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番外編
とおる、婚約者になる
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とおるの様子がおかしい。
津田山翁を見ると舌を出してきた。
一週間も出張を命じられた時は不思議だったが、そういうことか。
頭に血が上る。
「そもそも一週間も出張なんておかしいと思ったんだよ」
「でも必要な調査だったろ?
横領の被害が拡大する前に水際で防ぐことができた。
鷲尾の緻密な調査のお陰で我が社は救われたよ」
「緻密とか云うけど誰でも出来る調査だよな!
その間に糞爺に大事な婚約者であるとおるの処女を奪われちまうしな!」
「だ、大丈夫です、処女ではないので」
俺はとおるを見た。
とおるは俺から視線を反らした。
「……婚約者、でもないので……」
とおるは津田山をちらと見る。
津田山がにっこりと微笑むと、とおるは俯き、恥じらっている。
俺は津田山翁を睨む。
「お前がうだうだやってるからだろ。
食べ頃になったから、いただいたのだ」
そう、津田山翁は女好きだ。
後腐れのない女に限るが。
好みの女をどこからか見繕っては家に置き、夜も奉仕させる。
飽きたら解雇していた。
女も後妻に入ろうとえげつないことをするので、距離を置いて正解ではあったが。
あの頃のとおるは、なんでも借金返済のためと割り切って行動していた。
なにか張りつめたような空気を纏っていた。
セクハラを耐えていたのも業務の一貫だったのかと思うほどだ。
こんな、翁との行為を思い出して赤面するような、こんな可愛いとおるではなかった。
確かに、正式な婚約はしていない。
しかも、こんな騒ぎ方をするととおるが節操なしのようになってしまう。
俺はぐっと詰まった。
「……何回した」
「えっ」
「初日にいただいてから毎晩してるよ。
だって、とおるに私を刻みつけておかなきゃならないからね」
とおるが真っ赤になって両手で顔を覆った。
俺は血の気が引いた。
「とおる、俺のプロポーズは覚えてるよな?」
「え?
あ、はい」
「応えてくれたよな?」
「でも、知り合ったばかりだし、鷲尾さんを愛しているかもわからないし」
「真面目か!
いや真面目だったな、とおるは」
真面目なのに押しに弱いとか、誰得だよ。
いや待てよ。
押しに弱いなら俺の押しにも弱いはず。
「俺が帰ってきたんだから、俺の相手もしろよ」
「え?」
「だから!
翁しか知らないでしょ、男を!
俺を知って、いい方を選べよ!」
「そんなはしたないことできません」
とおるは真っ赤になって拒否した。
俺は絶望した。
「まあまあ、私も若くない。
私にもしものことがあったら、とおるをお前に託す。
護り抜けよ」
「何年後だよ!」
とおるが吹き出した。
「本当に二人は仲良しですね」
どこをどう見たらそんな解釈ができるんだ。
とおるは多江に呼ばれて席を外した。
二人になって、俺は膝詰め談判をする。
「とおるのセカンドバージンは諦める、だが婚約者としての立場は譲らない」
「構わんよ。
決めるのはとおるだ」
「いけすかねぇー」
「こっちで暮らさないか、麟太郎」
「名前で呼ぶなよ、仕事中だ」
「ここまで雇い主に悪態ついてなにが仕事中だ」
確かに第三者に聞かれては恥ずかしい内容だ。
津田山翁には、何年も前から同居を打診されていた。
公私混同になりそうで、決断できずにいたのだ。
とおるが夕食の膳を運んできた。
ワゴンに三人分用意してある。
おひつからご飯をよそうとおるに見惚れる。
津田山翁の視線が気になるが、食事の席で喧嘩をしたくなかった。
「とおる。
今日から鷲尾もここで暮らすことになった」
「はい」
「東の客間を用意してあげなさい」
「わかりました、お父さん」
津田山の私室から一番離れた所にされてしまった。
とおるを呼びつけるのも気が引ける。
とおるが東の客間に風を入れている。
押し入れから布団を出し、寝具の確認をしている。
俺がここに住む、と聞いてもとおるの反応は薄かった。
関心があるのかないのか、不安がよぎる。
「鷲尾さんでも、あんなに取り乱すことがあるんですね。
それとも、お父さんに甘えているのでしょうか」
そんなに柔らかい笑顔をするようになったのか、とおる。
たまらず抱き締める。
とおるは嫌がらず抱擁を受けた。
ふよん、と柔らかな胸が俺の胸に押し潰されて形を変える。
「女にこんなに執着するのは初めてだ。
みっともなくもなるよ」
とおるの唇を塞ぐ。
舌を割り入れる。
最初は息を止めてしまい気を失いそうになっていたのに、今は上手にキスを受け入れている。
「私、最初の結婚は勢いでしてしまったの。
後悔してるわ」
とおるは微笑んだ。
「ゆっくり考えなさいってお父さんも云ってくれたの」
そんな天使のような微笑みで悪魔のような言葉を紡ぐとは。
俺は情けない顔をしていたと思う。
そんな俺の頬に、とおるは唇で触れてくれた。
津田山翁を見ると舌を出してきた。
一週間も出張を命じられた時は不思議だったが、そういうことか。
頭に血が上る。
「そもそも一週間も出張なんておかしいと思ったんだよ」
「でも必要な調査だったろ?
