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第4章
第5話 蔓草の病1
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*****まえがき*****
本日1回目の更新です。
**************
-1-
4月も終わろうかという春の石巨人亭。
数人の冒険者に交じり、ぼーっと依頼板を眺めるディーゴの姿があった。
昨日は稽古の日だったので若干疲れは残っているが、稽古も3回目ともなると手の抜きどkげふんげふん
もとい、力の入れ具合もなんとなくわかってきたうえに、稽古後のユニのマッサージも手馴れてきたので以前のように筋肉痛で身動きとれないほどではなくなってきていた。
「ディーゴ、なんか面白い依頼あったか?」
この店に出入りするようになって顔見知りになった、犬の獣人の冒険者が聞いてきた。
「んー、どれもパッとしない依頼ばかりだなぁ。俺としては緑小鬼あたりを蹴散らしたいんだが」
「お前さんのランクじゃそうだろうよ。俺たちゃこれを受けるぜ」
そう言って見せてきたのは、ランク5の依頼の商人の護衛だった。
何でも往復2週間の長旅らしい。報酬も相応の額が提示されてる。
「稼ぎたかったら、早いとこランクを上げるんだな」
「ああ、そうする」
犬の獣人冒険者が去っていったのを見送り、再び依頼板に目を戻す。
すると今度は下の方に、見たことのある名前の依頼を見つけた。
いつぞや、スラムの熱病の関係で調査を依頼してきたエルトールだ。
なんだ、またスラムでトラブルでもあったか、と見ると今度は薬の買い出しの依頼らしい。
相変わらず報酬は渋いが、まぁ知らぬ相手でもなし、それに先日の水精大亀の件で気分的に余裕はあるしで半分ボランティアの意味で話を聞いてみることにした。
「おおディーゴ、お前さんその依頼を受けてくれるのか?」
「まぁ知らない相手でもなし、話を聞いてみるか、ってね」
「そいつは助かる。なにせ大金持って移動する割に報酬が渋くてなぁ。迂闊な奴には任せられないんだよ」
「大金っていくらよ?」
「金貨10枚」
……それっぽっちか、と正直思ったが言わないでおく。まぁ百万円と考えれば少なくない額だしな。
先日に数千万相当の臨時収入があったせいか、どうも金銭感覚がおかしくなってる気がする。
「その程度とか思うなよ?ランク6の冒険者から見れば十分大金なんだからな。
お前さんが異常なだけで」
ありゃ、顔に出てたか。
「場所はハイレンの村ってところだが、ここから片道3日の所にある。まぁ往復で1週間だな」
「んで、報酬が半金貨3枚か?」
「諸経費込みでな」
「安っ。もうちっと交渉してくれよ」
「そうはいうがな……この先生の場合はあまり強く言えなくてな」
「弱みでも握られてんのか?」
「いや、例のスラムでの一件以来、この先生の紹介っていう依頼がぽつぽつ来ててな。依頼としちゃ小粒なんだが数が馬鹿にできんのだよ」
「お前さんが昨日受けた荷物運びの依頼も、あの先生の紹介で、ってきたもんだしな」
そういや、最近依頼板の前で考え込むことが増えたな、と思う。
以前は悩むまでもなく残り1つとか2つになった依頼を剥がして受けたものだが、ここのところはいくつかの依頼を比較検討して受けているからだ。
「ま、そういうわけだから、足りない分は宣伝分と思うんだな」
「へぃへぃ。それじゃ、話聞いてくるわ」
肩をすくめて出ていくディーゴを見送ると、亭主は流しの隅に置いてある小瓶に目を落とした。
スラムでの依頼の後、エルトールが協力の礼にともってきた軟膏だ。
「ちょいと染みるが、いい薬なんだよな」
あかぎれのほとんど治った手を見て、小さくわらう。
「裏町の医聖と言われた先代が亡くなってから足が遠のいてたが、なかなか頑張ってるじゃないか」
-2-
記憶を頼りにミットン診療所に向かう。
通りを抜け、路地を曲がると目指すミットン診療所が見えてきた。
無意識のうちに足を速めると、診療所の扉があき白衣を着たエルトールが姿を見せた。
エルトールは中に向けて何か言うと、こちらを向いて初めてディーゴに気が付いた。
