもある。


(どうしようかな……)


 それに、ここを乗り切ったとして、チェルシーたちに私の自宅の場所はバレている訳だ。
 自宅だけじゃなくて、魔族は特定の人間の魔力痕を辿って居場所を調べることも出来るらしい。
 彼女たちがその気になれば、事故を装って私を始末するようなことも出来るのではないだろうか。


 私が平穏に暮らせる生活なんて、実はもう無いんじゃないか?
 それなら……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした

柴田はつみ
恋愛
侯爵令嬢エラナは、父親の命令で突然、10歳年上の国王アレンと結婚することに。 幼馴染みだったものの、年の差と疎遠だった期間のせいですっかり他人行儀な二人の新婚生活は、どこかギクシャクしていました。エラナは国王の冷たい態度に心を閉ざし、離婚を決意します。 そんなある日、国王と聖女マリアが親密に話している姿を頻繁に目撃したエラナは、二人の関係を不審に思い始めます。 護衛騎士レオナルドの協力を得て真相を突き止めることにしますが、逆に国王からはレオナルドとの仲を疑われてしまい、事態は思わぬ方向に進んでいきます。

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

処理中です...