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二,暗愚の噂
しおりを挟む「殿下、失礼いたします。陛下がお呼びです」
王付きの女官が静静と現れ、顔を伏せて言う。女好きの友人はその顔をもなんとか見ようと、腰をかがめた。
「お。噂をすれば! きっと宴のことだろう」
「我々も祝宴に備えて一度帰ろうか」
そうして竺董は父王の元へ向かい、友人たちも城下の邸へ帰っていく。
竺董の気持ちは重かった。昔から、誕生の祝宴が好きではない。
ただ一つ齢を重ねただけで、どうしてそこまで持ち上げられなければならないのか。……しかし皆そろいもそろって、言祝ぐことをやめない。
己が王に即位したあかつきには、真っ先になくしたい宮廷行事である。
朱塗りの回廊を渡り、王が日中を過ごす丹頂殿へ足を向ける。この宮殿は王宮内でも唯一白い壁に、幾重にも重ねられた屋根の頂点が丹く彩られていることから、そう愛称《よ》ばれていた。
「――……」
王の執務室の前へ来ると、中から微かに話し声が漏れ聞こえる。
声の主は父王と……王妃だ。当然、王妃とは腹を痛めて竺董を産んだ女である。
竺董の来訪を告げようとする女官を制して、竺董は耳をそばだてた。なんという気もない。ただ何を話しているのか、きりのよいところで入ろうと思った。ただそれだけだった。
「……やはり、そなたもそう思うか」
「…………申し訳ございません、我が子を……暗愚などと」
竺董の心の臓が、死人の冷たい手に握られたように縮み上がる。
「いや……私とて、そう噂される所以が分からないでもないのだ」
父と母は、何を話して……?
「竺董は詩を諳んじることができる、その意味も解している。決して不出来な息子ではない」
「経書についても同様ですわ。誰よりも、早く読んでおりました……」
王妃の声が、涙をにじませる。
「しかし人心を読めず、会話がどうも成り立たない……王の器に見合わぬ暗愚と称されても仕方なかろう」
王の言葉は淡々として、冷静に紡がれる。竺董の呼吸は止まったように凍った。
「ですから陛下……この祝宴を機に、あの子に妃を」
「ああ。さすれば少しは、変わるであろう」
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