「おやディーゴさん。どうされました……って、もしかして依頼の件ですか?」
「まぁそうなんだが……忙しいなら出直すか?」
エルトールの白衣はともかく、黒い診察鞄を下げているのを見て訊ねる。
「いや、別に急ぎじゃないんで大丈夫ですよ。じゃ、中へどうぞ」
と、先ほど閉めた扉を開けて中へと促した。
「兄さん、戻りました」
エルトールが奥に声をかけると、診察室と思しき扉が開いて白衣の男が姿を見せた。
「なんだエル、今出て行ったばかりじゃないか。っと、そちらの方?は?」
兄と呼ばれた七三メガネの男性が訊ねる。
「この間の熱病の件で協力してもらった、冒険者のディーゴさんです」
「ディーゴさん、こちらは私の兄のウェルシュです」
「初めまして、私はウェルシュ・ミットン。このエルトールの兄で診療所の所長をやってる」
「こりゃご丁寧に。俺はディーゴ。ランク6の駆け出し冒険者をやってる」
「ディーゴさんか、いつぞやの熱病では世話になったね。私からも礼を言わせてもらうよ」
「ディーゴで構わんよ。まぁ依頼でやったことだから気にしないでほしい」
「なら私もウェルシュで構わない」
なかなかフランクな医者のようだ。
「依頼とは言え、ディーゴのおかげで熱病の対策に目処がついたんだ。どうもありがとう。
じゃあ、患者を待たせているのでこれで失礼するが、依頼のことはエルから聞いてほしい。できれば受けて貰えると助かる」
ウェルシュはそういうと、診察室の中へと消えていった。
「じゃあ、もう一つの診察室に行きましょうか。ツグリさん、引き続き受付お願いします」
相変わらず自由な診療所だな、と思いながらエルトールの後に続く。
その後、エルトールに聞いた依頼の話は、石巨人の亭主に聞いた話の繰り返しになった。
ハイレンの村までの薬の買い出しで、片道3日の報酬は半金貨3枚とのこと。
で、薬の代金は2日分で金貨10枚。
薬九層倍とはたまに聞くが、末端価格百万円とは違法な白い粉も真っ青だな。
「ちなみにこの代金ですが、形見の品を質入れして作ったそうなので絶対に使い込まないでくださいね」
代金を渡すときにエルトールが念を押してきた。
「そんなに心配なら後払いで構わんぜ?」
「それは助かりますが、いいんですか?」
「そのくらいの金はある。他人の金を持ち運ぶリスクを考えたらどうってこたねぇよ」
「ああそうか、ディーゴさんは確か名誉市民でしたね。やはり金回りが違うんでしょうか」
まだ新しさの残る俺の装備を見てエルトールが呟く。
「それだけ貢献してきたつもりなんだがな。それに、名誉市民つっても周りが思うほど余裕はねーよ」
「まぁウチとしても安い報酬で受けてくれるディーゴさんのおかげで助かってますが」
「そんなこと言うと報酬釣りあげるぞコラ」
「すいません、失言でした」
頭を下げるエルトール。
「んで話は変わるが……熱病の結末はどうなった?」
「ああ、あれですか。あれはほぼ決着しました。川の水が原因だったんですよ」
「川の水?意外だな。大ネズミじゃなかったんだ」
「あれはあれで、感染の心配のない内臓の病気だったんですよ。開いてみたら内臓に腫瘍がありましてね、取り除いてやったらみるみる萎んで今は天井裏を元気に走り回ってます」
「いや、駆除しろよ」
「曲がりなりにも入院患者ですから、それを手にかけるのはねぇ……」
「俺にはわからん倫理観だな」
「まぁそれは置いといて、川の水なんですけどこれに微量の毒物が混じってました」
「それが原因か」
「はい。でも今は毒は混じってませんし、中和剤をまくようにしたので大丈夫です」
「そんなことまでしてんのか」
「まぁ、そんなことするもの好きなんてウチ以外にいませんし。病気の予防も医者の務めですよ」
「でも、なんで急に川の水に毒が混じるようになったんだ?」
「最近移り住んだ魔術師が、実験の廃液を処理もせずに捨ててたんですよ。中和剤はその魔術師に作らせてます」
「スラムでもいろいろあるんだな」
「表に出てこないだけですよ。ま、私らの手に余るようなことが起きたらまた依頼を出させてもらいますが」
「場所がスラムじゃ割増料金が欲しいところだな」
「前向きに検討します」
-3-
エルトールに依頼を受ける旨を伝えて、石巨人亭に戻る。
