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2.ガードナー商会

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「離婚前に次のお相手が決まっているということは不貞をしておられたと?」

「だから何だ? 負け犬の遠吠えというやつか?」


 ステラは手に持っていた扇で口元を隠しルーシーを睨みつけてきた。

「無理やり割り込んできたのは其方ですわ。なのにわたくし達の事をとやかく言うなんて」



 リチャードとサミュエルは生粋の貴族至上主義者。今回の招待客に一代貴族がいないのは、この茶番劇の為だったのだろう。


(リチャードが今夜に限って夜会に参加しろって言ってきたのはこの為だったのね)

(ガードナー商会に不満を持っている方も何人もいらっしゃるし)



 ルーシーの実家は元々平民で、三代続いたガードナー商会の商会長をしている。
 扱っていたのは主に毛織物や小麦だったが、蔗糖しょとう没薬もつやくなどの珍しい香料や薬剤・調味料なども扱っていた。


 12年前に勃発した隣国との国境争いの時、ルーシーのヒューゴは辺境伯の求めに応じ大量の支援物資を送った。
 危うかった戦況は食料や薬などの物資の到着後一転、大勝利を収めたその功績からヒューゴはガードナー男爵位を授爵した。


 その後商会は貿易に力を入れ、毛織物や穀類の輸出と胡椒やガラス製品等の輸入で王都でも有数の商会に成り上がった。

 貴族からの買い取りや注文品の輸入なども取り扱っているが、彼らの多くはガードナー家の事を成り上がりだの成金だのと陰口を叩いている。


 強引な注文と無理な納期。理解不能な価格設定を押し付けてきたかと思えば、平気で代金を踏み倒そうとする。
 自分たちの都合を押し付け、独自の貴族ルールを展開する彼等には商会もほとほと手を焼いている。


 最近のヒューゴ・ガードナー男爵の口癖は、

「だから貴族は嫌いなんだよ!
爵位なんて欲しくもなかったのに無理やり押し付けといて。
ったくふざけんな!」



 資金繰りに困った貴族達はガードナー商会に美術品や貴金属などをこっそりと持ち込む。

 ガードナー商会に持ち込まれた品の鑑定は全てルーシーが引き受けているが、中には偽物が含まれている場合も多く顧客の希望する値をつけられない事は日常茶飯事。

 偽物やいわく付きの品を持ち込んだ貴族達は、

 希望通りの取引が出来なかった
 騙された
 安く買い叩かれた

と、ガードナー商会を逆恨みしている。


 リチャード達の狙いは大勢の前でルーシーに恥をかかせる事。


(離婚したいならもう少し穏便な方法を選ぶ事もできたでしょうに。
では、徹底的にやらせて貰うとしましょう)



「もう一度だけ確認させていただきます。本当に宜しいのですね?」

「しつこい! 離婚だと言っているだろうが」


「畏まりました。では早速実家に帰らせて頂きます」


 リチャードは意気揚々と宣言したが、この後とんでもない事態に陥る事にまだ気付いていなかった。

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