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第9章

第2話 装備変更2

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―――まえがき――――――
新装備の話が続きます。
鎧は鎖帷子の板金鎧は見送り、大きな盾を注文した。次は部分鎧だ。
―――――――――――――

-1-
「篭手でしたら部分鎧の分類になりますので、こちらの棚になりますね」
 そう言われて案内されたところには、篭手の他に脛あてや兜も一緒に並んでいた。
「片腕だけの篭手の注文、てのもできるのかい?」
「ええ、できますよ。盾を使うお客さまの中にはそういう方も結構いらっしゃいます」
 あ、やっぱり俺と同じ考え方する人も結構いるのね。
 普通は篭手といえば両手セットで使うが、盾を同時に使う場合は片手が盾で隠れるので、そっちの腕は必要ないかなと思ったんだ。
 身に着ける装備は軽いに越したことはないからな。
 ただここで少し悩んだのが、二の腕の守りだ。俺の記憶によるイメージでは、肩と前腕はそれぞれ鎧と篭手で守られてはいるが、二の腕だけは守られていないケースが散見される。
 実際、今の俺の装備でもそうだ。二の腕の部分は鎧下だけの守りに頼っている。明確な理由があったわけではなく、なんとなくこうなった感じだ。
 ……でもまぁ、守っていれば安全ちゃー安全か。
 そんな理由で、二の腕も守る篭手を注文することにした。
 形としては、脇の下まである長い皮手袋に、半円形の筒を4つ(上腕部に2つと二の腕に2つ)縫い付けるようなものに収まった。
 ついでに肘の部分もお椀型の鉄板で保護し、手の甲の部分も鉄板を当ててある。指先まで鉄板で保護するのはナシにした。
 脇の下に来る部分はトグルボタンを取り付けて、後で作る鎧のアームホールに取り付けられるようにした。
 これは4~5日で出来るようだが、盾と一緒に取りに来ることに決めた。

 ついでに気になったのが脛あてというか、足元の守りだ。
 今はひざ下までの厚手の革ブーツだが、ここももうちょっと何とかしたい。
 今履いているブーツに追加する形の脛あてだけ、というのも考えたが、どうせ作るならとブーツと一体化したものに切り替えることにした。
 半円形の筒を2つ、革のブーツの脛部分に縫い付けた形で、爪先と足裏にも安全靴のように鉄板を仕込んでもらった。
 ついでに膝の部分も鉄板で保護するように注文を付ける。
 爪先にも飛び出し式のナイフを……なんて思ったが、それはさすがにやめておいた。
 こっちのほうは6~8日くらいかかるそうだ。

 万全を期すならば兜もあった方がいいのだが、人間とは頭の形が違うし頭上に耳ついてるしで、これは見送った。
 いや、注文すれば虎の頭の形にも対応してくれるだろうし、頭上に耳のついてる種族用の兜があるのも知っている。
 でもな、いい歳の男が猫耳ヘルメットを被るのはちと気恥ずかしいのよ。顔が虎そのものだったとしても、元日本人の感覚として。

 全部ひっくるめると少し予定が延びて2の月の5日あたりには出来上がるそうだが、できれば少し余裕を見て7日以降に来て欲しいと言われた。
 まぁ特に問題ないので了承しておく。代金は金貨2と半金貨8枚に及んだが、すべての品の手付として金貨1枚を払っておいた。