条件が少し変わったのを伝えるのと、保存食を買い込むためだ。
保存食は街の商店でも売っているが、冒険者の酒場で買った方が若干安く上がることを先輩冒険者に聞いたからだ。
素の報酬が少ない分、出費は抑えんとな。
「……というわけで、薬の代金はいったん俺が立て替えてから後払いにしてもらうことにした」
「そうか。そりゃいい判断だ。あの先生も喜んだろう」
「まぁね。それに他人の金を持ち運ぶってのは、意外と気疲れするからな」
「そりゃそうだ」
「それと、ここでも保存食が買えるって聞いたんだが」
「ああ。往復6日の1日予備として1週間分でいいか?」
「いや、前の分が残ってるし、初日はユニに弁当作らせるから3日分でいい。それと、切り干し芋のパセカと、干し果物、ナッツの詰め合わせなんてのもあるか?」
「どれもあるぞ」
「じゃあ、それも一袋ずつ。ついでに焼酒も一瓶頼む」
「あいよ。毎度あり」
「そうだ、最近出回り始めた着火棒なんてどうだ?少しくらい水に濡れても火が付く優れものだぞ?」
「もう持ってるよ」
「なんだ、情報が早いな」
「その作者とはちょっと縁があってな」
「何だ、知り合いか?」
「まぁね。その着火棒の改良でちょっと研究を頼んでる」
「なに、これよりもっと使い勝手がよくなるのか?」
「丈夫になって、使い捨てじゃなく、繰り返し使えるようになる」
「なんだその夢のような道具は。早く作ってくれよ」
「燃料がな、問題なんだ。燃料については門外漢なんでその魔術師に任せるしかない」
「そうかー。じゃあ、早く研究が進むよう祈るしかないか」
「ま、そういうこった」
……そういや、あの魔術師に依頼してもう半年だな。追加の研究費用もって様子伺いに行ってみるか。
などと考えていると、亭主が奥から保存食その他一式を持ってきた。
「はいよ。保存食3日分とパセカと干し果物、ナッツの詰め合わせ、それと焼酒だ。〆て銀貨5枚だな」
「了解。んじゃ、明日だけど行ってくるわ」
「おう、気を付けてな」
代金を支払い、石巨人亭を後にした。
*****あとがき*****
次回更新は19:00頃の予定です。
これまたタイトルと内容に心当たりのある方、やっぱり作者なので著作権云々は
スルーでお願いします。
本日1回目の更新です。
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4月も終わろうかという春の石巨人亭。
数人の冒険者に交じり、ぼーっと依頼板を眺めるディーゴの姿があった。
昨日は稽古の日だったので若干疲れは残っているが、稽古も3回目ともなると手の抜きどkげふんげふん
もとい、力の入れ具合もなんとなくわかってきたうえに、稽古後のユニのマッサージも手馴れてきたので以前のように筋肉痛で身動きとれないほどではなくなってきていた。
「ディーゴ、なんか面白い依頼あったか?」
この店に出入りするようになって顔見知りになった、犬の獣人の冒険者が聞いてきた。
「んー、どれもパッとしない依頼ばかりだなぁ。俺としては緑小鬼あたりを蹴散らしたいんだが」
「お前さんのランクじゃそうだろうよ。俺たちゃこれを受けるぜ」
そう言って見せてきたのは、ランク5の依頼の商人の護衛だった。
何でも往復2週間の長旅らしい。報酬も相応の額が提示されてる。
「稼ぎたかったら、早いとこランクを上げるんだな」
「ああ、そうする」
犬の獣人冒険者が去っていったのを見送り、再び依頼板に目を戻す。
すると今度は下の方に、見たことのある名前の依頼を見つけた。
いつぞや、スラムの熱病の関係で調査を依頼してきたエルトールだ。
なんだ、またスラムでトラブルでもあったか、と見ると今度は薬の買い出しの依頼らしい。
相変わらず報酬は渋いが、まぁ知らぬ相手でもなし、それに先日の水精大亀の件で気分的に余裕はあるしで半分ボランティアの意味で話を聞いてみることにした。
「おおディーゴ、お前さんその依頼を受けてくれるのか?」
「まぁ知らない相手でもなし、話を聞いてみるか、ってね」
「そいつは助かる。なにせ大金持って移動する割に報酬が渋くてなぁ。迂闊な奴には任せられないんだよ」
「大金っていくらよ?」
「金貨10枚」
