大好きな学園の王子様のあとをつけていたら、捕獲されてしまいました。

ねむたん

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少しだけ話せた

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あとに残された日下部様と私は、なんとなく顔を見合わせました。木漏れ日の中、思案するように口元に手を当てる日下部様。その仕草に光が差し込み、彼の横顔をさらに美しく映し出します。

「僕の配慮が足りなかったかもね。」

突然の言葉に驚いて、私は目を丸くしました。

「日下部様?」

「今回は大丈夫だったようだけど、全員が穏健派とは限らないから。君が嫌な思いをしないよう、僕ももっと気をつけるよ。」

彼の真剣な声に胸が熱くなります。それでも、彼が気に病む必要などないことを伝えたくて、慌てて口を開きました。

「ファンクラブは日下部様の自由を妨げるような行為はご法度ですわ。あれは、野蛮な集まりではありません。」

先日の行動を反省するかのような日下部様を見て、思わず力が入ってしまいました。ほんの少しの行動が周囲に影響を与えてしまうことを気にされるなんて――きっと会長さんが聞いたら悲しむでしょう。彼女が試行錯誤の末に作り上げた掟が、報われなくなってしまいますから。

日下部様は私の言葉を聞いて柔らかく微笑むと、手に持っていた弓道姿のブロマイドに目を留めました。そして、そのブロマイドを握る私の手の甲を指先で軽くつつきました。

「ああ、君も会員だったね。それ、大事にしてくれたら嬉しいな。……今度は、人のいないところで話しかけるよ。」

その言葉に、私は思わず目を見開きます。

「まあ……。もったいないお言葉、ありがとうございます。」

社交辞令とわかっていても、彼のその一言が心をくすぐります。このブロマイドは額に入れて大切にする――そう心に誓いました。

そのとき、弓道部の部員らしき男性が日下部様を呼びに来ました。肩に触れていた彼の手が、自然と離れていきます。どうやら間近に迫った強豪校との試合に向けた強化練習のようです。

忙しい日々の中で、わざわざ裏庭にまで探しに来てくださった日下部様。……いったい、何のご用だったのでしょうか?

聞く勇気がないまま、立ち去る彼を見つめていました。振り返って軽く手を振る日下部様に、深々とお辞儀をして見送ります。その背中が完全に見えなくなるまで、私はそこに立ち尽くしていました。




平穏な日々に戻った私は、大量に入手したブロマイドを眺めたり、丁寧にファイリングしたりする日々を送っていました。それだけでなく、弓道部の練習を応援する集まりに参加させていただいたり、さらには体育祭の実行委員に指名されたりと、それなりに忙しくも充実した日々を過ごしていました。

あれ以来、日下部様に声をかけられることはありませんでした。やはり、あの「今度は人のいないところで」という最後の言葉は、単なる社交辞令だったのだろう――そう思うと少し胸が痛みます。それでも、日々の予定に追われるうちに、その気持ちは次第に薄れていきました。

体育祭実行委員に適当に指名された私を見て、紫藤様も「仕方がありませんわね」と立候補してくださったので、委員会には一緒に向かうことになりました。

「おっ、今日もふたり一緒だな。仲がいいのはいいことだ。体育祭、がんばれよ!」

途中、音楽担当の先生に声を掛けられました。私たちは手分けしてホワイトボードを運んでいたのですが、先生はにこやかに見送るばかりで、手伝う素振りさえありません。

「暇なら手伝ってくださればいいのに。」

紫藤様が唇をとがらせながら小さくぼやきます。その姿が少し可笑しくて、私はクスッと笑ってしまいました。

ようやく教室に到着し、扉を開けると、中にいた男子生徒がすぐにホワイトボードに手を掛けてくれました。

「手伝うよ。ここまで大変だっただろ。今度から言ってくれたら俺がやるから。」

「たけるくん、ありがとう。お久しぶりですね。」

従兄弟のたけるくん――隣のクラスの体育祭実行委員になっていたようです。叔父の誕生会以来久しぶりに会った彼は、軽々とホワイトボードを移動させ、素早く設置してしまいました。その頼もしさに感心しつつ、隣で見守っていた紫藤様にも簡単に紹介しました。

「初めまして、紫藤です。夢見様がお世話になっていますわ。」
「どうも、従兄弟なんで、こちらこそ。」

たけるくんは爽やかに笑い、自然に会話を交わしてくれました。その雰囲気に紫藤様も安心した様子で微笑みます。

準備が整ったところで、先生が教室に入り、委員会が始まりました。今年の体育祭は、例年の球技大会形式から趣向を変え、小学校の頃の運動会のような競技を多数取り入れる予定だそうです。リレーや障害物競走、借り物競走など、話を聞くだけでも楽しそうな内容ばかりです。

つつがなく議題が進み、予定の小一時間ほどで会議は解散となりました。
準備が山積みの体育祭ですが、心強い仲間たちと共に取り組むのは、きっと楽しいものになるでしょう。そんな予感を抱きながら、私は教室を後にしました。
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