-2-
 次に向かったのがドワンゴ親方の防具屋。
「ちゃーっす」
「……らっしゃい。ん?お前さんは確か……?」
 どうやらドワンゴ親方は、俺のことをなんとなくでも覚えていたようだ。
「前にここで鎧を作ってもらったディーゴだ。また新しい鎧を頼みたいんだが」
「おぅ、そうだったか。前の鎧がダメになったか?」
「いや、鎧自体はまだ使えるし問題ない。ただ、もうちっと丈夫な鎧が必要になった」
「といわれても、ウチにあるのは革鎧が精々じゃぞ。魔獣の皮でも手に入れたか?」
「まだそんなの相手にしたことねぇよ」
 苦笑しながら硬革鎧のコーナーに近づく。
「前に作ったのは確か……軟革鎧に補強を施したものじゃったな。硬革鎧に変えるつもりか?」
 その様子を見ながらドワンゴ親方が尋ねてきた。
「一応それを考えてる。補強はしてもらうけどな」
 ドワンゴ親方に答えながら、並んでいる硬革鎧のデザインと機能性を見比べつつ良さそうなものを手に取った。
 袖なしだが肩当あり、腹部と腰回りは別パーツで可動域を確保しながらも腰下までをカバーする、まぁまぁ重装備っぽい鎧だ。
「うん、この鎧の形をベースに注文を頼もうか」
「承知した。前の鎧は持っとるか?」
「ああ、一応持ってきた」
 頷いてドワンゴ親方に持参した鎧を渡すと、親方は鎧の内部をしげしげと観察し始めた。
「……鎧を着ていて、特別どこが痛むとか当たるとかそういうのはなかったな?」
「だね。まぁ軟革鎧だし鎧下も着ているから、当たっていても別に痛くはないと思うんだが」
「確かにその通りじゃが、今度は革が固くなるからの。軟革鎧よりも気を使う必要が出てくるんじゃ。ほれ、この部分を見てみぃ」
 ドワンゴ親方に言われて持ってきた鎧の中を覗き込むと、確かに一部がこすれて変色していたりする部分があった。
「その部分が、普段身体に当たっている場所じゃな。まぁその辺はちと手を加えて着心地を良くしてやる。補強はこの鎧と同じやり方か?」
「いや、今度は帯金じゃなくて小札形式にしてくれ。手間かけさせて悪いが、鎧の内側に取り付けてくれると助かる。小札の形状は任せる」
「その意図は?」
「前の鎧と違ってパーツがいくつかに分かれているから、帯金じゃ具合が悪いんじゃないかってね。あと鎧の内側にするのは、錆防止も兼ねてる」
「ふん、まぁまぁ考えておるようじゃな。内側に小札を貼り付けるとなると結構な手間だが、錆を防ぐにはその方がいいしの」
 だよね。今の鎧は外側に帯金を巻き付けているんだけど、実はよく見ると帯金同士の境目にうっすら錆が浮いてきてんのよ。
 多分、雨とか返り血が帯金の内側と革の隙間に入り込んだんだと思う。日頃の手入れじゃ、表面の汚れは取れても内側の隙間までは掃除できんし。
「どれ、それじゃ寸法と重さを見てみるかの。前回と変わっておらんとは思うが、一応念のためじゃ」
 ドワンゴ親方がそう言ってカウンターから出てきた。
 前回と同じように、動きに影響の出なさそうな重さを見極め、身体の寸法をとった。
「……うむ、前回と同じじゃな。ではこれで作り始めるが、5日後にまた顔を出せ。調整をするでな」
「調整か……5日後に街にいるか確約ができないんだよな」
「鎧をあつらえてる間くらい休んだらどうじゃ。もしくは短期間の依頼に絞るとか。そこまでがっついて稼がねばならんのか?」
 半ば呆れたようにドワンゴ親方が呟く。
「いや、なんか指名依頼があるっぽくてさ、明日、話を聞くことになってんのよ。今の時点じゃ内容も期間も分かってねーんだ」
「なんじゃ、そういうことか。来られないならこられないで別に構わん。作業はその間止めておくからな」
「内容と期間が分かり次第、手紙か言伝を寄越すわ」
「うむ、そうしてくれ」
 メジャーや道具を片付けながらドワンゴ親方が頷いてみせた。
「鎧の内側に取り付ける小札の数と厚みはどうする?」
「どうするというと?」
「重要な部分に限定して厚みをつけるか、幾分薄くなってもいいから全体にまんべんなく取り付けるか、どちらかを選べという事じゃ」
「うーん……じゃあ、まんべんなくの方向で」
 やりあう相手が限定できるなら前者の方がいいんだろうが、冒険者の場合はナニとやりあうことになるか分からんからな。
 篭手と脛あても、厚みより面積を重視した以上は、鎧も統一した方が良かろう。
「あと、なるべく音を立てないような配置にしてくれると助かる。当初は金属鎧を考えていたんだが、動いた時の音がうるさすぎるから革鎧にしたんでね」
「了解じゃ。音を立てんというのが布鎧や革鎧の大きな利点の一つじゃからな。それを潰すようなことはせんよ」
 道具を片付け終えたドワンゴ親方が、再びカウンターの向こうに陣取る。
「さて、新しい鎧は聞いた内容で取り掛かるが、今のこの鎧はどうする?下取りに出すか?」
「下取りには出すけど、もうちっと待って欲しいな。先にも言ったが、控えている指名依頼の内容がまだわからん。それで使う可能性も高いんでね。新しい鎧と引き換えに下取りに出すと思う」
「うむ、わかった。まぁこの鎧に限らずお前さん用の鎧の場合は、下取りといってもたいした額は出せんがな」
「そうなの?」
「中古鎧として他の者に使いまわしができそうなら、まだいくらかは上積みできるが……お前さんの特注サイズでは分解して素材にするのが精々じゃ。
 素材にしても革の部分は使える所がかなり限られるし、補強の鉄の部分とてウチで使うのではなく鍛冶屋に回すことになるじゃろう」
「ああ、そういうことか。まぁ仕方ないやね」
 そう言われちゃ諦めるしかない。特注とはいえ、希少な素材を使ってるわけでもないし、俺が着たからとプレミアがつくわけでもないし。
 まぁ下取りの金がタバコ銭というか昼飯代の足しにでもなればそれでいいや。

