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3.淑女教育
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「そろそろエルシー様に淑女教育の家庭教師をお付けになってはいかがでしょうか?」
と言い出したのはラッセル侯爵家の家政婦長で奥向きをすべて取り仕切っているウェザビー夫人だった。
「天使のように美しいエルシー様が完璧な淑女のマナーを身につければ王室に嫁ぐことも夢ではありませんわ。」
そう言われるとジャクリーン夫人もその気になった。
「私の知り合いにかつて王宮勤めをしていて今は淑女教育の家庭教師をしているロリマー夫人という方がいます。
つい先日までハーディング伯爵家の令嬢の家庭教師をしていたのですが令嬢が婚約なさったので職を辞したそうです。とても評判のいい先生で引く手あまたなのですがエルシー様のお話しをしたところ家庭教師をしてもいいと言っていただきまして、いかがでしょうか?」
「そうね。お願いするわ。」
「かしこまりました。すぐに来ていただくように手配いたします。」
やがてエルシーの淑女教育の家庭教師としてロリマー夫人がやって来た。
「ロリマーと申します。どうぞよろしくお願いいたします。」
そう言ってお手本のような美しいカーテンシーを見せるロリマー夫人に侯爵夫妻は『さすが元王宮勤めだ。』と感心した。
その日からエルシーの淑女教育が始まった。
が、すぐに頓挫した。
なにせ今まで甘やかされてしつけらしいしつけもされてこなかったエルシーである。
淑女教育どころか平民の子どもでも知っている最低限のマナーさえ身についていないのだ。
ロリマー夫人からしたら野生動物を相手にしている気分だった。
「背筋を伸ばして!猫背はみっともないですわ。」
「ドタドタ足音を立てずに優雅に歩いてくださいませ!」
「音を立てずに食べてくださいませ!手づかみなんて動物のすることですわ!」
と、口うるさく注意するロリマー夫人にエルシーのイライラが爆発した。
「あんな口うるさいオバサン大嫌いよ!さっさと追い出してよ!
追い出してくれなきゃお父様もお母様も嫌いになるから!」
泣きわめくエルシーに侯爵夫妻もロリマー夫人を解雇するしかないと思った。
「ウェザビー夫人、悪いけどロリマー夫人を解雇してくれない?可愛いエルシーが淑女教育をやりたくないって泣くのよ。」
「奥様、残念ですがそれはできません。」
「あら?なぜなの?」
「ロリマー夫人とは3年契約で3年分のお給料を既に前払いしております。契約上こちらの都合で解雇する場合は支払った給料は戻ってきません。」
「なによそれ!どうしてそんな契約したのよ!」
「引く手あまたの先生ですからそういった契約でないと来てくれないのです。契約書にも書いてあったはずですが?」
面倒なことが嫌いなジャクリーン夫人はもちろん契約書なんて読んでいない。読まずにサインしたのだ。
「困ったわね。エルシーはどうしてもやりたくないって言ってるし、でも何もしていないのに3年分のお給料を払うなんて大損だわ。」
「それならばクラリス様に淑女教育を受けさせてはいかがでしょう?
華やかで美しいエルシー様と違ってクラリス様は地味で陰気ですから淑女教育でも受けさせて少しは見栄えを良くしないと嫁ぎ先も見つかりませんわ。
売れ残っていつまでもこの家に居座られても迷惑でございましょう?」
ジャクリーン夫人も確かにそうだと思った。
「そうね。では明日からはエルシーに代わってクラリスに淑女教育を受けさせなさい。」
「かしこまりました。」
ジャクリーン夫人から淑女教育の家庭教師がクラリスにつくことになったと聞いたエルシーは手を叩いて喜んだ。
わざわざメイド達と床みがきをしているクラリスのところに来て、
「あんなつまんない淑女教育から逃げられて本当によかったわ!
