8 / 19
せめてもの配慮
しおりを挟む
イベントはつつがなく進行し、お昼の時間となりました。私は出番を終えた紫藤様と合流し、木陰でお弁当を広げます。
まだ息を弾ませている紫藤様にお茶を注いで手渡すと、彼女はぐーっと一息に飲み干し、小さく「ぷは」と音を立てました。その姿はいつも上品な彼女からは想像できないほど無防備で、体育祭ならではの非日常を感じます。
「お疲れさまです。騎馬戦、白熱していましたものね。」
「ええ、総合得点で勝っているチームに水を差すわけにはいきませんから。とってもがんばりましたわ。」
涼しげに微笑む彼女に感心しながら、私は先ほどの競技を思い返しました。
「最後の、馬から崩すところが意外でした。」
紫藤様は馬上で相手と組み合うようなそぶりを見せた後、とつぜん相手の馬の肩に手を掛け、あっという間に崩してしまったのです。そのあざやかな手腕に拍手が上がったほどです。
「力では勝ち目がないですから、少し頭を使いましたのよ。」
照れたように微笑む紫藤様が、とても輝いて見えました。そのとき、くぅ、と控えめなお腹の音が聞こえ、私はそっとサンドイッチを差し出しました。
「おいしい……。」
「よかった。せっかくなので料理長に教わってサンドイッチだけ作ってみたんです。」
「まあ、夢見様の手作り?大事に味わいますわ。もしかして、この中のお肉も作れるのですか?」
「ローストビーフですね。時間はかかりましたけど、そう難しいものではありません。」
「すごい……おいしい……。」
無心でサンドイッチを頬張る紫藤様の姿が微笑ましく、私は他のおかずも取り分けて差し上げました。こんなに美味しそうに食べていただけると、作った甲斐があったと嬉しくなります。
食事を終え、最後にデザートを取り出したところで実行委員の仕事の呼び出しが入りました。伝言を伝えに来た先輩にお礼を言い、私は立ち上がります。
「紫藤様、よかったら私の分も食べてくださいね。」
「いただきますわ。お仕事、がんばって。」
ひらりと手を振る紫藤様に背を向け、私は体育倉庫へ向かいました。その途中、日下部様がくずかごへ何かを捨てるところを発見してしまい、思わず足を止めてしまいます。ひと気のないことを確認して近づき、綺麗な袋に入った紙パックをこっそり回収しました。
近ごろ、日下部様は小さな袋を持ち歩き、ごみをそれに入れて捨てていらっしゃるようです。この配慮が、こっそり拾い歩く私にとっては非常にありがたい状況です。ただ、紙パックはかさばりますし、中に残った飲み物が傷む可能性もあるので、今回はストローだけをいただくことにしました。
「ひなー、そんなとこに突っ立って何してるんだ?早く来いよ。」
遠くからたけるくんの声が響き、私は慌てて返事をしました。
「あ、ごめんなさい!」
体育倉庫に入ると、たけるくんが待っていました。私たちは高跳び用のマットを運び出し、リレーの準備を整えます。
「高跳びの次はリレーか。」
「私も出番があります。」
「じゃあ急がないとな。でも、ひなって足遅くなかったか?」
そうです。私は走るのが苦手です。せめて足を引っ張らないようにと気合を入れましたが――結果的には、他のチームに抜かれてしまいました。やっぱり、走るのは苦手だと改めて実感します。
でも、体育祭の高揚感に包まれていると、その悔しささえも悪くないと思えるのです。
まだ息を弾ませている紫藤様にお茶を注いで手渡すと、彼女はぐーっと一息に飲み干し、小さく「ぷは」と音を立てました。その姿はいつも上品な彼女からは想像できないほど無防備で、体育祭ならではの非日常を感じます。
「お疲れさまです。騎馬戦、白熱していましたものね。」
「ええ、総合得点で勝っているチームに水を差すわけにはいきませんから。とってもがんばりましたわ。」
涼しげに微笑む彼女に感心しながら、私は先ほどの競技を思い返しました。
「最後の、馬から崩すところが意外でした。」
紫藤様は馬上で相手と組み合うようなそぶりを見せた後、とつぜん相手の馬の肩に手を掛け、あっという間に崩してしまったのです。そのあざやかな手腕に拍手が上がったほどです。
