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33.驚愕のタウンハウスと捕獲されたオリバー

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 広間の隣の部屋には様々な料理が並び食事をする為のテーブルと椅子が準備されていた。

 一番端のテーブルを選んでワインや紅茶、軽い食事やお菓子を並べて4人で座った。

「ご存じですかしら、このチョコレートは赤ワインに合いますのよ。勿論どのチョコレートと赤ワインでもいいわけではありませんけれど、ミルクチョコレートと爽やかな甘口ワインだったりホワイトチョコレートとボルドーの貴腐ワインだったり」

「リリスティーナは本当にチョコレートがお好きなのね」

「ええ、もっと勉強してみたいと思ってますの。ウォルデン侯爵家ではワインも作られてるそうでお手紙で色々お話しして下さいましたの」

 エアリアスが近くに座っているので緊張感マックスのオリバーは話半分で相槌を打っていた。

「そう言えば本当に宜しいんですの? 何かあるのでしたらどうかご無理はなさらないでくださいね」

 穏やかに微笑んでいるはずの3人の女性の『何があるの?』と言う無言の威圧に負けたオリバーがぽつりぽつりと話しはじめた。

「大したことではない⋯⋯いや、うーん。私としてはそれほど大袈裟にすることでもないと思うんですが⋯⋯その、あの国には何人も⋯⋯いるんです。所謂決して逆らってはいけない凶暴⋯⋯厳しい方が。
で、その方の一人から⋯⋯まあ。色々ありまして、兄から訓練をするように言われてしまいました」

「で、逃げてこられましたの?」

「結果的にはそうなります。でも、言い訳になるかもしれないのですがウォルデン侯爵家の訓練は真面じゃないんです。よくあれで生きてられると思うほど強烈で、信じられますか? メイドや庭師に至るまでそれをこなす戦闘集団なんです。庭師はかなりの爺さんなんですよ、それなのに一瞬でいなくなったり片手を動かしたと思ったら吹っ飛ばされてるんです。
他の国がウォルデン侯爵家の兵力を恐れるのは当然なんです。それくらい人間離れしてますから」

(オリバー様の怯え方⋯⋯そんなに厳しいのかしら?)
(そんなにすごい訓練ならサミュエル王子を放り込めたら良いかも)


 オリバーの説明は大袈裟だが逃げ出したくなるほどの訓練内容なのは間違いない。

(エアリアスの為ならその訓練に戻るなんて結構良いんじゃないかしら)
(縄は不要。エアリアスの準備完了)


 リリスティーナとコレットはレミリアス王国行きがますます楽しみになったと顔を見合わせ、苦虫を噛み潰したような顔になったエアリアスは『はぁっ』とため息をついた。

(この方のような人を変態って言うんだと思うわ)





 ディーセル家の使用人は執事のセバスを含め全員で騎士団に出頭した。牢に入れられ一人ずつ取り調べを受けていたが、王宮のパーティーで王子達が行なった異例の謝罪が公となり罪状が加算されたのは言うまでもない。
 セバスは百叩きの上国外追放、女中頭は鞭打ちの後辺境の開拓地で終生下働きとされた。それ以外の従者・メイド・庭師・門番など使用人全員に数年の強制労働が課された。

 卒業式で王家に忖度し事実を有耶無耶にした学園長は自ら職を辞し学園主任は降格した。



 サミュエル王子とイライザは終日分刻みのスケジュールで教育のやり直しが行われた。特に社会生活を営む上での規範や王侯貴族としての役目・責任については繰り返し講義が行われた。
 過去の行動を洗い直し問題点と改善点をレポート提出する度に顔色が悪くなっていった。


