大好きな学園の王子様のあとをつけていたら、捕獲されてしまいました。

ねむたん

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追いかけて

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階段の踊り場で、ぼんやりと考えごとをしていたせいで、私はとんと誰かにぶつかってしまいました。前をきちんと見ていなかった私の落ち度です。

「ごめんなさい、お怪我はありませんでした?」

慌てて謝罪すると、目の前の美しい女性は優雅に髪を払ってから微笑みました。

「ええ、軽くぶつかっただけだから。……あら、貴女は会員ナンバー212番の。ちょうどいいわ、少しお時間いただけるかしら?」

その女性――日下部様ファンクラブの会長さんが、私に手を差し出しました。名乗りながらその手を取ると、彼女は迷いなく私を校舎裏へと導きました。

この学園の校舎裏といえば、よく手入れされた庭園と小さな東屋がある場所です。その東屋の周りに集まった女生徒たちが、小さな紙を手に何やら話し込んでいました。そこからは、妙に神聖な雰囲気が漂っています。

「夢見さん、ようこそ“ひみつのファンクラブグッズ頒布会”へ。」

その言葉に、私は目を丸くしました。なんてことでしょう。まさかこんな“秘密の会”に私が招かれるなんて。

「まあ、この子が噂の。たしかにとても可憐ですわ。一度お話ししてみたかったの。」
「こちらへいらっしゃい。今日は秘蔵のブロマイドのお披露目だったのよ。」

周囲の令嬢たちから次々にかけられる温かい言葉に、緊張がほぐれるどころか逆に強まります。皆様、会員ナンバー20番以内の名だたる方々ばかり。私のような下位会員がここにいてよいのか……そんな疑問が頭をよぎります。

それを察したのか、会長さんが意味深に微笑んでこう囁きました。

「夢見さん、ここに来たのも何かの縁よ。さあ、遠慮せず一緒に楽しみましょう。」

促されるまま視線を移すと、テーブルの上には日下部様の写真がずらりと並べられていました。その中には、弓道部遠征合宿での凛々しいお姿や、教室での自然な笑顔を捉えたものまで。

「すごい……!」

私は思わず感嘆の声を上げました。日下部様の寝顔まで写っている写真を目にしたときには、その美しさに息を呑むほどです。伏せたまつげと薄い唇――まるで物語の眠れる王子様のよう。

――でも、これ、盗撮では……?

一瞬、正気に戻りかけましたが、その考えは会長さんの甘美な声に掻き消されました。

「いまなら、会員価格でお求めいただけるのよ。」

その一言に、私は決意しました。買います。買わないなんて選択肢はありません。
会長さんの美しい笑顔に背中を押され、財布を取り出した私は、自分でも信じられないほど清々しい気持ちで写真を手にしていました。


ファンクラブの方々が私を招待してくださったのは、あの日の出来事が理由だったようです。

日下部様が、ほんの少し私に興味を示してくださった――その事実が彼女たちの耳に届いたからなのでしょう。でも、あの出来事は、日下部様のちょっとしたきまぐれに過ぎないと私は思っています。

日下部様のファンクラブは、彼を慕う生徒たちによって作られた、まさに彼の魅力を讃えるための組織。その会則は会長さん自らが日下部様を想い、細部まで配慮し尽くして設定されたものです。例えば、彼の行動の自由を妨げないよう、直接的な接触や過剰なアプローチは禁止されていると聞きました。それだけ彼を大切に思い、尊重しているのです。

そんな会則を作った会長さんが私を誘ったのは、単なる好奇心ではないようでした。彼女の視線は穏やかで、純粋な興味を抱いているように見えました。

「夢見さん、気にしないでいいのよ。私はただ、あなたとお話ししてみたかっただけ。ほら、あなたのような方が日下部様のお目に留まるのって素敵なことだわ。」

彼女の言葉は、意外にも温かく感じられました。ファンクラブの活動を支え、日下部様を心から敬愛する彼女が、こんな私と交流を持とうとしてくださるのは、何とも不思議でありがたいことです。

私が戸惑いながらも感謝を述べると、会長さんは柔らかな笑みを浮かべ、そっと肩を叩いてくださいました。その優しさに、少しだけ心が軽くなった気がします。

それでもやはり、日下部様が私に興味を示されたのは偶然の出来事――きっと何かの間違いだったのだと思わざるを得ませんでした。
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