「力では勝ち目がないですから、少し頭を使いましたのよ。」
照れたように微笑む紫藤様が、とても輝いて見えました。そのとき、くぅ、と控えめなお腹の音が聞こえ、私はそっとサンドイッチを差し出しました。
「おいしい……。」
「よかった。せっかくなので料理長に教わってサンドイッチだけ作ってみたんです。」
「まあ、夢見様の手作り?大事に味わいますわ。もしかして、この中のお肉も作れるのですか?」
「ローストビーフですね。時間はかかりましたけど、そう難しいものではありません。」
「すごい……おいしい……。」
無心でサンドイッチを頬張る紫藤様の姿が微笑ましく、私は他のおかずも取り分けて差し上げました。こんなに美味しそうに食べていただけると、作った甲斐があったと嬉しくなります。
食事を終え、最後にデザートを取り出したところで実行委員の仕事の呼び出しが入りました。伝言を伝えに来た先輩にお礼を言い、私は立ち上がります。
「紫藤様、よかったら私の分も食べてくださいね。」
「いただきますわ。お仕事、がんばって。」
ひらりと手を振る紫藤様に背を向け、私は体育倉庫へ向かいました。その途中、日下部様がくずかごへ何かを捨てるところを発見してしまい、思わず足を止めてしまいます。ひと気のないことを確認して近づき、綺麗な袋に入った紙パックをこっそり回収しました。
近ごろ、日下部様は小さな袋を持ち歩き、ごみをそれに入れて捨てていらっしゃるようです。この配慮が、こっそり拾い歩く私にとっては非常にありがたい状況です。ただ、紙パックはかさばりますし、中に残った飲み物が傷む可能性もあるので、今回はストローだけをいただくことにしました。
「ひなー、そんなとこに突っ立って何してるんだ?早く来いよ。」
遠くからたけるくんの声が響き、私は慌てて返事をしました。
「あ、ごめんなさい!」
体育倉庫に入ると、たけるくんが待っていました。私たちは高跳び用のマットを運び出し、リレーの準備を整えます。
「高跳びの次はリレーか。」
「私も出番があります。」
「じゃあ急がないとな。でも、ひなって足遅くなかったか?」
そうです。私は走るのが苦手です。せめて足を引っ張らないようにと気合を入れましたが――結果的には、他のチームに抜かれてしまいました。やっぱり、走るのは苦手だと改めて実感します。
でも、体育祭の高揚感に包まれていると、その悔しささえも悪くないと思えるのです。
21
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
冷徹文官様の独占欲が強すぎて、私は今日も慣れずに翻弄される
川原にゃこ
恋愛
「いいか、シュエット。慣れとは恐ろしいものだ」
机に向かったまま、エドガー様が苦虫を噛み潰したような渋い顔をして私に言った。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
白い結婚のはずでしたが、いつの間にか選ぶ側になっていました
ふわふわ
恋愛
王太子アレクシオンとの婚約を、
「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で破棄された
侯爵令嬢リオネッタ・ラーヴェンシュタイン。
涙を流しながらも、彼女の内心は静かだった。
――これで、ようやく“選ばれる人生”から解放される。
新たに提示されたのは、冷徹無比と名高い公爵アレスト・グラーフとの
白い結婚という契約。
干渉せず、縛られず、期待もしない――
それは、リオネッタにとって理想的な条件だった。
しかし、穏やかな日々の中で、
彼女は少しずつ気づいていく。
誰かに価値を決められる人生ではなく、
自分で選び、立ち、並ぶという生き方に。
一方、彼女を切り捨てた王太子と王城は、
静かに、しかし確実に崩れていく。
これは、派手な復讐ではない。
何も奪わず、すべてを手に入れた令嬢の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる