脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

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リディアは次の狭い通路を見て、ふと思い出したように手を叩いた。

「そうだ! ミニミニポーションがあったじゃない!」
その言葉に、エリュディオンが半眼でリディアを見下ろす。

「君、そんな便利なものがあるなら、もっと早く使えなかったのか?」
白い目で呆れた声を漏らしながら、彼は腕を組んでため息をついた。

「えへへ、すっかり忘れてたんだよ! でも、今思い出したから大丈夫!」
リディアは全く気にする様子もなく、ポーチから小さな瓶を取り出した。それには「ミニミニポーション」と可愛らしいラベルが貼られている。

「よーし、これで狭い通路も余裕だね!」
彼女は勢いよく瓶の中身を飲み干し、みるみるうちに体が小さくなった。ふわふわのドレスがミニサイズになり、まるでお人形のような姿になったリディアが、満面の笑みで振り返る。

「どう? 可愛いでしょ!」
「見た目はともかく、その無邪気さは変わらないな。」
エリュディオンは軽く肩をすくめると、仕方がないというようにポーションを受け取り、一口飲み干した。彼の背の高い体もまた、リディアと同じように縮んでいく。

「こんな姿になるのは初めてだが……悪くないな。視界が少し新鮮だ。」
エリュディオンは微かに微笑みながら、リディアの後について歩き始めた。タフィーちゃんとメリーちゃんはというと、元々その狭さに影響はなかったため、楽しそうに跳ね回っている。

小さくなったリディアたちは、まるで玩具の世界に迷い込んだような感覚で通路を進んでいく。通路の奥が次第に明るくなり、そしてその先には、ぽつんと一つだけ置かれた不思議な物体が現れた。

「これ……卵だ!」
リディアが駆け寄ると、卵は美しい模様が浮かび上がるほど光を放ち、まるで生きているかのように温かい。サイズは人間の頭ほどで、表面には虹色の輝きが散りばめられていた。

その瞬間、魔法の地図が再び浮かび上がり、大きな文字でメッセージを表示した。
「コンプリート!おめでとう!」

「やったー! これで全部達成だ!」
リディアは両手を上げて小さな体で飛び跳ねた。メリーちゃんも「メェ!」と声を上げて喜び、タフィーちゃんは「ぷるぷるん!」と体を弾ませて祝福する。

「ふむ、なかなか面白い試練だったな。」
エリュディオンは卵を軽く眺め、何かを考えるような目をしていた。

「これ、何の卵なんだろうね?」
リディアは慎重に卵を手に持ち、その重みを確かめる。すると卵が微かに揺れ、彼女の手の中で温もりを感じた。

「まあ、その答えは持ち帰ってからのお楽しみということだな。」
エリュディオンが意味ありげに微笑み、杖を軽く振る。通路が徐々に広がり、元のサイズに戻れる空間が現れた。

元の大きさに戻ったリディアたちは、宝物のように卵を抱えて秘密基地へ帰る準備を始めた。その胸には、次の冒険への期待と、この卵が見せてくれる新しい物語へのわくわく感が膨らんでいた。




天蓋の浮島には穏やかな日差しが降り注ぎ、白い大理石の床が柔らかな輝きを放っていた。リディアは慎重に抱えた卵を見下ろしながら、浮島の中央に置かれたこたつに近づいていった。

「よし、ここならあったかいし、卵も喜ぶよね!」
リディアはこたつの布団をそっと持ち上げ、その中に卵を安置した。布団の中からは心地よいぬくもりが広がり、卵はまるで安心したように虹色の輝きをわずかに増している。

「ふふ、これで大丈夫! あったかいところでしっかり休んでね!」
リディアは卵の表面を優しく撫でると、満足げに笑みを浮かべた。その横でメリーちゃんが「メェ!」と声を上げ、タフィーちゃんも「ぷるぷるん!」と跳ねて卵を見守っている。

一方、こたつの反対側では、エリュディオンが靴下ネコにふみふみされていた。こたつ布団の上で、黒い靴下模様の足が彼の膝の上をぽてぽてと動き、リズミカルに押しつぶしては離れる。靴下ネコの真剣な顔とふわふわの体は、見ているだけで心が和む。

「……これが世に言う癒しというものか。」
エリュディオンは目を閉じ、少し大げさに言葉を吐いた。その声には微かな満足感が混じり、リディアはその様子に思わず吹き出してしまう。

「エリュディオン、まさか靴下ネコにふみふみされるなんて、似合わないと思ってたけど……意外と嬉しそうだね!」
「ふん、余計なお世話だ。」
エリュディオンは肩をすくめながらも、靴下ネコのふみふみを止める気配はない。むしろ、わざと膝を少し揺らしてネコがさらに熱心に動き出すのを楽しんでいるようだった。

「卵も温めて、エリュディオンも癒されて……今日はなんだかのんびりした日だね!」
リディアがこたつの横に腰を下ろし、布団に顔を寄せる。こたつの温もりは心地よく、自然と体の力が抜けていく。

「こういう穏やかな日も悪くないだろう?」
エリュディオンが少し満足げに言うと、靴下ネコが一声「にゃお」と鳴いてふみふみを続けた。

天蓋の浮島には、静かで心地よい時間が流れていた。卵もこたつの中で穏やかに輝き、リディアたちの新しい日常の一部となっていくようだった。

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