横領の被害が拡大する前に水際で防ぐことができた。
鷲尾の緻密な調査のお陰で我が社は救われたよ」
「緻密とか云うけど誰でも出来る調査だよな!
その間に糞爺に大事な婚約者であるとおるの処女を奪われちまうしな!」
「だ、大丈夫です、処女ではないので」
俺はとおるを見た。
とおるは俺から視線を反らした。
「……婚約者、でもないので……」
とおるは津田山をちらと見る。
津田山がにっこりと微笑むと、とおるは俯き、恥じらっている。
俺は津田山翁を睨む。
「お前がうだうだやってるからだろ。
食べ頃になったから、いただいたのだ」
そう、津田山翁は女好きだ。
後腐れのない女に限るが。
好みの女をどこからか見繕っては家に置き、夜も奉仕させる。
飽きたら解雇していた。
女も後妻に入ろうとえげつないことをするので、距離を置いて正解ではあったが。
あの頃のとおるは、なんでも借金返済のためと割り切って行動していた。
なにか張りつめたような空気を纏っていた。
セクハラを耐えていたのも業務の一貫だったのかと思うほどだ。
こんな、翁との行為を思い出して赤面するような、こんな可愛いとおるではなかった。
確かに、正式な婚約はしていない。
しかも、こんな騒ぎ方をするととおるが節操なしのようになってしまう。
俺はぐっと詰まった。
「……何回した」
「えっ」
「初日にいただいてから毎晩してるよ。
だって、とおるに私を刻みつけておかなきゃならないからね」
とおるが真っ赤になって両手で顔を覆った。
俺は血の気が引いた。
「とおる、俺のプロポーズは覚えてるよな?」
「え?
あ、はい」
「応えてくれたよな?」
「でも、知り合ったばかりだし、鷲尾さんを愛しているかもわからないし」
「真面目か!
いや真面目だったな、とおるは」
真面目なのに押しに弱いとか、誰得だよ。
いや待てよ。
押しに弱いなら俺の押しにも弱いはず。
「俺が帰ってきたんだから、俺の相手もしろよ」
「え?」
「だから!
翁しか知らないでしょ、男を!
俺を知って、いい方を選べよ!」
「そんなはしたないことできません」
とおるは真っ赤になって拒否した。
俺は絶望した。
「まあまあ、私も若くない。
私にもしものことがあったら、とおるをお前に託す。
護り抜けよ」
「何年後だよ!」
とおるが吹き出した。
「本当に二人は仲良しですね」
どこをどう見たらそんな解釈ができるんだ。
とおるは多江に呼ばれて席を外した。
二人になって、俺は膝詰め談判をする。
「とおるのセカンドバージンは諦める、だが婚約者としての立場は譲らない」
「構わんよ。
決めるのはとおるだ」
「いけすかねぇー」
「こっちで暮らさないか、麟太郎」
「名前で呼ぶなよ、仕事中だ」
「ここまで雇い主に悪態ついてなにが仕事中だ」
確かに第三者に聞かれては恥ずかしい内容だ。
津田山翁には、何年も前から同居を打診されていた。
公私混同になりそうで、決断できずにいたのだ。
とおるが夕食の膳を運んできた。
ワゴンに三人分用意してある。
おひつからご飯をよそうとおるに見惚れる。
津田山翁の視線が気になるが、食事の席で喧嘩をしたくなかった。
「とおる。
今日から鷲尾もここで暮らすことになった」
「はい」
「東の客間を用意してあげなさい」
「わかりました、お父さん」
津田山の私室から一番離れた所にされてしまった。
とおるを呼びつけるのも気が引ける。
とおるが東の客間に風を入れている。
押し入れから布団を出し、寝具の確認をしている。
俺がここに住む、と聞いてもとおるの反応は薄かった。
関心があるのかないのか、不安がよぎる。
「鷲尾さんでも、あんなに取り乱すことがあるんですね。
それとも、お父さんに甘えているのでしょうか」
そんなに柔らかい笑顔をするようになったのか、とおる。
たまらず抱き締める。
とおるは嫌がらず抱擁を受けた。
ふよん、と柔らかな胸が俺の胸に押し潰されて形を変える。
「女にこんなに執着するのは初めてだ。
みっともなくもなるよ」
とおるの唇を塞ぐ。
舌を割り入れる。
最初は息を止めてしまい気を失いそうになっていたのに、今は上手にキスを受け入れている。
「私、最初の結婚は勢いでしてしまったの。
後悔してるわ」
とおるは微笑んだ。
「ゆっくり考えなさいってお父さんも云ってくれたの」
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そんな俺の頬に、とおるは唇で触れてくれた。
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