 王子殿下達の謝罪は賢王と呼ばれ尊敬を集めていた国王への不審に繋がり議会では王制の廃止が声高に叫ばれるようになった。

『陛下と王妃が王子を野放しにしたせい』
『我が子だけを可愛がりその責を一人の令嬢に押し付けた王なんて』

『陛下の政策で国が豊かになったのに』
『陛下のお陰で我が国の税収がどれほど改善されたか考えるべき』

『今回の事は王の権限の濫用にあたる』
『陛下の赦しがなければあれほど酷い事態にはならなかった』



 リリスティーナ以外のポーレット伯爵家の面々はリリスティーナの枷になる事を厭い国に残ることにした。

『暫くこれからの国の様子を見ておきたいと思ってね。王子殿下達の謝罪を貴族達がどう受け止めるのかが気になるんだ。それに議会の動きもね。議会がリリスティーナを旗印に祭り上げるのを阻止しないといけない』

『お友達も寂しいって言って下さってるの。しょっちゅう遊びに行くつもりだし、いずれリリスティーナのところに行くと思うからその時は宜しくね』

『こっちの仕事に嫌気がさしたらレミリアスで職探ししようかな』


(リリスティーナは私達に罪悪感を持ってるから、一緒にいたら自由に羽ばたけないと思うんだ。
しかし、リリスティーナの言ってたのが現実になるとはとは驚きだったな)


 国王や王子を表立って攻めれば王家に阿る者が要らぬ口を挟んでくると考えたリリスティーナは、公に王や王子を非難する言葉は述べず全てを国王の采配に任せた。

『正攻法で陛下や王子を責めないでおけば王制廃止が取り沙汰されるようになるわ。陛下は善政をしいておられたけど王子に弄ばれた娘を持つ貴族には議員が何人もいるもの。彼らが王家や王子を引き摺り下ろす場を作れば良いと思う』


(暫くはエアリアスとコレットが一緒にいてくれるし、ウォルデン侯爵家のルーナ様の心強いお言葉もあるしね)

(私達が睨みを効かせて残ったクズを片付けましょう。全員いなくなったらまた言いたい放題のやつが出てくるはずですから)



 両親と弟の気遣いに気付いたがリリスティーナは彼らに何も言わなかった。

(お父様達はわたくしに罪悪感を持っておられるから一緒にいたらきっといつまでも心配してしまわれる。だから、お側にいるよりも堂々と胸を張っていられる生き方を見つける方が安心してくださるはずだわ)





 2週間かけてレミリアス王国の首都にたどり着いたリリスティーナ達がウォルデン侯爵家のタウンハウスを見て絶句したり、後ろに隠れていたオリバーがあっという間に連れ去られた早業に度肝を抜かれたのは長年の笑い話になっている。

「ようこそおいでくださいました。ルーナ・ウォルデンと申します」

「オリバーの捕獲にご助力下さりありがとうございます。執事と護衛と監視役を兼任しております夫のマシュー・ウォルデンです。
長旅でお疲れのことと存じます。先ずはお部屋へご案内いたします」


 ウォルデン侯爵家のはグレーニア公爵家の豪奢な屋敷を見慣れている3人でさえも驚くほどの素晴らしい屋敷だった。控えめな色調と上品な家具、あちこちに置かれた観葉植物が豪華さに穏やかな気品を演出している。

 何気なく飾られた絵画やタペストリーは間違いなく有名な画家や職人の手によるもので、アンティークな家具の彫刻も素晴らしい。

(これをタウンハウスって言うの?)


 案内された部屋もそれぞれ趣向を凝らしてあり王宮の客室でもこれほどの部屋はないのではないのではないかと思われる内装だった。
 各部屋付きのメイドも品が良くオリバーの話にあったような戦闘メイドには見えなかった。


「お疲れのようでしたらお食事はお部屋にお持ちいたします。もし宜しければお客様3名様のみで食堂をご利用いただくこともできますが、いかが致しましょうか?」

「相談してからのお返事でも構わないかしら」

「勿論でございます。お茶をお持ちしますので暫くごゆっくりとお過ごしくださいませ」

(凄すぎて、落ち着かないわ)

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