大好きな学園の王子様のあとをつけていたら、捕獲されてしまいました。

ねむたん

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一緒にいるのは誰だ

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あっという間に体育祭当日がやってきました。

日下部様は、序盤の玉入れにご参加されるようです。競技が始まると、観客席からの声援が一気に沸き起こりますが、その熱量が他のチームに向けられるものとは明らかに違っています。まるで日下部様だけの応援団がいるかのようです。

私は会場設営の手伝いをしていましたが、ときおりちらちらと日下部様の方へ視線を向けてしまいます。カゴに向けて玉を投げ入れるその姿は、動作の一つひとつが完璧な軌道を描き、まさに優雅そのもの。お顔だけでなく、骨格から美しい――そう思わずにはいられません。

「あの均整の取れたしなやかなお体……。」

思い返すのは、彼に肩を抱き寄せられたり、あの長い指先でそっと顎を掬われたあの日のこと。ほんの数週間前の出来事のはずなのに、遠い過去のように感じられます。あれはまるで夢のようなひとときでした。

そんな感慨に浸りながら、得点表を設置していると、隣で作業をしていた従兄弟のたけるくんに声を掛けられました。

「こら、ひな。よそ見してたら怪我するぞ。」

注意されて、はっと顔を上げます。たけるくんは少し困ったように笑いながら、手元の作業を片付けています。

「あとは砲丸投げのライン引きだったっけ?俺がやっとくから、近くで見てきなよ。」

その言葉に、私は目を瞬かせました。そんなこと、頼んでいいのでしょうか?しかし、たけるくんの表情はどこか優しくて、断る理由を見つけられません。

「……ありがとう、たけるくん。助かります。」

申し訳ない気持ちを抱えつつも、感謝を述べると、彼は軽く手を振り、あっさりと「気にすんな」と笑いました。そんな様子に背中を押されるようにして、私は玉入れの競技が行われている方へ足を向けました。

――やっぱり、日下部様の輝くお姿を見逃すわけにはいきません。

競技はすでに終盤に差し掛かっており、日下部様のチームは圧倒的な差をつけて勝利を収めていました。その様子に満足した観客たちからも歓声が上がっています。

私はたけるくんの元へ戻り、丁寧にお礼を言いました。

「たけるくん。ありがとう。でも、もう終わってしまったみたいです。」
「あー……ごめんな、もっと早く声掛けてやればよかったよ。よだれでも垂らしそうな顔で見てたのになぁ。かわいそうに。」

「もうっ、そんな顔はしてません!」

失礼なことを言うたけるくんに、私はぷりぷりと抗議します。しかし、たけるくんはその反応が面白かったのか、なぐさめるように私の頭を軽く撫でてきました。

「いやいや、冗談だって。ほら、そんな怒んなよ。」

さすがにそこまで顔が緩んでいたとは思いたくありません。……多分、きっと、少しぐらいならセーフのはずです。

それでも、ふと視線を向けると、出番を終えてはちまきを緩める日下部様のお姿が目に飛び込んできました。その淡い色の髪が、風に揺れるはちまきの端とともにきらきらと輝いています。またしても見惚れてしまいました。

彼が青みのある瞳を少し細めるたび、長い睫毛が光を受けて際立ちます。どうやら眩しそうにしているようです。以前どこかで、色素が薄いと太陽の光がつらいと聞いたことがありましたが、きっとそのせいでしょう。

「ん?なんか、王子様こっち見てない?」

たけるくんがぽつりと呟きました。

「まさか、気のせいでしょう。」

そう答えながらも、私の心臓はどくどくと騒ぎ出します。日下部様との間にはたくさんの生徒がいるのに、視線が通るなんて考えにくい……はずです。でも。

「気のせい……か……っ」

突然、たけるくんの手が私の頭からぴくりと跳ね、素早く離れました。彼の顔がほんの少し緊張したように見えます。そして、小さく「あ、はいはい」と早口で呟き、両手を挙げるような格好で身を翻しました。

「たけるくん?」

声をかける間もなく、彼はそのままさっさと遠ざかってしまいます。私は一人取り残される形で、日下部様のほうをちらりと見ました。……気のせいかもしれませんが、彼の青い瞳が、まっすぐこちらを見ていたような気がしてなりません。
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