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元王子アール
700年前⑤
しおりを挟む北の大地までの1ヶ月の旅はとても快適だった。
馬車で移動中、ツバキが常に御者席にいる事以外は。
夜は通過経路の街や村の宿屋で毎晩休んでいた。
ボクは王子だから狭いながらも1部屋だったけれど、部屋割りはボク・キーノ・ジーマとツバキの3部屋だった。
ジーマも同じ部屋だったら、夜中にツバキを訪ねられないじゃないか!
…旅の初日の夜、それでも何とかならないかと二人の部屋を訪ねた。
ドアノブに触ろうとした瞬間
バッシーーーン!!!
廊下の端まで吹っ飛ばされた。
旅をしている最中まで、結界魔法を張っているとは思いもしなかった。
だからだろう、この旅でツバキとの距離を縮めたかったのに少しも縮まらなかった。
きっと彼女は魔王を倒すまで気を張り詰めているんだ、ボクはそう理解した。
魔王を倒すまでの我慢だ、と自分に言い聞かせていると突然馬車が止まった。
向かいに座っているジーマの顔色は真っ青だ。
ツバキに何かあったのかと思い、慌ててキャビンを降りる。
キーノとツバキは無事だった。
しかし二人とも街道が不自然に切れた先を無言で見つめている。
恐らくこの先からが北の大地なのだろう。
いつの間にかキャビンから降りてきていたジーマも無言だ。
ならばこの場は王子であるボクが盛り上げねば!
「ほう、ここが北の大地か!
初めて来たぞ!」
それでもしばらく3人は黙ったままだった。
…ボクが滑ったみたいな空気は辞めてほしい。
「キーノ、ジーマ覚悟を決めて行くぞ!」
さすがはボクの愛しい人だ。
ツバキはボク達に気合いを入れて、北の大地へと一歩を踏み出した。
入った瞬間だった、目が眩む光にボク達4人は包まれた。
そう、ツバキを召喚した時のあの光のような。
もう眩しくないかと目を開けると、そこに魔王はいた。
転移されたであろう大広間の奥、真っ黒な玉座に座っている男。
教えてもらわなくても分かる、この男から先程の比ではない瘴気があふれている。
ボクは不死身なのにあまりの恐怖に動けないし、声も出なかった。
怖すぎて目を固く閉じて、ツバキに全てを託すと決める。
恐怖心を抑える為に、耳も手でふさいで視覚も聴覚も完全にシャットアウトした。
どれぐらい経ったのだろう、気付いたら体にのしかかっていた重圧が無くなっている。
目を開けて耳をふさいでいた手を緩めると
「やったな、勇者ツバキ!!」
「流石です、勇者ツバキ様!!
魔王の瘴気がキレイサッパリ無くなってます!」
キーノとジーマが魔王を倒したツバキを褒め称えていた。
しかし、ツバキは何故か心ここにあらずという顔をしている。
これは愛しいボクが声をかけるしかあるまい。
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