……それっぽっちか、と正直思ったが言わないでおく。まぁ百万円と考えれば少なくない額だしな。
先日に数千万相当の臨時収入があったせいか、どうも金銭感覚がおかしくなってる気がする。
「その程度とか思うなよ?ランク6の冒険者から見れば十分大金なんだからな。
お前さんが異常なだけで」
ありゃ、顔に出てたか。
「場所はハイレンの村ってところだが、ここから片道3日の所にある。まぁ往復で1週間だな」
「んで、報酬が半金貨3枚か?」
「諸経費込みでな」
「安っ。もうちっと交渉してくれよ」
「そうはいうがな……この先生の場合はあまり強く言えなくてな」
「弱みでも握られてんのか?」
「いや、例のスラムでの一件以来、この先生の紹介っていう依頼がぽつぽつ来ててな。依頼としちゃ小粒なんだが数が馬鹿にできんのだよ」
「お前さんが昨日受けた荷物運びの依頼も、あの先生の紹介で、ってきたもんだしな」
そういや、最近依頼板の前で考え込むことが増えたな、と思う。
以前は悩むまでもなく残り1つとか2つになった依頼を剥がして受けたものだが、ここのところはいくつかの依頼を比較検討して受けているからだ。
「ま、そういうわけだから、足りない分は宣伝分と思うんだな」
「へぃへぃ。それじゃ、話聞いてくるわ」
肩をすくめて出ていくディーゴを見送ると、亭主は流しの隅に置いてある小瓶に目を落とした。
スラムでの依頼の後、エルトールが協力の礼にともってきた軟膏だ。
「ちょいと染みるが、いい薬なんだよな」
あかぎれのほとんど治った手を見て、小さくわらう。
「裏町の医聖と言われた先代が亡くなってから足が遠のいてたが、なかなか頑張ってるじゃないか」
-2-
記憶を頼りにミットン診療所に向かう。
通りを抜け、路地を曲がると目指すミットン診療所が見えてきた。
無意識のうちに足を速めると、診療所の扉があき白衣を着たエルトールが姿を見せた。
エルトールは中に向けて何か言うと、こちらを向いて初めてディーゴに気が付いた。
「おやディーゴさん。どうされました……って、もしかして依頼の件ですか?」
「まぁそうなんだが……忙しいなら出直すか?」
エルトールの白衣はともかく、黒い診察鞄を下げているのを見て訊ねる。
「いや、別に急ぎじゃないんで大丈夫ですよ。じゃ、中へどうぞ」
と、先ほど閉めた扉を開けて中へと促した。
「兄さん、戻りました」
エルトールが奥に声をかけると、診察室と思しき扉が開いて白衣の男が姿を見せた。
「なんだエル、今出て行ったばかりじゃないか。っと、そちらの方?は?」
兄と呼ばれた七三メガネの男性が訊ねる。
「この間の熱病の件で協力してもらった、冒険者のディーゴさんです」
「ディーゴさん、こちらは私の兄のウェルシュです」
「初めまして、私はウェルシュ・ミットン。このエルトールの兄で診療所の所長をやってる」
「こりゃご丁寧に。俺はディーゴ。ランク6の駆け出し冒険者をやってる」
「ディーゴさんか、いつぞやの熱病では世話になったね。私からも礼を言わせてもらうよ」
「ディーゴで構わんよ。まぁ依頼でやったことだから気にしないでほしい」
「なら私もウェルシュで構わない」
なかなかフランクな医者のようだ。
「依頼とは言え、ディーゴのおかげで熱病の対策に目処がついたんだ。どうもありがとう。
じゃあ、患者を待たせているのでこれで失礼するが、依頼のことはエルから聞いてほしい。できれば受けて貰えると助かる」
ウェルシュはそういうと、診察室の中へと消えていった。
「じゃあ、もう一つの診察室に行きましょうか。ツグリさん、引き続き受付お願いします」
相変わらず自由な診療所だな、と思いながらエルトールの後に続く。
その後、エルトールに聞いた依頼の話は、石巨人の亭主に聞いた話の繰り返しになった。
ハイレンの村までの薬の買い出しで、片道3日の報酬は半金貨3枚とのこと。
で、薬の代金は2日分で金貨10枚。
薬九層倍とはたまに聞くが、末端価格百万円とは違法な白い粉も真っ青だな。
「ちなみにこの代金ですが、形見の品を質入れして作ったそうなので絶対に使い込まないでくださいね」
代金を渡すときにエルトールが念を押してきた。
「そんなに心配なら後払いで構わんぜ?」
「それは助かりますが、いいんですか?」