今度はお姉様があの口うるさいババァに怒られるのね。ざまぁ見ろだわ!」
そうイヤミを言って笑いながらバケツを蹴り倒していった。
それからクラリスはメイド達と働く合間にロリマー夫人の厳しい淑女教育も受けなくてはならなくなった。自由な時間など全くなくなって、一日が終わるとクタクタで気絶するように眠るのだった。
と言い出したのはラッセル侯爵家の家政婦長で奥向きをすべて取り仕切っているウェザビー夫人だった。
「天使のように美しいエルシー様が完璧な淑女のマナーを身につければ王室に嫁ぐことも夢ではありませんわ。」
そう言われるとジャクリーン夫人もその気になった。
「私の知り合いにかつて王宮勤めをしていて今は淑女教育の家庭教師をしているロリマー夫人という方がいます。
つい先日までハーディング伯爵家の令嬢の家庭教師をしていたのですが令嬢が婚約なさったので職を辞したそうです。とても評判のいい先生で引く手あまたなのですがエルシー様のお話しをしたところ家庭教師をしてもいいと言っていただきまして、いかがでしょうか?」
「そうね。お願いするわ。」
「かしこまりました。すぐに来ていただくように手配いたします。」
やがてエルシーの淑女教育の家庭教師としてロリマー夫人がやって来た。
「ロリマーと申します。どうぞよろしくお願いいたします。」
そう言ってお手本のような美しいカーテンシーを見せるロリマー夫人に侯爵夫妻は『さすが元王宮勤めだ。』と感心した。
その日からエルシーの淑女教育が始まった。
が、すぐに頓挫した。
なにせ今まで甘やかされてしつけらしいしつけもされてこなかったエルシーである。
淑女教育どころか平民の子どもでも知っている最低限のマナーさえ身についていないのだ。
ロリマー夫人からしたら野生動物を相手にしている気分だった。
「背筋を伸ばして!猫背はみっともないですわ。」
「ドタドタ足音を立てずに優雅に歩いてくださいませ!」
「音を立てずに食べてくださいませ!手づかみなんて動物のすることですわ!」
と、口うるさく注意するロリマー夫人にエルシーのイライラが爆発した。
「あんな口うるさいオバサン大嫌いよ!さっさと追い出してよ!
追い出してくれなきゃお父様もお母様も嫌いになるから!」
泣きわめくエルシーに侯爵夫妻もロリマー夫人を解雇するしかないと思った。
「ウェザビー夫人、悪いけどロリマー夫人を解雇してくれない?可愛いエルシーが淑女教育をやりたくないって泣くのよ。」
「奥様、残念ですがそれはできません。」
「あら?なぜなの?」
「ロリマー夫人とは3年契約で3年分のお給料を既に前払いしております。契約上こちらの都合で解雇する場合は支払った給料は戻ってきません。」
「なによそれ!どうしてそんな契約したのよ!」
「引く手あまたの先生ですからそういった契約でないと来てくれないのです。契約書にも書いてあったはずですが?」
面倒なことが嫌いなジャクリーン夫人はもちろん契約書なんて読んでいない。読まずにサインしたのだ。
「困ったわね。エルシーはどうしてもやりたくないって言ってるし、でも何もしていないのに3年分のお給料を払うなんて大損だわ。」
「それならばクラリス様に淑女教育を受けさせてはいかがでしょう?
華やかで美しいエルシー様と違ってクラリス様は地味で陰気ですから淑女教育でも受けさせて少しは見栄えを良くしないと嫁ぎ先も見つかりませんわ。
売れ残っていつまでもこの家に居座られても迷惑でございましょう?」
ジャクリーン夫人も確かにそうだと思った。
「そうね。では明日からはエルシーに代わってクラリスに淑女教育を受けさせなさい。」
「かしこまりました。」
ジャクリーン夫人から淑女教育の家庭教師がクラリスにつくことになったと聞いたエルシーは手を叩いて喜んだ。
わざわざメイド達と床みがきをしているクラリスのところに来て、
「あんなつまんない淑女教育から逃げられて本当によかったわ!
今度はお姉様があの口うるさいババァに怒られるのね。ざまぁ見ろだわ!」
そうイヤミを言って笑いながらバケツを蹴り倒していった。
それからクラリスはメイド達と働く合間にロリマー夫人の厳しい淑女教育も受けなくてはならなくなった。自由な時間など全くなくなって、一日が終わるとクタクタで気絶するように眠るのだった。
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