「……そういやさ、革鎧の材料にするのに向いている魔物とか動物ってあるの?盾を作る時にそんな話になって、鉄蜥蜴の皮なんてのが出てきたんだが」
 希少な素材、という単語からちょっと気になったことを訊いてみた。
「鉄蜥蜴か……確かにあれは防具の素材として1級品なんじゃが、盾はともかく鎧に使うことはあまりないのぅ。鎧だと使う皮の量が増えるでな、傷の少ない皮でも2匹、普通なら3匹程度は必要なんじゃ。しかし鉄蜥蜴は存在が珍しい上、単独でいることがほとんどでな、まず、必要量を確保できんのじゃよ」
「なるほど」
「それとな、鉄蜥蜴に限らず爬虫類系の鱗皮はその見た目から、割と好き嫌いが出る素材でのぅ。盾に用いるくらいなら我慢は出来ても、鎧にするとなると嫌悪感を抱く者もそれなりに出てくるんじゃ」
 ……言われてみれば鱗皮の鎧ってのは実際に見たことないな。鱗状の金属片を使った鱗鎧はあるんだが。
「もっとも、竜の鱗を使った鎧だけは別格じゃがな」
「確かに。ちなみに卑竜の皮はダメなのか?」
「あれは防具には向かんよ。丈夫ではあるが、薄すぎるし固さもない。高級素材じゃが、鞄や財布、背嚢向けじゃな」
 ああ、まぁそれもそうか。空を飛ぶのがそんな重装甲なわけはないわな。竜と名がついてるからちっと期待したんだが。
「じゃあ、動物系でお勧めの皮革ってのは?」
「熊、犀、象系の魔物の皮革が向いておるな。ワシは扱ったことはないが、海に近いところでは海獣の皮革も鎧に使われるそうじゃ」
「ふーむ、でも海獣もそうだが、犀も象もこの辺りじゃ見たことないんだが?」
「犀と象なら南の方に行けばおるらしい。この近辺で手に入るのは、実質、熊くらいじゃの」
「六足熊じゃダメかね?」
「使えんことはないが、強度的には一般に使われておるモルモとさほど変わらんよ。最低でも火炎熊以上のものでないと、鎧に使う利点はないのぅ」
「マジか」
 ハードルの高さについ声が出た。

 火炎熊ってのは4~5トエムほどの大きさの真っ赤な毛皮の熊の魔物で、3級冒険者のパーティーが討伐を請け負うかなり強敵の部類に入る。
 焔を吐いたり魔法を使ってきたりはしないが、腕力や体力などの身体能力が高いレベルでまとまっているので、無策で正面から当たると3級冒険者たちでも相当の苦戦を強いられるらしい。
 ただ、魔法に対する抵抗力が若干低いので、あらかじめ状態異常にする魔法をかけて弱体化させてから挑むのがセオリーと、どこかで聞いたことがある。
 まぁ今の俺達ではまず依頼は回ってこない相手だ。

 そんなことを考えていると、ドワンゴ親方が尋ねてきた。
「お前さんの冒険者のランクは、今は?」
「ランク5だね。そろそろランク4に上がれそうな気がしないでもないんだが」
「なら、まだ一般的な装備で我慢するしかないの。装備に色気を出すにはちと早い。質の良い装備は使い手にも相応の技量があって初めて真価を発揮するもんじゃ。
 いずれそういう物を手にした時の為に、今は腕を磨いておけ」
「分かった。肝に銘じとくよ」
 ドワンゴ親方の忠告に頷いて答えると、新しい鎧の値段などを確認して手付を払い、店を出た。
 ちなみに鎧の値段は金貨3枚と半金貨6枚だそうだ。硬革鎧にしてはかなり高額だが、鉄の小札を大量に縫い付けるから仕方ないと割り切ることにしよう。
 これでも鎖帷子よりは安いんだし。
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