「そのくらいの金はある。他人の金を持ち運ぶリスクを考えたらどうってこたねぇよ」
「ああそうか、ディーゴさんは確か名誉市民でしたね。やはり金回りが違うんでしょうか」
まだ新しさの残る俺の装備を見てエルトールが呟く。
「それだけ貢献してきたつもりなんだがな。それに、名誉市民つっても周りが思うほど余裕はねーよ」
「まぁウチとしても安い報酬で受けてくれるディーゴさんのおかげで助かってますが」
「そんなこと言うと報酬釣りあげるぞコラ」
「すいません、失言でした」
頭を下げるエルトール。
「んで話は変わるが……熱病の結末はどうなった?」
「ああ、あれですか。あれはほぼ決着しました。川の水が原因だったんですよ」
「川の水?意外だな。大ネズミじゃなかったんだ」
「あれはあれで、感染の心配のない内臓の病気だったんですよ。開いてみたら内臓に腫瘍がありましてね、取り除いてやったらみるみる萎んで今は天井裏を元気に走り回ってます」
「いや、駆除しろよ」
「曲がりなりにも入院患者ですから、それを手にかけるのはねぇ……」
「俺にはわからん倫理観だな」
「まぁそれは置いといて、川の水なんですけどこれに微量の毒物が混じってました」
「それが原因か」
「はい。でも今は毒は混じってませんし、中和剤をまくようにしたので大丈夫です」
「そんなことまでしてんのか」
「まぁ、そんなことするもの好きなんてウチ以外にいませんし。病気の予防も医者の務めですよ」
「でも、なんで急に川の水に毒が混じるようになったんだ?」
「最近移り住んだ魔術師が、実験の廃液を処理もせずに捨ててたんですよ。中和剤はその魔術師に作らせてます」
「スラムでもいろいろあるんだな」
「表に出てこないだけですよ。ま、私らの手に余るようなことが起きたらまた依頼を出させてもらいますが」
「場所がスラムじゃ割増料金が欲しいところだな」
「前向きに検討します」
-3-
エルトールに依頼を受ける旨を伝えて、石巨人亭に戻る。
条件が少し変わったのを伝えるのと、保存食を買い込むためだ。
保存食は街の商店でも売っているが、冒険者の酒場で買った方が若干安く上がることを先輩冒険者に聞いたからだ。
素の報酬が少ない分、出費は抑えんとな。
「……というわけで、薬の代金はいったん俺が立て替えてから後払いにしてもらうことにした」
「そうか。そりゃいい判断だ。あの先生も喜んだろう」
「まぁね。それに他人の金を持ち運ぶってのは、意外と気疲れするからな」
「そりゃそうだ」
「それと、ここでも保存食が買えるって聞いたんだが」
「ああ。往復6日の1日予備として1週間分でいいか?」
「いや、前の分が残ってるし、初日はユニに弁当作らせるから3日分でいい。それと、切り干し芋のパセカと、干し果物、ナッツの詰め合わせなんてのもあるか?」
「どれもあるぞ」
「じゃあ、それも一袋ずつ。ついでに焼酒も一瓶頼む」
「あいよ。毎度あり」
「そうだ、最近出回り始めた着火棒なんてどうだ?少しくらい水に濡れても火が付く優れものだぞ?」
「もう持ってるよ」
「なんだ、情報が早いな」
「その作者とはちょっと縁があってな」
「何だ、知り合いか?」
「まぁね。その着火棒の改良でちょっと研究を頼んでる」
「なに、これよりもっと使い勝手がよくなるのか?」
「丈夫になって、使い捨てじゃなく、繰り返し使えるようになる」
「なんだその夢のような道具は。早く作ってくれよ」
「燃料がな、問題なんだ。燃料については門外漢なんでその魔術師に任せるしかない」
「そうかー。じゃあ、早く研究が進むよう祈るしかないか」
「ま、そういうこった」
……そういや、あの魔術師に依頼してもう半年だな。追加の研究費用もって様子伺いに行ってみるか。
などと考えていると、亭主が奥から保存食その他一式を持ってきた。
「はいよ。保存食3日分とパセカと干し果物、ナッツの詰め合わせ、それと焼酒だ。〆て銀貨5枚だな」
「了解。んじゃ、明日だけど行ってくるわ」
「おう、気を付けてな」
代金を支払い、石巨人亭を後にした。
*****あとがき*****
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